7月のテーマは「どろんこ絵本」【広松由希子の今月の絵本・44】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
7月のテーマは「どろんこ絵本」
バシャバシャ、水遊びの季節。
となると、水が砂や土といっしょになって……ジャーン!
どろんこ遊びも本番の季節。
大人になると、残念ながら
洗濯とか後始末が気になって、
諸手を上げて「どろんこウェルカム!」
とは言えなくなってしまうのですけれど。
実は、子ども時代のどろんこ好きが
体に生きているのかもしれません。
どろんこ大好きな大人たち(たぶん)が描いた
どろんこ絵本は、読むと、体がうずき出す感じ。
どろんどろんと、親子でどろんこ絵本にまみれましょう。
どろんこといえば、ハリー!
日本でも愛され続けて半世紀の『どろんこハリー』です。
黒いぶちの白い犬。
なんでも好きだけど、お風呂だけは大嫌い。
お湯を入れる音を聞きつけると、ブラシを庭に隠し、外へ抜け出します。
道路工事の現場で転げ回ったり、
原っぱで他の犬とおにごっこしたり、
どろんこ放題に遊んだあげく……白いぶちの黒い犬になってしまいます!
家に帰ると、自分が「ハリー」とわかってもらえず、四苦八苦。
アイデンティティの危機。
どうする、ハリー?
動きのある線で、ぐいぐい展開する物語。
感情移入せずにはいられない、朗らかでうかつなキャラクター。
白黒反転の明快なエピソード。
ドキドキの展開とハッピーエンド。
さすが、鉄板のベストセラー絵本です。
陽だまりのなか、どろんこの夢を見る。
反省なんて微塵もしない寝顔が、いいのね。
何度読んでも幸せ。
『どろんこハリー』
ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ/絵
わたなべしげお/訳 福音館書店
本体1200円+税 1964
どろんこ愛といえば、このぶた。
寝るのも食べるのも大好きな『どろんここぶた』ですが、
なによりも好きなのは、
「やわらかーい どろんこの なかに、
すわったまま、しずんで ゆく ことでした。」
幸せなこぶたの暮らしに変化が。
ある日、飼い主のおばさんが、大掃除を思い立ち、
(そう、おばさんって、突然思い立っちゃうもの)
家の中だけでは飽き足らず、
ぶた小屋のどろんこまで、すっかりきれいにしてしまいます。
なんてこと!
こぶたは怒って、どろんこ求めて、家出しますが、
ちょうどいい具合の、すてきなどろんこは、なかなか見当たりません。
そして、やっとたどり着いた都会の「どろんこ」に、
ずずずーっと身を沈めたところ、
「へんだね、この どろんこは。」
まさかの、たいへんな騒ぎになってしまいます!
どろんこが、こぶたにとって、どんなに切実な問題か。
どろんこ好きの気持ちが、ひたひた伝わってくる訳語で、
ゆかいな絵物語にずずずーっと身をしずめて。
『どろんここぶた』
アーノルド・ローベル/作
岸田衿子/訳 文化出版局
本体950円+税 1971
どろんこ好きは、ほかにもいっぱい。
『どろんこ!どろんこ!』では、
どろんこを見つけた動物たちが、1匹ずつどろに飛び込みます。
ちゃぽちゃぽ、にゅるにょろ、どろんでろん。
どっぷりどろに浴した後で、どろにまみれて出てきます。
どろ1色のページをめくると、
みんながどろ色のシルエットとなって現れる楽しさ。
思いがけない動物が出てきたり、シンプルだけど、単調じゃない。
絵本の匠・村上さんの破調のフックもにくい
遊び心たっぷりのどろんこ絵本です。
次はだれかな? めくっていくと、
一番意外などろんこ好きは、ラストでした!
けんちゃんがどろんこの絶頂で出会ったのは?
生物が永々と受け継いできた「どろんこ浴」のよろこび、
体が思い出すかもしれません。
『どろんこ! どろんこ!』
むらかみやすなり/作 講談社
本体1200円+税 2013
ここまで見てきても、
どろんこに目覚めないという人には、
奥の手!『どろんこどろちゃん』をどうぞ。
地面にきょろきょろ目玉が2個。
もっこり頭が、うーんと腕が、
出てきた出てきた、
「よっこらしょっ と、ぼく どろちゃん」
どろをこねて、指で塗ったような。
主人公は紛れもなく「どろんこ」です。
「ぼくの つくりかたは かんたんだよ。
つちを コップに 5はい。
みずを コップに 2はい。」
かたすぎると、ぼろぼろ。
やわらかすぎると、べちゃべちゃ。
どろんこ自ら指南する、どろんこの作り方、豪快な遊び方。
どろんこ絵本の決定版!
『どろんこどろちゃん』
いとうひろし/作 ポプラ社
本体950円+税 2003
今年どろんこデビューの小さい人たちへ。
ファーストどろんこブックには
『どろんこ どろんこ!』(わたなべしげお/文 おおともやすお/絵 福音館書店)や
『こぐまちゃんのどろあそび』(わかやまけん/作 こぐま社)などオススメ。
どろんこ恐怖症気味の親子には、
『どろんこのおともだち』(バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 ほるぷ出版)
は、いかが?
ビクトリア調のワンピースが似合うシャーロットと
フリフリのレースやリボンのドレスに身を包んだお人形ダリアの
どろんこ仲間ぶりが、心ほぐしてくれます。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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