お笑い芸人・あばれる君インタビュー。子どもに赤ちゃん言葉で話しかけることができたのが大人になった瞬間でした【前編】
無人島からの脱出やサバイバル本の監修など、お笑い芸人でありながらワイルドなイメージのあばれる君。一方で、教員免許や世界遺産検定1級の資格を持ち、現在は気象予報士の試験に挑戦するなど知的な一面も。プライベートでは2児のパパ。CM共演が話題になった妻・ゆかちゃんへの思いや、厳格だったという自身の父親との関係など、「家族」をテーマにおうかがいしました。
※お子さんの年齢は取材時
あばれるくん/1986年福島県生まれ。ワタナベコメディスクールを経て2009年デビュー。男の子2人のパパ。高校の教員資格や世界遺産検定1級を持つ。山岳部での経験を活かし、キャンプが趣味。家族がテーマの初の書き下ろしエッセイ『自分は、家族なしでは生きていけません。』(ポプラ社)が発売中。
あばれる君Instagram:@abarerukun
あばれる君 YouTubeチャンネル
人前に出ることが好きで
演劇部へ
――あばれる君は、福島県のご出身ですね。どんなところですか?
夏は緑が豊かで、冬はドカ雪が降る。うちの方は市街なのですごく田舎というわけではないですが、それでも四季がはっきりと感じられる自然の多い場所です。夏休みになると同じ福島のさらに田舎の方にある祖母の家に行って、大自然のなかで遊んだ記憶がたくさんあります。
――ご家族は?
両親と姉の4人家族です。父は教師をしていました。門限にすごく厳しいとか、決まりごとがかなり多いとか、とても真面目で厳格な父でした。とにかく融通がきかなかったですね。母もそれに追随して厳しい人ではありました。
――どんなお子さんだったんですか?
オーソドックスな子どもでしたよ。釣りをしたりドッジボールをしたり外で遊ぶのが好きな、活発で……オーソドックスな子どもでした(笑)。
――勉強の方は? 世界遺産検定1級の取得や、かなり難関の気象予報士試験にも挑戦されていますが。
勉強は全然好きじゃなかったです。計算とかすごく苦手でした! ただ、社会の資料集を眺めたり、世界や日本の歴史マンガを読むのは好きでしたね。
勉強の大切さとか、楽しさは大人になって初めて感じました。
暗記はわりと勉強しやすいので好きですね。歴史や建物が好きなので世界遺産検定の勉強は楽しかったですよ。
――厳しいご両親のもと、あばれる少年が、芸人になろうと思ったのはいつ頃ですか?
小学4年生ぐらいからテレビでネタ番組を見るようになりました。演劇部に入って活動していたので、振り返ってみれば、その頃から人前に出て舞台で何かをしたいという思いがあったのかもしれません。
本格的に芸人になりたいと思ったのは、中学1年生の頃です。学校の三者面談でも、「芸人になりたい!」って言ったんです。でも、親はまさか本気だとは思わなかったんじゃないかな。だからとくにその時は反対されることもなかったです。まあ、止められてもやってましたけどね。
そこから、高校生になって養成所のパンフレットを取り寄せ出して、そこで「あれ、本気……!?」と思ったようです。
ただ、具体的に進路の話をしたときに「大学に入って勉強する時間があってもいいんじゃない?」ってすすめられて……。僕もその時は、そのアドバイスに「なるほどな」と思って大学進学を決めて上京することになりました。
――早く芸人になりたい! という気持ちもありながらだったと思いますが、大学生活はどうでしたか?
いろんなアルバイトを経験できて、働くことや社会の仕組みを少しでも見ることができたので、芸人になる前に大学生活を送ることができたのは、今思えばすごくよかったですね。
――そして、教員免許を取る方向に向かうわけですが、それはやはりお父さまの影響ですか?
それもありますが、“大学に行かせてもらった” という思いがあって、何か行った証を残しておきたいと思ったのが大きかったです。大学2年生のときには、このまま教師に……という気持ちもありましたが、教育実習に行って、その大変さを目の当たりにしてしまって。
授業は事前の準備が膨大で、教育実習ですらとっても大変でした。毎日同じ時間に起きて、毎日学校に行って、とにかくやることがいっぱいあって、ひとつの授業にかける労力がすごいんです。あらためて、「先生ってすごい」と思いました。
実際に働いてみれば、力の抜きどころがわかったのかもしれませんが、教育実習の時点で、僕には無理かもって感じてしまいました。
――その後、本格的にお笑いの世界に入っていくことになるわけですが、ご両親は、今あばれる君が芸能界で活躍しているお姿を見て、いかがですか?
