おうち時間が増えて、読み聞かせは変わった? 絵本作家・シゲタサヤカさんの場合【うちの読み聞かせ・12】
気になるあのママ・パパは、絵本をどんなふうに楽しんでいるの? 親子の読み聞かせについてお話をうかがう連載。第12回は、絵本作家のシゲタサヤカさんです。最新作『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』が第12回MOE絵本屋さん大賞2019 第3位入賞されたシゲタさん、5歳の女の子と1歳の男の子のママとして、どんな読み聞かせをされているかうかがいました。
読み聞かせには、育児の時間がひもづけられる
――シゲタさんは、いつごろからどんなふうに絵本の読み聞かせをされていますか?
初めての読み聞かせは上の子が2か月の時でした。出産祝いにいただいた絵本を試しに開いて見せたところ、たちまち笑顔になったんです! この時期の赤ちゃんはまだ視力も弱いと聞いていたので「えー! 分かるの?」とビックリしたのを覚えています。その後も色々読み聞かせしてみたのですが、必ず笑う絵本と、全く笑わない絵本があるのにも驚きました。どんなに小さくても好みがあるんですね。
1歳を過ぎた頃からは、寝る前に読み聞かせをするようになりました。「ねんねの絵本どれにする?」と聞いて、本人が持って来たものを3冊くらい読みます。読んでいる途中で私が寝落ちしてしまい「おきて! ちゃんとよんで!」と起こされることもしばしばで(笑)。
下の子の誕生後は忙しくてなかなかゆっくり読んであげられない時期もありましたが、最近やっと寝る前に2人いっぺんに読んであげられるようになりました。「こっちを先に読んで!」「こっちー!」とケンカもしょっちゅうで大変だけど、それはそれで面白いです。
――読み聞かせの絵本はどうやって選びますか?
ほとんど子どもにおまかせです。「またこの絵本? すっかりハマってるね」とか「今日ホットケーキ食べたもんね」とか……その日あった出来事や子どもの心模様が反映されているので毎回楽しみです。とてもじゃないけど読みきれない量の絵本をヨイショヨイショと抱えて持って来ることもあり、かわいいやら、おかしいやら……。
―― 読み聞かせをするときに、なにか決めていることはありますか?
なるべく私の好みを押し付けないようにしています。 私自身が思い入れのある絵本を読んで「つまんない」と言われた時、ついつい「えー! なんで? 面白いのにー! このページとかさ、もう1回よく見てよ!」なんて言いたくなりますが、というか、最初の頃は言っちゃってましたが(笑)、「そういえば、赤ちゃんの頃からしっかり自分の好みがあったもんね……」と思い直すようになりました。でも時間をおいて再び読んであげたら反応が良かったり……なんてこともあるので、これからも押し付けにならない程度のオススメはしていきたいです。
―― 読み聞かせをしていてよかったなと思うことはありますか?
その時その時に読んでいた絵本に、育児の記憶がひもづけられるのが良いですね。 出産前は「我が子に読んであげた読み聞かせ日記をつけたいなあ……」なんて夢見ていましたが、いざ育児がスタートしてみると、慌ただしくてそんな余裕は全くありませんでした。それでも、よく読んであげていた絵本は表紙を見るだけで当時の思い出やエピソードがよみがえります。 まるで絵本そのものが家族のアルバムになっていくような感覚です。
―― 読み聞かせをすることが、ご自身の絵本づくりに影響を与えていると思うことはありますか?
ストーリーや絵柄などに大きな変化は出ていませんが「読み聞かせ中の子どもの様子」をリアルに思い描けるようになったのは大きいです。「ここで笑ってくれるかな?」とか「『もう1かい!』って言ってもらえるかな?」とか……。今まで以上に小さな読者の存在を身近に感じられるようになり、絵本づくりが一段と楽しくなりました。
シゲタさんの思い出の読み聞かせ絵本3冊
――それではここで、シゲタさんの思い出の読み聞かせ絵本3冊を教えてください。
『せみくんいよいよこんやです』
(工藤ノリコ 作/教育画劇)
幼虫のセミくんが住む地下の「おうち」の場面が特にお気に入りです。 室内の家具や、壁に飾られている絵や、置いてあるおもちゃや本などなど……1つ1つじっくり「これはなんだろうー?」と眺めています。
途中でセミくんが成虫になるために「さようなら おうち、ありがとう」と言って出て行くのですが、ある日突然、上の子がそのページで「おうち出て行きたくない……」と大号泣! どうやら「おうち」に愛着が湧きすぎてしまったようです。こんなに感情移入しながら絵本を読むようになったのか……と成長を感じました。まだストーリーは理解できない下の子も大好きで、読んでもらいたい時は「いよいよ! いよいよ!」と言いながら持って来ます。
『きょうのおやつは』
(わたなべちなつ 作/福音館書店)
子どもが2歳の頃からホットケーキを一緒に作るようになりました。卵を割るところから生地をよく混ぜ、フライパンで焼いてシロップをかけ「いただきまーす!」まで、全ての工程が子どもにとっては一大イベントで、毎回大盛り上がりでした。ちょうどそんな頃によく読み聞かせをしていた絵本です。
画期的な仕組みで、あのワクワクする工程が完全再現されています。寝る前に布団の中で子どもと一体何枚のホットケーキを焼いたことか(笑)! 読み聞かせの途中で「わあー、いいにおいがしてきた!」とか「焼けてきたねー」など会話もはずみます。ちゃんと2人分完成するので、一緒におなかいっぱい食べて「おいしかったね、ごちそうさまー」で電気を消しておやすみなさいができる、という意味でも、もうパーフェクトです!
