ゴミにムカつく!?ドイツのおしゃれショップはエコショップだった!【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
前回、ドイツに住む中原さんは、今まで気になっていたというお店に、お子さんのリンゼちゃんと入店。そこは、食材や洗剤がバラ売りや量り売りされており、包装がないため商品をガラス瓶に入れて買い物するという仕組みのお店でした。
今回は、そのお店の店長であるザラさんとの会話を紹介してくれます。世界各地で進展が見られる“SDGs”について、考えるきっかけにもなりそうなお店では、なにやら素敵なイベントも開催♪ いつかイベントに参加するという楽しみもできたようですよ。
Unverpacktladenウンファパックトラーデン
店長ザラさん
ザラさん「私ね、猫を飼うなら絶対“ルナ”って名前にするの! セーラームーン知ってる? 私今もコミックス持ってるの!」と話し始めた、とても明るい店長さん。
名前はザラさん。2015年にベルリンで見た包装なしのお店に感動して、2017年に自分のお店を開店しました。
学生時代はシュタイナー教育を学んでいた彼女。地に足のついた児童の保育とは、を学び深めるうちに、子どもの口に入るものの質や地産地消の考え方、そして最後に日用品を買うとどうしても出てしまうゴミや、食材そのものがゴミになってしまうフードロス問題に行き着き、その深刻さに胸を痛めるようになっていきました。
ザラさんのように考えていた人は多かったのでしょう。2014年、ドイツの北の街キールに最初のウンファパックトラーデンが誕生します。そしてそのコンセプトは次々とドイツ中に広まっていきます。
ザラさん「たとえば、ミューズリーを1袋買うじゃない? 食べ終わったらゴミが出るよね。1週間に1袋食べたらひと月で4枚、1年で48枚。でもその製品がより少ない包装だったり、再利用できる素材だったらどうかしら」
いつもこまめに捨てるから認識しづらいけれど、私の家族4人が捨てるゴミだけでも山のように出てるんだろうな……。
ザラさん「私、ずっとゴミにムカついていたんだと思う。買い物をするたびに、私はゴミを買いたいわけじゃないのにって。ドイツにはデポジットのシステムがあるけれど、この国にあふれる製品の中でリユース(再利用)に回せているのはごく一部なの。たとえば、スーパーで売ってるシャンプーのボトルでリユースに回せるものは、ひとつもない」
ドイツはリサイクルもリユースも分別もあるエコな国と思っていたけれど、まだゴミにムカつくの!?……あ、でもそういえば。
中原「ゴミがムカつくと言えば、私はずっとドイツのシャンプーの、ボトルの小ささにムカついていたかも……。日本には省ゴミのための詰め替えパックがあるんですよ。あとボトルも1個1個が大きいから頻繁に買わなくて済むんです。でも、ドイツのシャンプーって詰め替え用が無いし、ボトルがちっっさくて! すぐゴミになってしまう」
ザラさん「あなたは日本で詰め替え用に慣れていたから、ボトルのゴミに腹を立てることができたんだね。ドイツのサイズが普通だと最初から思っていたら疑問にすら思わないものよ。ゴミを減らすための選択肢はもっと欲しいよね」
中原「私がシャンプー石鹸を使うようになったのは、ちっさいボトルにムカついたからですもん……ドイツに詰め替え用無かったのはびっくりした」
リンゼ「でもリンゼはスーパーで売ってるイチゴのにおいのシャンプーが好きなんだけどな~」
ザラさん「もちろん私もスーパーにお買い物に行くよ! そこで何か買うときに、包装がより少ないものを選んだり、リサイクルプラスチックのものを選んだり、レジで買い物袋を買わないようにするとかね。そういう商品の選び方もあるって知って欲しいの」
ゴミになっているのは
包装だけじゃない!
