2014年11月24日

11月のテーマは「おじさん絵本」【広松由希子の今月の絵本・36】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

11月のテーマは「おじさん絵本」

北風が身にしみる季節。
大きな懐に包んでくれるような、
あるいは、見ているだけでほっこり和むような、
「おじさん絵本」はいかがでしょう?

頑固で、あったかくて、変わり者で、
ゆかいで、かわいいおじさん、
とりそろえました。

hiromatsu36

おじさんって、こだわりの人。

好きなものは、とことん好き。
「おじさん絵本」史に残るこだわりのおじさんといえば……この人ですね。

『おじさんのかさ』のおじさんは、
とっても立派な自分の傘をこよなく愛しています。
出かけるときは、いつもいっしょ。

少しくらい雨が降っても、さしません。
傘が濡れるからです。
たくさん雨が降ってきたら、雨宿り。
傘が濡れるからです。

急ぐときは、胸に抱いて走り、
止まないときは、人の傘に入れてもらい、
もっと大降りのときは、傘といっしょに家にこもります。
さしたりなんかしません。
だいじなだいじな傘なのですから。

でもある日、
「あめが ふったら ポンポロロン
あめが ふったら ピッチャンチャン」
相合傘の子どもたちの歌声を耳にするうち……。

わがままなほどのこだわり。
その後の発見と、転向。
こだわりのおじさんが新しい「好き」をかみしめ、
ソファでくつろぐ至福のシーン、
いいですねえ。

ojisankasa

『おじさんのかさ』
佐野洋子/作・絵 講談社
本体1400円+税 1992

 

 

おじさんって頑固もの。

雨とおじさんといえば、頑固なおじさんの顔が
もうひとり、浮かんできましたよ。

『おじさんとカエルくん』のおじさんの怖い顔。
「雨か!」と、朝から不機嫌なおじさんは、
小さな出来事をなんでもネガティブに受けとめて、
不機嫌をまきちらします。

対照的なのが、小さな男の子「カエルくん」のニコニコ顔。
カエルのコスチュームは伊達じゃない。
「雨だ!」と、朝から上機嫌です。

そんなふたりが、カフェで出会ったら?

かわいいコラージュ。
明快な対照と展開。
頑固なおじさんほど、変化したときがかわいい。
ケロケロッ♪

kaerukun

『おじさんとカエルくん』
リンダ・アシュマン/文 クリスチャン・ロビンソン/絵 なかがわちひろ/訳
あすなろ書房 本体1200円+税 2013

 

 

おじさんは、意外と几帳面。

『ほしみるおじさん』のおじさんは、
ウシくんと二人暮らし。

毎日、夜明け前に早起きして、まずはウシくんの小屋の掃除。
それから、部屋の掃除、洗濯 (パジャマも毎日洗濯するのね)、
朝ご飯をすませたら、紅茶と弁当を用意して、
日の出の頃には、ウシくんと畑に向かいます。
毎日、毎日。

おじさんが、規則正しい生活をしているのは、
「ちきゅうという ほしの うえ」。
地球がクルクル規則正しく回っているから、
「わたしたちに、あさや ひるや よるが おとずれます」

自然の恵みを受けながら、
どこかで星の動きを感じながら、
毎日をきちんと、マイペースで生きている
おじさんとウシくん。
そのささやかで、幸せな時間。

ゆったりと流れるおじさんの一日をとおして、
わかりやすく語られる、はじめての宇宙のお話です。
物語絵本と科学絵本がゆるりと結びついた、めずらしい絵本。
天文台のまちから生まれた新シリーズ「星と森の絵本」より、初々しいデビュー作です。

hoshimiru

『ほしみるおじさん』
もりなお/作・絵 ぶんしん出版
本体1200円+税 2014 

 

 

おじさんは、紳士です。

『おじさんとすべりだい』のおじさんは、
山高帽に蝶ネクタイ。
遊び場に似合わぬ正装で、動物たちをすべり台の前に整列させます。

みんなが応援するなか、
1匹ずつ粛々と階段を昇り、すべります。

しゅるしゅるしゅるー
「ほーほー さすが ラッコさんです。
 あのような すべりかたは
 ラッコさんでないと できませんねえ」
こんなていねい語で、どの動物の個性も尊重します。

くまさんは、くまさんらしい迫力で。
おおへびさんは、おおへびさんならではの珍しさで。
最後に登場したなまけものさんは、ゆっくりゆっくり昇っていくけれど、
「いそがなくても いいのです」

あたたかく見守り、
必要なときには、手を差し伸べます。

さて、おじさんがすべる段になると?
「では ちょっと わたくし きがえてまいります」

おじさんは、本気です。
やるとなったら、とことん。

suberidai

『おじさんとすべりだい 新装版』
谷口國博/文 村上康成/絵
ひさかたチャイルド 本体1200円+税 2014

 

 


もっといろんなおじさんと、
真剣に遊びたくなった人には、

『おじさん あそびましょ』(長新太/作 絵本館)
『くまちゃんとおじさん、かわをゆく』(ほりかわりまこ/作 ハッピーオウル社)
『おじさぁーん!』(わたなべさもじろう/作 あかね書房 品切れ)

なども、オススメ。

 

 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