3月のテーマは「3匹の絵本」【広松由希子の今月の絵本・51】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
3月のテーマは「3匹の絵本」
2月のふたりの絵本に続き、3月は3匹の絵本です。
「3」は、昔話や絵本のキーナンバー。
3人、3匹、3回の繰り返しが
鍵になったお話は、いっぱいありますね。
ふたりのときはバランスがとれていたのが、
3人になると、
けんかになったり、騒ぎになったり、大きなことを成し遂げたり、
豊かな物語が立ち上がります。
しかも、今回は「人」じゃなくて「匹」ですからね。
おかしな事件が起きる予感が、ひしひし。
まずは、おなじみの北欧民話
『三びきのやぎのがらがらどん』を。
北欧のお話ではありますが、
この絵本の作者は、アメリカのマーシャ・ブラウンさん。
瀬田貞二さんの半世紀前の名訳により、
世界で一番読まれている国は、日本だそうです。
3匹のヤギの名前は、どれも「がらがらどん」。
不気味なトロルが住んでいる谷川を渡って、山へ行きます。
小さいヤギから順番に橋を渡っていく場面に、ドキドキ。
「かた こと かた こと」
「がた ごと がた ごと」
「がたん、ごとん、がたん、ごとん」
だんだん変わる橋の音、ドラマチックな台詞まわし。
「3匹」の個性が生かされ、
3回重ねで、ずんずん盛り上がる、展開のリズム。
「3」の魔力がみごとに発揮された絵本です。
それにしても、3度目の正直っていうか……
焦らされ続けたトロルの気持ちになると、
「でんがくざし」の「こっぱみじん」にされながら、
「3度目のうそつき~!」って叫びたいかも。
「おおきいやぎの がらがらどん」強すぎでしょ。
『三びきのやぎのがらがらどん』
マーシャ・ブラウン/絵 せたていじ/訳
福音館書店 本体1200円+税 1965
3人寄れば文殊の知恵といいますが、
寄り集まるのが、誰かによると思いません?
『ちいさなきしゃとおおきなおきゃくさん』の
大きな3匹ときたら!
小さな機関士さんが毎日走らせる、
積み木みたいな可愛い小さな汽車。
「きょうは どうも、おきゃくさんが
いっぱい のってくるような きが するぞ」
予感的中。
海辺の駅にやってくると、セイウチのおばさんが。
森の駅では、クマのおじさんが。
ジャングルの駅では、ゾウのおばさんが。
「いくら なんでも おおきすぎる!」
途方に暮れる機関士さんに目もくれず、
貨車に大きなおしりをねじこむ3匹。
なんとか終点の町の駅までたどり着いたものの、
そこから3匹のお買い物が始まります……!
いやいや、まだまだ事件はこれから。
たたみかける展開、
絶望的に(機関士さん的に)楽観的な3匹と、
平和すぎる結末(機関士さんにも読者にも)に
感動を覚えます。
目のつけどころが面白く、ひねりのきいたお話で注目される
イギリスの絵本作家、クリス・ウォーメル。
「面白がり」が文から伝わる小風さんの訳も、すてき。
大きくて無邪気な3匹のおかしな話、もっと読みたい人は、
『おおきな3びきゆうえんちへいく』もどうぞ。
『ちいさなきしゃとおおきなおきゃくさん』
『おおきな3びきゆうえんちへいく』
クリス・ウォーメル/作・絵
小風さち/訳 徳間書店
本体各1500円+税 2014、2015
次は、みんな知ってる「3びきのこぶた」……じゃないですね。
表紙いっぱいにリアルに描かれた3匹の、あやしい笑みを見てください。
「3びきのこぶた」のパロディ絵本。
昔話のパロディは、近年珍しくないですが、
絵本界の鬼才、デイヴィッド・ウィーズナーの場合、
ひとくせもふたくせもあるのです。
わらの家を建てた最初のこぶたのところにやってきたオオカミ、
思いきり息を吹いて、わらの家を飛ばしたはいいけれど、
あれ、こぶたは?
《ひゃあ! おはなしのそとまで ふきとばされちゃった!》
お話の外に飛び出した3匹のこぶたたちは、好き放題。
困惑するオオカミが描かれたページを
なんと紙飛行機に折りたたみ、3匹で乗っかって、空の旅へ!?
二次元の世界と三次元の世界を
まるで自由に行き交う、トンだ3匹。
「絵本」はこんな力も持っているのかと、
世界をびっくりさせた一冊です。
2002年コールデコット賞受賞作。
『3びきのぶたたち』
デイヴィッド・ウィーズナー/作
江國香織/訳 BL出版
本体1600円+税 2002
最後に登場するのは『かわうそ3きょうだい』。
日本を代表するヒト科の動物、あべ弘士さんが
もっとも好きな動物が、カワウソなんだそうです。
月のきれいな夜、
大中小のカワウソが、川のほとりに現れます。
「ニュニュー」
「ポコッ」
「ペコッ」
飛び込みます。
「ザバーン」
「ドボーン」
「ポチャン」
泳ぎます。今度は「小」から
「クネクネ」
「スイスイ」
「グイグイグイ」
岸に上がって
「ホイホイ」
「ササササ」
「ジャボ ジャボ」
うーん。なんともゆるくて、自由な擬音語。
愛嬌のある表情や動きをとらえた、
筆さばきも、とってもおおらかです。
3匹3様に、動いて、生きて、
獲物を捕らえて、食らいます。
大きさも、力もちがうけれど、
「ニヤリ」
「ニッコリ」
「ニコッ」
みんな満足の読後感です。
『かわうそ3きょうだい』
あべ弘士/作 小峰書店
本体1400円+税 2009
3匹絵本といえば、『3びきのくま』も、必読ですねー。
古典からパロディまで、再話もイラストレーションも、いろいろ。
ざっと20-30冊は出ていますが、わたしのイメージは、
『3びきのくま』トルストイ バスネツォフ/絵 おがさわらとよき/訳 福音館書店 1962
『3びきのくま』イギリスの民話 スズキコージ/文・絵 鈴木出版 2015
のクマたちです。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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