2016年10月19日

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

10月のテーマは「かえりみちの絵本」

秋の日はつるべ落とし。
暗くなると、ぐっと冷えてくるし、
急に心細くなって、家路の足も早まります。

思い立って「かえりみち」の絵本を集めてみました。

ドキドキハラハラ冒険しても、
最後はきっと、あったかい家が待っているはず。

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像1

まずは、ほっこりかわいい名作『かえりみち』から。

野原のまんなかで、女の子が泣いています。
「あーん。おうちが わかんないよう。」

そこに、こぎつねがやってきて、
「ね。なみだを ふきな。
いっしょに さがして あげるよ。」
と、手をつなぎ、
「この みちかな。
あの みちかな。」

女の子の家がみつかって、
「よかったね」と別れるのですが、
そのかえりみち、
今度はこぎつねがまいごになってしまいます。

やさしいこぐまが、いっしょに探してくれますが、
また、そのかえりみち……!

我が身を忘れて、
いっしょになって探しては、
かえりみちに自分が迷子になるという、
やさしさの数珠つなぎ。

心配になるほど、素朴にやさしい子どもたち。
でも、困っていたらちゃんと助けてくれる人がいる。
夜には、やさしくしてもらった記憶をなぞって、またうれしい。
とことんやさしい、かえりみち絵本なのです。

ほのかに甘い「あまん節」の文に、西巻さんの絵は、相性抜群なだけでなく、
世界まるごと、みごとに表現しています。
前後の見返しの地図に見られる細かい技など、隅々まで楽しんで。
このやさしい世界が信頼できるものと、思わせてくれますよ。

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像2

『かえりみち』
あまんきみこ/文 西巻茅子/絵
童心社 本体1000円+税 1979

 

 

同名絵本の『かえりみち』2。
小さな男の子が「かあちゃん」と夜道を帰ります。
手をつないでいるけれど、夜は、やっぱりちょっとこわい。

でも、後ろからお月さまがついてきます。
月明かりに照らされて、
「おつきさん ひとつ、
かあちゃんと おれの かげ ふたつ」

ページをめくるごとに、影がひとつずつふえていきます。
にぎやかがえるも、いたずらいたちも、
意外なこわがりも現れて、やっぱりみんな、
「よるは ひとりじゃ こわいんか」

なにかが出そうな夜道と
月影の幻想的なおもしろさ。
ラストの幸せな影が、残像となります。

みんなといれば、こわくない。
途中もずっと笑顔のかあちゃんが頼もしいし、
こわがりな小さい子どもにも、おすすめです。

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像3

『かえりみち』
じゅてん/作 オオノヨシヒロ/絵
すずき出版 本体1200円+税 2003

 

 

もひとつ同名絵本『かえりみち』3ですが、
こちらはちょっと大きい人向けの、かえりみち。

ランドセルを背負った女の子が、校門をでるところから、
かえりみちはスタートします。

見開きの右ページには、
昭和の日常風景のかえりみちが。
左ページには、女の子の目に見える
空想の冒険風景のかえりみちが。
細密な鉛筆画で、シンメトリックに描かれます。

かえりみちの通学路の決めごと……やりましたよね。

ドブのはめ板を踏みはずしたら、
切り立つ崖を
「三千メートル まっさかさま」

銀行の外階段の手すりを上までのぼれたら、
手に入る
「千年前の黄金だ」

柵の上を渡りながら、
忍者修行をしたり、
サーカスの売れっ子スターになったり。
めくるめく妄想力。

現役小学生から大人にもおすすめしたい、
記憶がザワザワと体によみがえる
魅惑のかえりみちです。
夢中になって、帰れなくなるかも?

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像4

『かえりみち』
森洋子/作 トランスビュー
本体1600円+税 2008

 

 

やはり、小学校のかえりみち。
同じテーマで、同じ年に出版されたのが
『ぼくのかえりみち』でした。

そらくんは、小学校帰りに、
「きょうは、この しろいせんの うえを あるいて かえろう」
と思い立ちます。

そろーり、そろり、
落ちないように油断しないで。
トンボやザリガニに誘われても、白線から離れない。
だって、決めたんだもの。

白線が途切れた横断歩道は、飛んで渡ればいいし、
障害物があったら、白いものにつかまりながら、渡ればいい。
自分ルールへのこだわりも、うんうん、あるある。
最後の難関、そらくんは、どうするのかな?

こちらは幼児から、すなおに感情移入しながら
読める絵本と思います。

それにしても共通するテーマながら、ふたりの作者の表現は対照的。
女の子と男の子、性格もずいぶんちがう子どもなのでしょう。
空想場面の描きこみや、母親の登場のさせ方など、
くらべて読んで、あれこれ妄想ふくらますのも、楽しいかもしれません。

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像5

『ぼくのかえりみち』
ひがしちから/作 BL出版
本体1300円+税 2008

 

 

あちこち寄り道していたら、すっかり遅くなりました……
ここらで、「かえりみち絵本」も店じまい。

最後にみやこしあきこさんの
『よるのかえりみち』を読みましょう。
2016年、ボローニャ・ラガッツィ賞の佳作に選ばれた絵本です。

たくさん遊んだ1日。
眠たくなったうさぎのぼうやは、
お母さんにだっこされて、うつらうつら
夜のかえりみちを進んでいます。

暗くて、静か。人もまばらで、眠い時間。
だから、ふだんは見えない
室内の光景が見えたり、
話し声やにおいを感じたりするんですね。

ベッドに入って、
かえりみちに一瞬見た人を思い出し、、
空想をめぐらしながら、眠りに落ちていきます。

木炭と鉛筆で描かれた、やわらかな闇が、
やさしく眠気に包み込みます。

10月のテーマは「かえりみちの絵本」【広松由希子の今月の絵本・56】の画像6

『よるのかえりみち』
みやこしあきこ/作 偕成社
本体1300円+税 2015

 

 


いろんな気持ちを呼び覚ます、かえりみち絵本。

ほかにも、
山本孝さんのこてこて男子絵本
『アブナイかえりみち』(ほるぷ出版 2013)や、
こうまやこぶたたちと畑を冒険する、パット・ハッチンスの
『かえりみちをわすれないで』(福音館書店 2006 品切れ/絶版)など、
気分にあわせて、楽しみたいな。

せつなさとあったかさに心が伸縮する
『雪のかえりみち』(岩崎書店 2000)は、
冬が近づいた頃に、また読みたくなる絵本です。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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