出演番組はかなり見てくれているみたいです。
母が僕のこと好き過ぎるんですよ(笑)。若い頃は世間での僕の見え方を心配して感想をくれたこともよくありました。クイズ番組で不正解になって、勝ち進めず落ち込んでるところに「なんでわからなかったの!」みたいなメールがきたりして。僕も若かったので、「うるさいな~」と思って距離をとったりしていました。
でも、今その気持ちは自分に子どもができてよく分かりますよね。とにかく子どもが心配で、何回も同じこと言っちゃうし、つい口うるさくなっちゃうんですよ。今なら、しょうがないなと思えますね。
親として参加する行事
あいさつするのさえ大変でした
高校時代から交際を続けていた1歳年上の彼女、現在の妻・ゆかちゃんとは、あばれる君の上京後も遠距離恋愛が続いていました。看護学校を卒業したゆかちゃんは就職のために上京。その後、結婚し、現在は、7歳と3歳の男の子を育てるパパです。
――あばれる君の子育てをうかがわせてください。上のお子さんが生まれる時、お父さんになると分かってどうでしたか。
それが不安は全然感じなかったんです。それよりも、嬉しい気持ちのほうが強くて、喜びの方が勝ってましたね。
実家は夫婦ふたりとも福島なので頼る人が近くにいなくて、ゆかちゃんも最初は大変だったと思います。よく動くようになった2~3歳からの方が、父や母には頼ることが多くなりましたね。
厳格だった父の面影は、孫の前ではまったくなくなって、丸くなってしまって。僕が子どもの頃はやっぱり仕事が大変だったっていうのもあると思います。今は悠々自適に暮らしているので、余裕があるんだと思います。人って変わるんですね。父も母も子どもたちとよく遊んでくれています。
――子育てが始まって、想像していなかったことや戸惑ったことはありましたか。
一番は、子どもの行事などに家族で行くことが多くなったということですかね。
親として参加するんですが、他のママパパや先生、子どもたちと関わることになんだか照れもあって。皆さんと仲よくなることや、あいさつするのさえ恥ずかしくて大変でした。
――はじめはうまく行かなかった?
そうですよ~。今は、やっとなんとかできるようになってきましたけど、それは時間を経て「やっと」という感じです。やっぱり歳をとって、大人になっていくんですかね。「なにをいちいち恥ずかしがってんだ!」って思うようになって。今ではちゃんとあいさつもできます(笑)。
――小さい子どもと関わるのが難しいと感じるパパママも多いと思いますが、あばれる君はどうでしたか?
それ! わかりますわかります! それができた時にやっぱり大人になったなって感じますよね。
恥ずかしがらないで子どもに赤ちゃん言葉で話しかけることができた瞬間! あれは、大人になった瞬間ですね。
――それをあばれる君から聞けるのは安心できます。最初からできていらっしゃるようなイメージでした!
できませんでしたね。照れくさくてできないですよね。
――今は、パパ友やママ友はできましたか?
子どもが野球のチームに入ってからは、必然的に周りの保護者の方と会う機会が増えて、チームメイトの親御さんたちとは、試合が終わったあとにご飯に行ったりして話をしています。
――お子さんの野球チームでは審判もしていらっしゃるとか。積極的に子どもの習いごとや行事に参加したいと思うのはなぜでしょうか。
はい、この間、野球の審判の講習を受けてきたんです。
積極的に関わった方が、子どもは嬉しいんじゃないかなって。自分の子ども時代を振り返ってみると、親が習いごとや行事に顔を出してくれたのがやっぱり嬉しかったな……って。だから、試合にもできる限り協力したり、忙しかった自分の父親のときよりも、もっと関わろう! って思っています。
――ご夫婦の間で子育ての役割はありますか?
特に決めていることはないんですよね。
自然に役割みたいになってることはあって、一方が怒っているときには、ふたりでは責めないというのはそうかもしれません。
普段は周りが芸人だらけで偏っているとは思うので、学校の行事に積極的に行ったり、社会のシステムをちゃんと学んでいかないとダメだなっていうふうに思いますね。学校のお手紙とか書類とか、ゆかちゃんはさばくのがホント上手なんですよ。今までは頼りっきりなので、ちゃんとやらなきゃなと思います。
――子どものあれこれは大変なことも多いですよね。
ホントですね。お便りをちゃんと読んで、準備するものをして……みたいなこともちゃんとやらなきゃですね。
「水筒持ったか?」って聞くとか、キッズ携帯とお弁当を持たせて、間食で食べるゆで卵を準備して……とか。
――ゆで卵……そうなんですね(笑)。
あとは、努力じゃないですけど、子どもができて変化したことといえば、家でよくごはんを食べるようになりました。外に飲みに行く回数は減りましたけど、芸人仲間や後輩が家に来てくれて、子どもたちと遊んでくれるんです。そういう時には、お笑い芸人になってよかったなと思いますね。
――お父さんがテレビに出ているのはお子さんも見ているんですよね。不思議な感じだと思うのですが。
そう、周りのみんなも不思議だと思ってそういう質問されるんですけど、息子に過剰な反応はなくて、僕がテレビに出ていても普通に見てるんです。
芸人だというのも認識はしているんですが、日ごろから自慢しないとか、謙虚にという思いを伝えているためか……普通なんですね。
逆にサインもらってきてとか言われたら、嬉しいくらいなんですけどね。がんばっちゃうと思います!
――芸能界のパパ友などもいらっしゃったりしますか?
周りには先輩パパがたくさんいますよ。チョコレートプラネットの松尾さんや小島よしおさんには子育てのお話を聞くことも多いです。ロッチのコカドさんは、子どもが好きでよくうちの子どもとも遊んでくれます。
芸人の皆さんは子どもとの関わり方がうまくて楽しくて、僕もそれを真似して、うまく関われた時には、また自分の成長を感じています。
さらにお話は続きます。後編「夜泣きの時は抱っこして揺らすぐらいしか僕にはできない」はこちらから!
INFORMATION
『自分は、家族なしでは生きていけません。』
著/あばれる君 絵/和田ラジヲ
ポプラ社 1540円
家族がテーマの、あばれる君初の書き下ろしエッセイ。自身の父や愛妻・ゆかちゃんへの思い、ふたりの息子・ちびれる君の子育てのこと。さらに、現在もチャレンジし続けている気象予報士試験についてなど、さまざまなエピソードを書き下ろした一冊。挿絵は和田ラヂヲさん。
Amazon 「自分は、家族なしではいきていけません。」
インタビュー/吉川愛歩 撮影/山田 薫