『おいしいぼうし』
(シゲタサヤカ 作/教育画劇))
手前味噌でスミマセン。読み聞かせをしていて、初めて子どもが大笑いしたのがこの絵本でした。 おじいさんとおばあさんの2人の声のかけあいで「おい!」「しい!」とセリフを言う場面です。実はこのセリフは制作中に編集者さんと「どうすれば面白くなるか……」と、たくさん話し合いながら悩んで決めたものでした。 涙を浮かべてゲラゲラ笑う子どもの横で、私は密かに「やったー!」と感動していました。
―― ところで、シゲタさんご自身が子どもの頃の、読み聞かせの思い出などありますか?
私も母もそれぞれ絵本好きですが、絵本を読み聞かせしてもらった記憶はありません。というのも、実家の読み聞かせは全自動機械式で、市販のカセットテープにお任せだったんです(笑)。 寝る時間になるとラジカセをスイッチオン! たちまち『ずいずいずっころばし』の曲とともに、昔話がスタートします。絵本じゃないからビジュアルは一切ナシで、暗闇で1人で目を閉じて頭の中で場面を想像しながら聴くのですが、これがもう子ども心に至福のひとときで……。今思い出してもワクワクします! テープはおそらくプロの方が読んでいたのでしょう。それはそれは上手で、グイグイとお話の世界に惹き込まれました。落語好きな人が同じ噺を何度も繰り返し聴いて楽しむように、私もその昔話のテープを、布団の中や、車の中などで繰り返し聴いて育ちました。
今では両親と「親が読み聞かせをしなくても、子どもは勝手に絵本を好きになったし、絵本作家にもなった」とか「たしか、あのテープは近所のホームセンターで3本で300円だった」「コスパが最高だね!」などと、すっかり笑い話になっています。この実体験のおかげで、忙しくて読み聞かせできない時があっても「まあ無理にしなくても大丈夫か……」と気楽でいられますし、子どもたちも、そんな時は1人で勝手気ままに絵本を引っ張り出して読んでいます(笑)。
―― 現在、休園・休校でおうちで過ごす時間が増えています。こういう時だからこそ、読み聞かせをする方も増えているのかなと思いますが、シゲタさんはいかがでしょうか。
1日中子どもと家にいるので「これ読んでー」の回数も増えていますが、なかなか毎回「いいよー」とはいかないものですね。山積みの家事や、どうしても外せない仕事の締め切りなどもあって「あとでね」と言ってしまってばかり。その代わりと言ってはなんですが、夜寝る前の読み聞かせでは「もう1冊!」「もう1回!」のリクエストにたっぷり応えるようにしています。いつもなら時計と相談して「明日も保育園だから早く寝ないとね」と切り上げていますが、今は毎日がお休みなので……(笑)。
また、ついついテレビやネットの動画に頼ってしまう時間も増えてきたので「こりゃあ、いかん!」と、急遽リビングの絵本棚を増やし、新たに絵本を買い足している日々です。
―― こんな時だから、絵本をどこで買うか、も気になりますね。
担当編集者さんが「自粛要請で休業せざるを得ない子どもの本屋さんを、通販での絵本購入などで自宅から応援できる」という情報をまとめてくださっていました。母としても、絵本作家としても、子どもに絵本を届けてくださる大切なお店がなくなってしまったら困ります。ぜひ利用させていただき、この長いおうち時間に読み聞かせしたい絵本を購入しようと思います。
「おうちから、子どもの本屋さんを応援しませんか?」
独立書店&ブックギャラリー&ブックカフェリスト
シゲタサヤカ
絵本作家。神奈川県生まれ・群馬県育ち。短大卒業後、印刷会社勤務を経てパレットクラブスクール絵本コース(7期)で絵本を学ぶ。第30回講談社絵本新人賞佳作受賞。『まないたにりょうりをあげないこと』(講談社)で絵本作家デビュー。最新作『たべものやさんしりとりたいかいかいさいします』で第12回MOE絵本屋さん大賞2019 第3位入賞。