2013年11月11日

10月のテーマは「くいしんぼうの絵本」【広松由希子の今月の絵本・24】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

10月のテーマは「くいしんぼうの絵本」

なんでもおいしい季節。
「食欲の秋」を言い訳に
自分を甘やかして、もりもり食べ過ぎては、
はっと気づき、落ち込むことしばし……

でも、だいじょうぶ! 上には上がいるもの!!
と、この際、さらに自分を甘やかしてしまいましょう。
すてきな食いしん坊たちの絵本を紹介しますよ。

24_

 

まずは、食欲の代表選手。
ご存知ベストセラー、『はらぺこあおむし』。

「ちっぽけ」なくせして、食べ放題。
月曜日のりんご1個から始まって、土曜日には、
チョコレートケーキ、アイスクリーム、ピクルス、チーズ、サラミ、
ぺろぺろキャンディー、さくらんぼパイ、ソーセージ、カップケーキにすいか!

食べた跡の穴ぼこの空いた、食べ物がずらっと並ぶシーンは圧巻です。
おなかが痛くてベソかく姿、他人とは思えなくて、好き♪

薄紙に自らペイントした色も模様もとりどりの紙を、
コラージュして作った絵は、力強くて味わい深く、
エリック・カール画法として確立されていますね。

画家にならなければ、コックになっていたという
カールさん自身も、
おいしいものが大好きな食いしん坊らしいですよ。

086はらぺこあおむし
『はらぺこあおむし』
エリック・カール/作 もりひさし/訳
偕成社 定価1260円 1976年

 

 

もう一匹、怪しい「あおむし」を。
蝶の幼虫のあおむしでなく、8本足の得体の知れない生物「青虫」です。
この『くいしんぼうのあおむしくん』の食いしん坊っぷり、ハンパないです。

ある日、まさおは、自分の帽子を食べている
空色の小さな虫に気づきました。

「ごめんね、ぼく……くいしんぼうの あおむしなの」

叱られると、しょんぼりしちゃう、弱気な顔と風貌なのに、
おなかがすくと、手に負えない。
食べてはどんどん大きくなって、
3日目には、絵本もおもちゃもクレヨンも、
やがてパパもママも町まるごと全部……!

う、う~ん。とめどない食欲。
「胃袋が宇宙」とは、このことです。

驚きっぱなしの展開ですが、
最後のどんでん返しには、呆然。
桁外れの食いしん坊絵本です。

aomushi

『くいしんぼうのあおむしくん』
槇ひろし/作 前川欣三/画
福音館書店 定価840円 2000年

 

 

さて、宇宙から、地上の牧場に戻りましょう。
『くいしんぼうのはなこさん』は、
今は亡き、石井桃子さんと中谷千代子さんの最高のコラボ。

わたしも子どもの頃、大好きだった一冊ですが、
「かおの まんなかに まるい はなが
にゅっ と つきでて」いたから、
「はなこ」という名前がついたなんて、忘れていましたよ。
(「はな」って、そっちかい! と、あらためて……)

よく覚えているのは、
はなこがたいそう「わがまま」だったこと。
ごちそうばかり食べていたから、むくむく大きくなって、
ぴかぴかきれいになって、とびきり強くなって、
ますますちやほやされるようになって、
ますますいばりんぼになったこと。

「みんな ちょっと おまち!」
と、水浴びも木陰も大量のさつま芋やかぼちゃの山も、独り占めしていたこと。

そして、目に焼き付いて忘れられないのは、
食べ過ぎたあげくの自業自得、破裂寸前にふくらんだ、はなこの哀れな姿。
「うもおう……」と、か細く鳴く声に、
いったいどうなっちゃうの!?  と恐怖をおぼえ、
食べ過ぎってこわい! しみじみ感じ入りました。
(全然こりてないですけどね)

『かばくん』など数々の動物絵本で知られる中谷さん。
紫の輪郭でとらえた牛たちのフォルム。
ユーモラスであたたかく、詩情をたたえた動物の表情は、
この画家ならでは!
 

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『くいしんぼうのはなこさん』
石井桃子/文 中谷千代子/絵
福音館書店 定価1155円 1965年
 

 

いつの時代も食いしん坊はいたようですが、
敗戦後、間もない時代の飢餓感は、
今の私たちとは比べものにならなかったでしょう。

『山ねこせんちょう』は、もとは昭和22〜23年、
粗末な紙の児童雑誌に掲載された作品。
何十年もの月日を経て、一冊にまとめられた絵本なのです。
とびきりおかしな食いしん坊の「絵ばなし」は、
おなかをすかせた子どもたちを、抱腹させたにちがいありません。

「やれやれ、やっと ぬいあがった」
赤い山ねこが、おなかの縫い目をさすって立ち上がる、
いきなりシュールなシーンから始まります。
大食いで、おなかの皮がやぶけてしまった主人公。
その名も「ボンシイク」。

13年13カ月13時間も一心に縫い続けていたから、
おなかが空き過ぎ、
縫い目隠しにカラフルな腹巻きをして、旅に出ます。

電車に乗れば、
「ずいぶん こんでいる。いっぴきくらい たべたって、わからないだろう」
親切にされれば、
「たいへん せわになった。おれいに たべてやろうか」
文も絵も、ディテールがいちいちブラックでおかしい。

やがて船長になったボンシイクでしたが、
嵐に飲み込まれ、二転三転、七転八倒、転々と大冒険を繰り広げます。
これまた、地球規模のクイシンボの話。

とび抜けてナンセンスなお話を
みごとに絵にした、戦後の天才童画家・茂田井武。
不思議な後味のハッピーエンドに、うなります。
読んであげれば、4、5歳から、100歳の大人までたっぷり楽しめますよ。

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『山ねこせんちょう』
柴野民三/文 茂田井武/絵
銀貨社 定価1575円 2000年


うーん。
美味しいくいしんぼう絵本で、おなかいっぱい!
いや、それはまた別腹……ですよね。
ボナペティ!

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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