絵本作家いぬんこさんインタビュー「『おちゃわんかぞく』のおとうちゃわんは友人がモデル!」【前編】
NHK連続テレビ小説『おちょやん』オープニングやNHK・Eテレの小学生向け知的エンターテインメント番組「シャキーン!」のイラストなどでもおなじみ、絵師で絵本作家のいぬんこさん。絵本づくりのこと、参加したちょっと変わった楽しいイベントのお話などを伺いました。
※kodomoe web2017年7月掲載のインタビューを再編集しています。記事の内容は取材当時2017年のものです
東大阪出身。嵯峨美術短期大学卒。浮世絵や大津絵、引札など日本の大衆絵画に影響を受け、それを現代の感覚で描きつないでいきたいと精進中。絵本に『おちゃわんかぞく』(林木林・文 白泉社)、「おかめ列車」シリーズ(好学社)、『こけしのゆめ』(チャンキー松本・文 学研教育出版)、『うれないやきそばパン』(富永まい、中尾昌稔・文 金の星社)、『ここにいるよ ざしきわらし』(荻原浩・文 朝日新聞出版)、大幅加筆して復刊された『おかめ列車 嫁にいく』など。
―― 待望の『おかめ列車 嫁にいく』も復刊され、すっかり絵本作家のイメージが定着されました。
ありがたいことに、何冊も出させていただいて……。もともとは、女性誌のイラストがメインだったところに、テレビの「シャキーン!」のご依頼がありました。そのときに、「あまり子ども向けを意識しなくてもよいです」というお話だったので、のびのび描かせてもらって、またその番組を見た出版社さんから絵本の依頼をいただいて……という経緯で、今につながってます。
絵本を作っているときもそうなんですけど、子ども向けに大人が描いているというよりは、単純に自分の中の「子どもの心」が楽しめる絵を描いています。なので、布団の中から違う世界に行けたらおもしろいな! とか、そういう感じです。
―― どの作品も、ちょっと不思議で強烈な世界に子どもたちをいざなっています。
子どもの頃は「本当は世の中にいるのは自分だけで、家を出たら時が止まってるかもしれない! でも変に思われるから黙っておこう……」と妄想するような子で。大人になってからも「普通にしなきゃ」とは思ってるんですけど、でも本当はみんな黙ってるだけで、いろんなヘンテコな想像や妄想を持ってると思うんですよね。私の場合は、私の中に小2くらいの自分がいて……いや5歳くらいかな……それを絵本で解放させてもらってる感じですかね。
でも大人なので、面白い楽しいことにはリスクがあることも知っている。
『おかめ列車』にしても『こけしのゆめ』にしても、そういう、一回怖いところを通ったりしないと、面白いところには行けないんだよ、っていう気持ちが表現されていたりもします。
――コドモエのえほんでは、林木林さんとコンビを組まれました。とってもぴったりのおふたりでしたが、林さんとご一緒されていかがでしたか?
歌うようなリズム感のある言葉がとても楽しくて、絵も自然とちゃぶ台を舞台に踊ってる感じになりました。つい元気に飛んでおかわりしてる絵を描いたら、それに呼応して言葉も「おかわりジャーンプ!」と(林さんから変更の反応が)返ってきて、うれしかったです。
『おちゃわんかぞく』
林木林/文 いぬんこ/絵 白泉社
本体840円+税 対象年齢・1歳から
幼児絵本を手掛けて
感じたこと
――『おちゃわんかぞく』は、1歳にならない子どもたちが「手足をバタバタして喜びました!」「絵本にこんなに反応したのは初めて」などの声が寄せられていました。幼児絵本を初めて手がけられた感想は?
今までの絵本は一応ストーリーものとして、子どもが外の世界に冒険するような奇想天外のワクワク感を大事にしてたのですが、幼児向けということで、目の前で繰り広げられる限定された小さな世界感が新鮮でした。
とはいえ、ふわっとし過ぎないようにしようと思って、おとうちゃわんを若干存在感のあるキャラにしてみました。実際に存在する友人の似顔絵で描かせてもらいました。
―― 佐渡島でのイベントの様子をちょっとお聞かせください。『おちゃわんかぞく』の原画展とおちゃわんの面白い展示をされたそうですね。
新潟・佐渡島の「HELLO! BOOKS ハロー! ブックス」という、年に1回開催される「本となかよくなる」をテーマにした本のイベントです。今は使われていない小学校で本にまつわる有名なゲストを迎えて、パワフルないち主婦の方を中心に、市民の皆さんと県外のファンによって、毎年開催されています(※取材当時2017年の情報です)。
2015年の「ハロー!ブックス」は、9月のシルバーウィーク、9月21・22日の2日間、開催されました。去年のメインゲストは谷川俊太郎さん、今年は料理愛好家の平野レミさんで、ダンサーのコンドルズ近藤良平さん、写真家の川島小鳥さん、そしてMOEでも大活躍の杉浦さやかさん、平澤まりこさんなど豪華なメンバーが揃い、大盛況でした。(詳しくはこちらをどうぞ!)
―― いぬんこさんと、旦那さまで切り絵師・パフォーマーのチャンキー松本さん、おふたりで、ひょんなことから毎年参加するようになったそうですね。
最初は絵本の読みきかせとして呼んでいただいたんですが、その時の縁で「HELLO! BOOKS ハローブックス」に参加することになりました。本屋さんがほとんどない佐渡で、いろんな本が並んで、しかもその作者本人と会えるというので、とても喜んでもらえるのがうれしいですね。来てくださる方は地元や新潟のファミリーの方が多いのですが、東京からもたくさんのお客様が来てくださってびっくりしました。
楽しいけれどすごく仕事がたくさんあって大変なので、体調を崩す人もいたりするんですが、それでもまた行ってしまう……謎の魅力がありますね。
最初遊びに来てくれた友人のテレビの大道具さんも、いつのまにかスタッフになってたり。誰かがそれを「サドレナリン」と呼んでいました(笑)。
行く方としては、間近に見るカモメや大きな夕陽、天の川まで見える大自然が魅力的です。一方で、人口が少なくなって、佐渡の学校や施設がそのまま空き家になっている状況を目の当たりにもします。それでも、ド自然な中で駆け回ってる子どもや生きものたちと、そこらじゅうにある自然や廃材、それに人の力だけでイベントのほとんどを作り上げてしまう楽しい大人たちのパワーには圧倒されます。
後編へと続く……
後編では、「お茶碗祭り」の展示を公開! ズラリと並ぶ、おちゃわんたちに注目です!
コドモエの絵本『おちゃわんかぞく』は重版出来! 2015年発売の初版からじわじわと売れ続けています! 表情豊かなキャラクターたちと、日常の隙間にある、ちょっぴり不思議な世界。ぜひ味わってみてくださいね。
※kodomoe web2017年7月掲載のインタビューを再編集しています。記事の内容は取材当時2017年のものです