2015年6月24日

6月のテーマは「カバの絵本」【広松由希子の今月の絵本・43】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

6月のテーマは「カバの絵本」

梅雨に入り、体調も、頭の回転も、気分も
いまひとつ冴えません。

じめっとした空気のなかを、
重たーい体を、だるーく引きずって動きながら、考えました。
こんな気分にいちばんしっくりくるのは、なにかな?

……カバ?

うん、みごとにしっくり。
自分をカバだと思えば、湿り気大好きだし、
重たい体も自分らしいし、のっそり動くのも似合うし、
食べたいだけ食べても、寝たいだけ寝てもいいんだし(それは話が別?)

かなり自己肯定的になってきたところで、
本棚の前に立つと、あるある。
これぞカバな、いい絵本がいっぱい!

43
カバといえば、なんたって『かばくん』。

半世紀以上のロングセラー。物心ついたときには、1番そばにいたカバでした。
岸田衿子さんの詩が心地よく、
親友・中谷千代子さんのみごとにどっしりした
油彩のカバを生み出しました。

今回は、続編の『かばくんのふね』を取り出してきましたよ。
『かばくん』に比べると、ちょっと地味な印象がありましたが、
梅雨の気分には、ぴったりです。

動物園に雨が降ります。
やまない雨に、動物たちは困るけど
「あめの すきな かばくん
あめの だいすきな かばのこ」

ついに動物園は洪水になりますが、
カンガルーも、きりんも、他の小さい動物たちも、
それぞれが小さい子どもを連れてきて、
「のせてくれ かばくん」
「みんな のせてよ かばくん」

悠々ゆっくり、あわてず騒がず、安心あんしん。
かばくんの大きな背中のふねが、みんなを救います。
まるで、ノアの箱舟!

kaba fune

『かばくん』『かばくんのふね』
岸田衿子/作 中谷千代子/絵
福音館書店 各本体800円+税 1962/64

 

 

日本代表の『かばくん』に匹敵するのは、
アメリカ(舞台はたぶんナイル川流域)代表の
野性のカバ『ちいさなヒッポ』です。

4月に96歳で亡くなった『三びきのやぎのがらがらどん』の作者が、
がっしりとした版画で描いた、カバらしいカバの世界。

お母さんのそばを離れたことがないヒッポですが、
少し大きくなって、お母さんから大切なカバの言葉を教わります。

「いいかい、ヒッポ、グァオが とても だいじなのよ。」
「グッ グァオ、おんにちは!」「グッ グァオ、あぶらい!」
「グァオ」は、自分と世界をつなぐ言葉。
そして生きるため、身の危険を知らせる言葉でもありました。

ある日、大人たちが泥に埋まり眠っている間に、
ヒッポは、お母さんのそばを離れ、川面のほうに遊びに行きます。
すると、金みどりの目と、鋭い歯がすぐそばに……!
「グッ グッ グァオ! たすけて!」

こびないキャラクターの愛らしさ。
ダイナミックな展開に、ほっとするラスト。
自分の世界が少しずつ広がり始めた、子どもと読みたい絵本です。

hippo

『ちいさなヒッポ』
マーシャ・ブラウン/作 うちだりさこ/訳
偕成社 本体1200円+税 1984

 

 

お次は、ポップでゆかいなカバの登場。
『ぼちぼちいこか』は、関西弁のカバくんが一人称で、
消防士やパイロットやピアニスト……いろんな職業に挑戦しては、
重すぎたり、太すぎたり、力がありすぎたり、ことごとく挫折します。

アメリカ生まれの絵本の原題は ”WHAT CAN A HIPPOPOTAMUS BE?”
直訳すると、「カバはなにになれるかな?」という感じ。
なれるかな? と挑戦しては、
”No” の2文字で、きっぱり打ち消される、残念な2拍子なんですね。

“No”をひとつずつ、関西弁にダジャレも交えて変換し、
タイトルに「ぼちぼちいこか(Take it easy.)」と
先回りしてもってきた、大胆な翻訳の力!
日本では、レギュラー版の他にもミニ版など、版を変えて出版されています。

今回は趣向を変えて、
関西弁と英語のバイリンガル絵本をピックアップ。
自分にめげない大らかでユーモラスなカバくんと
言葉の掛け合いを楽しみつつ、
3月に亡くなられた関西弁絵本の先駆、名翻訳者を偲びます。

bochibochi

『英語でもよめる ぼちぼちいこか』
マイク・セイラー/作 ロバート・グロスマン/絵
いまえよしとも/訳 偕成社 本体1600円+税 2011

 

じめっぽく、いえ、ちょっとしめっぽくなっちゃった。
最後は、CDつきカバ絵本。
聴いて歌って、明るく締めましょう。

「おーい おーい かばくん」
この絵本は、カバ目線ではなく、
人間目線で、カバに親しく呼びかけます。

「きみのせなか かたいのかい
それとも ほんとは やわらかいのかい」

「かたそうで やわらかそうで やわらかそうで かたそうで」

語呂のいいとぼけた呼びかけを受けとめるのは、
あべ弘士さん描く、極めつけのカバ。
太い筆でぐいぐい塗った、どでかいボリューム感。
我関せずなふてぶてしい表情と、緩慢な動き。

風通しのよい画面に目を泳がせながら、CDにも耳傾けて。
中川ひろたかさん(作曲も)の歌声に、
ケロポンズのケロちゃん(増田裕子さん)の声がきれいに合わさります。

ふうう。いい風が吹いてきました。

ohi

『おーい かばくん』
中川いつこ/詞 あべ弘士/絵
ひさかたチャイルド 本体1700円+税 2007

 


『みんなのベロニカ』(ロジャー・デュボアザン/作 神宮輝夫/訳 童話館出版)や
『ぼく うまれるよ』(たしろちさと/作 アリス館)など
紹介しきれなかった、とびきりカバ絵本も。

めくると、うれしいカバばかり。

ああ、いいなあ。
梅雨の間は、カバでいるのも悪くないなあ。
 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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