2月のテーマは「ふたりの絵本」【広松由希子の今月の絵本・50】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
2月のテーマは「ふたりの絵本」
バレンタインと関係なくても、
寒い2月には、だれかとふたり、寄り添いたいもの。
友達でも、親子でも。
「ふたりがいいね」
と思えてくる絵本を選んでみました。
いろんな「ふたり」をお楽しみください。
まずは、ずばり、『ふたり』。
瀬川康男さんのリトグラフによる
ネコとネズミの「ふたり絵本」です。
トムとジェリーのような、ユーモラスな掛け合い。
3文字の「●●り」という擬態語だけで綴られます。
谷川俊太郎さんと組んだ『ことばあそびうた』(福音館書店 1973)で、
言葉遊びに開眼した瀬川さんが文も手がけた、
はじめての自作絵本でもあります。
すっかり参ったネコに、ネズミは?
ラストシーンの「ふたり」の完璧なポーズを見るたび、
極上の平和な心地に包まれます。
『ふたり』
瀬川康男/作 冨山房
本体1400円+税 1981
「ふたり」といえば、やっぱりこのふたりでしょ。
がまくんと、かえるくん。
本棚に並んだ、この4冊のタイトルを
順番に読むだけで、詩。(三木卓さんの訳、最高!)
ああ、ふたり……って感じがして、ジーンときちゃいます。
この最終巻『ふたりはきょうも』に収録されている
5話は、どれも大好き。
「あした するよ」をはじめ、他人とは思えないがまくんのダメっぷり。
そこにさりげなく寄り添う、かえるくんの思いやりに、憧れてしまう。
でも最終話の「ひとりきり」は、一味ちがうんですよね。
「ひとりきりになりたい」と書き置きをしたかえるくんに、
がまくんが勘違いしつつ、ひたすら寄り添おうとします。
そうして最後まで読むと、
永遠みたいな「ふたりきり」の昼下がりに、
うれしさとおかしさとさみしさの入り交じった
幸福感が、胸の奥からぐーっとこみあげてくるのです。
いつも、きょうも、ふたり。
だから、きっとあしたも。
『ふたりはきょうも』
アーノルド・ローベル/作 三木卓/訳
文化出版局 本体950円+税 1980
さて、こちらの『いつでもふたり』は、
がらっと趣向のちがう科学絵本。
「ふたり」とは、オスとメスのこと。
「だっていのちは、そこからはじまるんだから!」
「だって・・・」と、作者はいいます。
動物によって、ふたりにも、いろんなちがいがあるのです。
たとえば、ゾウアザラシのふたり。
オスは、トラクターみたいに大きくて、重くて、怒りっぽい性格。
メスは、ずっと小さくて、やさしい性格。
アンコウのふたりは逆。
メスは迫力の大きさで、オスはおたまじゃくしくらい。
メスを惹きつけるためにオスは、
見た目や鳴き声で、メスより気張らなくちゃいけなかったり、
においや光で、愛のメッセージを放ったりもします。
タツノオトシゴやコウテイペンギンなど、
けなげに出産に協力するオスもいれば、
上手に協力し合って、子育てするふたりもいるし、
メスとオスの役割分担も、さまざま。
地球上のいろんな「ふたり」に出会って、
ふたりの見方も変わるかな?
文は簡潔、インパクトの強い絵が語ってくれます。
『いつでもふたり』
カレン・ウォーラス/文 ロス・コリンズ/絵 せなあいこ/訳
評論社 本体1300円+税 2000
おしまいに、『つきよのふたり』を。
井上洋介さんの深みのあるナンセンスで
「ふたり」をしみじみ味わえる逸品です。
月夜に、なかよしなふたりは、だれとだれ?
てっきょうと、ポンポンじょうき。
ナマズと、やなぎ。
コウモリガサと、ものほし。
月の光は、人を狂わすというけれど、
人だけじゃありません。
陸のものも、水のものも、
動物も、植物も、
大も小も、重も軽も、清も濁も……
それぞれが、みごとにお似合いの、平和なカップル。
ゆったり大どかな筆で描く
詩情たっぷりの情景。
なんとも自由に、なかよしです。
『つきよのふたり』
井上洋介/絵と文 小峰書店
本体1400円+税 2015
ふたり絵本で、
肩寄せ合って、しっぽり。
いいなあ。あったかいな。
ふたりなら、冬もね。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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