中原「率直なことを聞いてもいいですか? この穀物やミューズリーは全てオーガニックとのことですが、普通のスーパーなどで買うものよりかなり高い。そして添加物が入っていないなら日持ちがしないですよね? お客さんは価格やクオリティに納得していますか?」
ザラさん「良いことを聞いてくれました! 高価で日持ちしない、っていうのがむしろ大事なの。せっかくお金を出して買った高いものを腐らせて捨ててしまいたくない、って思うのは自然な考えでしょ? だからみんな自分が食べ切れる分だけ、よく考えて買うの」
ドイツでは年間50%もの食材が廃棄になっているのだそうです。以前の記事で、ドイツは食料品が安価で税率も低く手に入りやすい、と書きましたが、安いからとテンション上がってスーパーで大量に買い、戸棚に仕舞い込んだまま使いきれずに腐らせてしまったり、虫がついてしまったり。
うう……私にも大いに経験がある。店舗側でも消費期限が切れたものを廃棄にせざるをえなくなったり。
ザラさん「強力粉を200gだけ使うレシピでパンを作るとするでしょう。1袋1Kg。あなたが頻繁に料理をする人でなかったら、次に使おうと思った時には虫が湧いちゃって800gはゴミになっちゃう。
少し割高でも必要なだけ買って、全て使い切ることができたら、それは環境にもあなたのお財布にも、あなたの心にも、とても良いことじゃない? 食べ物を捨ててしまうことに罪悪感を感じなくて済むんだから。私の店はゴミを減らすというコンセプトを通して、フードロスを防ごうというメッセージも発信しているの。それは食べ物への感謝へと繋がっているよね」
中原「そうですよね。普段こどもに『食べ物に感謝しようね~お米が泣いちゃうよ〜』なんて言いながら、自分が食材を捨てているのは恥ずかしいですよね……」
ザラさん「そういう風にちょっとでも感じてもらうことに、この店の意義があるの」
お店なのに「もってって~」
ってどういうこと!?
……と、話を聞く横でちょっとびっくりする会話が聞こえてきました。
お客さん「ねえ、うちの庭のリンゴが今年豊作で貯蔵しきれないんだ。寄付していいかな?」
店員さん「良いよー! 持ってきてそこに置いておいてね。欲しい人に持って行ってもらいましょう」
レジの前には『Spende寄付! 持ってって! Wir haben Lebensmittel zu retten!あなたに救ってもらいたい食べ物がここに』と書かれた箱があり、中には不揃いな野菜や果物やクルミが入っています。土は付いているけれど値段は付いていません。
これらの食べ物は誰が持って行ってもいいのだそうです。お店で売ってるリンゴもあるのに、お客さんの無料のリンゴも置いてあげて大丈夫なの? と聞くと、お店のリンゴも売りたいけど(笑)コンセプトが大事なの、と。
旬のローカルな食べ物はハウス栽培や輸入製品に比べるとずっと栄養価が高いだけでなく、省エネルギーで生産できます。ここに来るお客さんはものの旬もよく分かっているから、リンゴが採れるときは、リンゴをたくさん食べてくれる。お店のものも問題無く売れていくのだそうです。
ザラさん「今年になって、この店のように洗剤を注ぎ足しで買える機械を置き始めたスーパーも出てきたよね。それはすごく良い流れなの! 社会の中でエコの意識が高まったことで選ばれる商品が変わり、大企業の姿勢に反映されているってことだから。
けど大企業はお客さんの庭で採れたリンゴまでは世話できない。で、ここよ。ザラの店に食べきれないリンゴを持ってけばゴミにしなくて済む、誰かに喜んでもらえるって、心を満足させる交流の場になることも目指しているの」
中原「すごい。ゴミを出さないってことにかけては、あらゆる面で徹底して筋を通しているんですね」
ザラさんのお店では『環境に優しい暮らしをしたい、料理もしてみたい。でもどうしたらいいのか分からない』という大人も、親が料理をしない家庭のティーンも、はじめてのおつかいの幼児も、気軽に一歩を踏み出せるように手を差し伸べています。
気軽に入ってきて欲しい、そのオープンな気持ちの象徴として店の真ん中にブランコをぶら下げたのだそうです。
ザラさん「コロナの前はそこのカフェスペースで、破けたセーターを繕う会とか、料理教室とかしてたのよ。みんなで道具や知識を持ち寄って最高に楽しかったわ! 今はできなくて残念だけど……」
中原「うわぁー、最高じゃないですか! コロナが終わったら穴あき靴下持って繕いに参戦します!」
お店を開きたい人への門戸も
ドイツっぽい!
