9月のテーマは「おばあちゃんの絵本」【広松由希子の今月の絵本・34】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
9月のテーマは「おばあちゃんの絵本」
やさしかったり、おっかなかったり、
元気だったり、元気がなかったり、
ひねくれていたり、かわいかったり。
絵本には、個性豊かで面白いおばあちゃんが
本当にいっぱい住んでいます。
何人かに登場してもらいましょう。
平均寿命世界一、日本のおばあちゃんは、元気いっぱい。
なかでも、「ばばばあちゃん」のパワフルな行動力には感嘆します。
『いそがしいよる』は、夜空を見上げるシーンから始まります。
「なんて おほしさんが きれいなんだろう」
ここでうっとりするだけなら、普通のおばあさんだけど、
ばばばあちゃんは、思いついたら、即行動!
家の中にいるのは惜しいと、ゆりいすを外に持ち出します。
ゆりいすで気持ちよく揺られていたら、
ますます家に入るのは惜しくなり、ベッドと寝具も持ち出します。
星空に浮かんでいる気分で横になると、
「ねるまえの あつい おちゃ」がほしくなり、お茶の道具やテーブルも持ち出します。
それから、それから……。
かくして、庭は家財道具でいっぱい。
とんでもなくいそがしい夜に!
自分の欲望に正直に、とことんやるばばばあちゃん。
やっているうちに、最初の目的を忘れていたりもしますが、
ぐーぐー屈託のない寝顔がすてき。
憧れの行動派のおばあちゃんです。
『いそがしいよる』
さとうわきこ/作・絵 福音館書店
本体800円+税 1976
一方、全然いそがしくないおばあちゃんも、大いなる憧れ。
『おばあちゃんの時計』のおばあちゃんの家には、
動かなくなった振り子時計がひとつあるだけ。
ほかに「時計」はたくさんあるから、とおばあちゃんは孫に語ります。
たとえば
秒を刻むのは心臓の音、すてきなことがあると早くなる時計。
一分は思ったことを口にする間。
一時間はお風呂のお湯が冷める時間。
朝夕、曜日、月、季節、人の一生も、
それぞれの暮らしや自然の変化に添って計れます。
そうして、
「星たちは、時っていうものが、
時計のなかになんかおさまりきれないって、おしえてくれてる」
おばあちゃんがたどり着いた、時計のいらない境地。
自然と気持ちに添った時間のあり方で
穏やかに老いを受けとめていけるなら、理想かも。
ばたばた慌ただしい毎日、
今はそこまで至らなくても、
時々こんな絵本を開く、心のゆとりをもちたいですね。
まろやかな絵も、気持ちをゆったりさせてくれます。
『おばあちゃんの時計』
ジェラルディン・マッコーリーン/文
スティーブン・ランバート/絵 まつかわまゆみ/訳
評論社 本体1300円+税 2002
大好きなおばあちゃんは、
ひとりじめしたくなることもあります。
『だれのおばあちゃん?』の主人公「こぐまさん」は、
自分より大きないとこをライバル視。
「いとこだけの おばあちゃんじゃ ないのに」
「おおきいけど かわいくないもん。
いとこなんか だいっきらい」
でもね、おばあちゃんに誘われて
3人でクッキー作りを楽しむうちに、
だんだん仲間意識が芽生えてきます。
具合が悪くなって「ゲボ」しちゃった、いとこに同情心もわいてきて……。
ヘンテコに愛らしい絵で、ダメダメな部分もそのままに、
子どものいる暮らしをゆかいに描く
スウェーデンのシリーズ「やんちゃっ子の絵本」より。
取り合いになるのも納得の、すてきなおばあちゃん。
かけっこが速くて、遊びがじょうずなだけじゃなく、
すねていたり、言うこと聞かなかったりする子どもたちへの
自然体で余裕の対応に、ほれぼれしちゃうな。
『だれのおばあちゃん?』
スティーナ・ヴィルセン/作
ヘレンハルメ美穂/訳
クレヨンハウス 本体1000円+税 2011
さて、最後は、この1冊。
『だってだっての おばあさん』。
だってだって……好きなんだもの。
小さな家に住んでいるのは、
98歳のおばあさんと、元気な男のねこ。
おばあさんは、いつもおばあさんらしくしていました。
ねこが魚釣りに誘っても、
「だって わたしは 98だもの、98の おばあさんが
さかなつりを したら にあわないわ」
という具合……99の誕生日まではね。
その日、おばあさんは、
おばあさんらしく上手にケーキを焼き、
ねこが99本のろうそくを買って帰ってくるのを待っていました。
ところが、ねこは川にろうそくを落としてしまって、
残ったのは、5本きり。
がっかりしたおばあさんは、
「5ほんだって ないより ましさ」
と、5本のろうそくをバースデーケーキにたてて、お祝いするのですが……
おかげで、この日からおばあさんは、5歳ということに!
「だって わたしは 5さいだもの……、あら そうね!
5さいだから、さかなつりに いくわ」
なんでもやりたい5歳になって、
元気が心身にみなぎってくるおばあさん。
「5さいって なんだか ちょうちょみたい」
「5さいって なんだか とりみたい」
読んでいるほうも、
「だって」の呪縛から放たれて、
ゆかい爽快な読後感。
『だってだってのおばあさん』
佐野洋子/作・絵 フレーベル館
本体1200円+税 1975/新装版2009
絵本のなかには、まだまだすてきな
おばあちゃんが、いっぱい。
「だって、おばあさんは一番たくさん子どもの心を持っているんですもの」
とは、『だってだってのおばあさん』のあとがきより、佐野洋子さんの言葉。
年々放たれて、自由なおばあちゃんになりたいものです。
ビバ!エイジング!
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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