2月のテーマは「ゆきだるまの絵本」【広松由希子の今月の絵本・70】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
2月のテーマは「ゆきだるまの絵本」
今年は東京でも大雪が降り、姿かたちもさまざまな雪だるまを、あちこちに見かけました。
雪だるまって、作り手の個性が出ますよね。
絵本のなかでも、景色の中にたたずむものから、走って飛んで転げ回るアクティブなやつまで、それぞれ個性を発揮しています。
小さな子どもたちの記憶も消えないうちに、雪だるまの絵本をいっしょに楽しみましょう。
最初は、みんな大好き「だるまちゃん」シリーズの3作目『だるまちゃんとうさぎちゃん』を。
1960年代の「てんぐちゃん」「かみなりちゃん」から始まって現在も連綿と続く、ユニークなキャラクターが印象的なシリーズ。
でも、なぜかこの本の相方だけが、れっきとした「うさぎ」なんですね。
物語は、だるまちゃんとだるまこちゃん、だるまの兄妹が、雪だるまをこさえるところから始まります(すでに十分シュールな情景)。
ゆきだるまの目にしようとしたリンゴが転げ落ちてしまい、だるまちゃんは雪原をスキーで追いかけます。
そこで転がるリンゴを止めてくれたのが、うさぎちゃんとうさぎこちゃんでした(ネーミングもたまりません)。
「どうもありがとう。このりんごが なくなったら たんげさぜんの ゆきだるまに なっちゃうところだった」というと、
「たんげさぜんって なあに?」「ゆきだるまって なあに?」
無邪気なうさぎちゃんたちの質問攻めにあい、だるまちゃんたちは遊びながら説明してみせます。
ふつうの雪だるまから、丹下左膳の雪だるまにしたり、うさぎの雪だるまに変身させたり。お盆の上に雪をのせ、常緑樹のの葉っぱや実をあしらってつくる、雪うさぎのバリエーションにも、うさぎちゃんたちは大喜び。
りんごやナプキン、新聞紙を使った室内遊びも加わって、昭和がにおい立つ冬の遊びが次々繰り出される物語絵本。
最後の1行まで読者を遊ばせてしまう、さすが遊びの博士、かこさとしさんです。
幼くてもお行儀のよいうさぎちゃんたちと遊ぶ、だるまちゃんたちのお兄さん・お姉さんぶりも微笑ましい。
『だるまちゃんとうさぎちゃん』
加古里子/作・絵 福音館書店
本体900円+税 1972
「しずかなよるに ふうわり おっとり」舞い降りてくる雪。
『しろいゆき あかるいゆき』は、雪が降り出す前の気配から始まります。
粉雪が降り始め、だんだんどんどん本降りになって、なにもかもすっぽり包まれて……やんで、とけて、春が来るまで。
大人たちの生活、子どもたちの気持ち、動物たちの行動。移り変わる雪の情景を、視点を変えながら時間を追って見ていく絵本です。
大人たちはそれぞれ、雲行きや、空気のにおいや、爪先の痛みに、雪の訪れを察します。
長靴をはき、雪かきシャベルを取り出し、コートのボタンを止め、せきどめの買い置きを確かめます。
自然の変化にそった生活のなかに、詩情とユーモアが宿ります。
子どもたちにとって、雪だるまは、やっぱりこの季節の最重要人物でしょう。
文では多くは語られませんが、表紙から始まって、扉の対向ページの絵でも存在感を放っていますし、雪がつもったら、もちろん作らずにはいられませんよね。
おひさまが出て、地面の雪がとけても、大きな雪だるまは最後までがんばって残りますが、やがて静かに姿を消していきます。
グレーの濃淡に、赤と黄色で、雪の白さと明るさが映えます。
アメリカで原書が出たのは1947年。
最初のひとひらから雪どけまでの季節の変化とあわせ、雪だるまがもつよろこびやさびしさを今も共有できるって、うれしい。
『しろいゆき あかるいゆき』
アルビン・トレッセルト/作 ロジャー・デュボアザン/絵 えくにかおり/訳 BL出版
本体1300円+税 2000
アメリカのミッドセンチュリー(20世紀半ば)の絵本には、あたたかくてユーモラスな物語が多いですね。
『どろんこハリー』で日本でもおなじみのジオンとグレアム夫妻の絵本にも、こんな楽しいのがありました。
南半球の話かと思ってしまいそうなタイトルの『なつのゆきだるま』です。
冬の最後の雪の日に、ヘンリーとお兄さんのピートは、庭で小さな雪だるまをつくります。
家に入ってからも、月明かりに照らされた雪だるまを何度も見下ろしては、うれしそう。
ところが、ベッドに入って寝ようとする頃、弟のヘンリーが泣きだします。「おつきさまが、ゆきだるまを とかしちゃうよ」
月が雪だるまをとかすわけないから「ばかいうな」って相手にしないピート。
でもヘンリーは、ひとりで夜の庭へ出て、雪だるまを迎えにいきます。
「ばかいうな」って、いつも言われっぱなしの弟の、小さな反逆と行動力。
雪だるまとの共謀。「ふたりで、ぼくが ばかじゃないって おしえてやろうね」
夏まで抱えた「ふたり」の秘密は、華々しいエンディングを迎えるのでした……!
雪だるまといっしょの季節をまたいだ数カ月の間に、ぐっと成長する弟と、お兄ちゃん。
なりゆきを見守る両親との距離感も、心地よい温度です。
『なつのゆきだるま』
G. ジオン/文 M. B. グレアム/絵 ふしみみさを/訳 岩波書店
本体840円+税 2003
誰かにつくられ、じっとして、春になれば消えてゆくはかない存在。
たいていの雪だるまはそんな運命を受け入れているように見えますが、実は自ら動き出し、とんでもない冒険をしちゃうのもいます。
『ゆきだるまくん、どこいくの?』のゆきだるまはピカイチ。冬季オリンピックさながらのパフォーマンスに興奮します。
男の子がひとりで庭につくった雪だるま。お昼ご飯に呼ばれて男の子が家に入ってしまうと、「きょろっ。」
雪だるまがあたりを見回し、スキー靴を発見します。
「ぼく、スキー、やってみたかったんだ」と歩き出し、スキーをこっそり借りて、装着。
えっちら山の頂上まで登っていくと「さあ、すべるぞ!」
「それっ」威勢よく滑りだしたのはいいけれど、「わわわわ」「どいて、どいて」
ドシン! とぶつかってしまった相手は、クマ! 抱き合ったまま「ひゃー、がけだー!」
森を抜け、村を抜け、街へ来て、スケートボードに乗り換えて……どこまで行っちゃうの?
めくるめく展開。ゆきだるまくんといっしょに体験する、96ページの大冒険。
ページ数は多くても、アクションを簡潔に伝える絵と文のスピードにのって、どんどんめくらずにはいられません。
読み終わったら、ふーっと満足。絵本から幼年童話への橋渡しにも、うれしい一冊ですね。
赤インクを二度刷りしたという、真っ赤な表紙が興奮を呼び戻し、また読みたくなることまちがいなし。
『ゆきだるまくん、どこいくの?』
たむらしげる/作・絵 偕成社
本体1000円+税 2007
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昔も今も変わらない冬のともだち。
雪だるまたちの絵本といっしょに、あとひといき、冬をのりきりましょう。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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