この『ゴミを出さない店』って典型的なドイツ! って感じなの? と聞くと、ザラさんは首を傾げて「うーん……何をもって『典型的なドイツ』というのかは分からないけど……」
すると横からバスケットを持ってレジに来たお客さんが「何かというとすぐに『なんちゃら協会~』とか『◯◯協議会~』とかいう会を作って、コンセプトとルールを決めてシステム化したがるの超ドイツだよね!!」
2014年にキールで始まって以来、今やドイツ全土にこのような個人商店が約200店舗あり、その数は年々増えているのだそう。
ザラさんのようにお店を持ちたい人に、研修や講習会を開いたり、商品情報やノウハウを交換したりするサポートをしてくれるのだそうです。
ザラさん「ほんとだわ。商品の何パーセントが無包装でないと、ウンファパックトラーデンって名乗れないとか決まってるの! ほんとね、この数値で決めようとするところが超ドイツっぽいわ~!」
ザラさんは、いつか自分も開きたい、という夢から店を持つぞと決心するまでに2年かかったそうです。
ザラさん「このスタイルがこの街で受け入れられるか分からなくて。私のお母さんが一番心配していたの。このお店の品物はスーパーマーケットよりも割高だし、誰も買いに来ないんじゃないかって」
しかしそんな心配を、訪れた大勢のお客さんが吹っ飛ばしていきました。皆が口々に、こんなお店が欲しかったんだ、これからの時代に必要だよねと、嬉しそうに買い物をして行く姿を見て、お母さんは驚き、安心し、こっそり涙していたそうです。
瓶でお買い物♪
瓶詰め商品の可能性
中原「日本にも昔ながらの個人商店があって、そういうお店ではザラさんのお店のように人と人との温かな繋がりがあるんですが、ザラさんが日本でこういうお店をするとしたら、どんな風にしますか? オーガニックのクッキーがおっきいキャニスターで売られてるの、すごく可愛いと思うんですけど、日本でこうやって売ったら湿気で即ダメになると思って。パリパリサクサクしたお菓子は日本では全て個別包装なんです」
ザラさん「日本は気候も害虫もドイツとは違うからまた別の工夫がいるよね。でも楽しそう! 私だったら……湿気て困るものは瓶で密閉して販売しようかな。WECKとかのおしゃれなガラスビンを使って、デポジットにするのもいいね! あと日本は竹が豊富だから、通気させたい食材はバンブーの器や籠とか」
中原「瓶や気候に合った器の活用はいいですね」
ザラさん「うちは最近Kochmischung(即席食品)の瓶を販売し始めたの。乾燥食材が調味料と一緒に入ってて、お湯を注げばリゾットやパスタになって、デポジットのガラスビンだから食べた後のゴミが出ないの。買って行く人はオフィスやキッチンに非常食として置いておいたり、子どもの間食用にストックしているみたい」
中原「わあ、いいですね。パックのお寿司やカップラーメンも便利で美味しいんだけど、プラスチックやスチロールのゴミが絶対出ちゃうなぁ」
ザラさん「瓶詰めの乾燥食材でいうと、Backmischungバックミッシュング(混ぜて焼くだけのケーキやパンの元)なんか特に便利で私もよく使うの」
リンゼ「お母さん……リンゼ、グミを食べたいな」
中原「じゃあ買って行こう! さっき計量した瓶の中に入れてね。手は消毒した?」
リンゼ「うん!」
中原「おかあちゃんは色々とたくさん買いたいけど……ぐっと堪えて、ソバの実をちょっとだけ買っていこー」
その日、リンゼと一緒にソバの実をじんわり煎って、ソバ茶にしておいしく飲みました。ちょーっとしか買わなかったから、また行かなきゃ!
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに来て9年目。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。5歳と3歳の娘たちがいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn