4月のテーマは「まるの絵本」【広松由希子の今月の絵本・6】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
4月のテーマは「まるの絵本」
ひゃー。ばたばたしているうちに、今年も四半分過ぎちゃった!
と、3月末までは焦っていたのですが、4月になったら開き直りっ。
だって4月は、新年度。ここからはじまる、新しい年。
そう思えば、1年まるまる残っているじゃありませんかっ。
……そんなはじまりにふさわしい「まるの絵本」。
この世に生まれたての赤ちゃんも、まるが大好き。
最初に出会うものがおっぱいだからとか、いろんな説がありますが、
とびきりの「まる絵本」に出会ってほしいものです。
『まるまる』は、文字通り、まるがふたつ並んだ絵本。
表紙から、ページにあいたふたつの穴ぼこ。
「まるまる さんかく」
「まるまる しかく」
・・・・・
「まるまる おおまる」
「まるまる こまる」
細かい描写はないのに、まるが横に並んでいるだけで、
人は顔と認識し、そこに表情を読み取るんですね。
色と形、文字とことば、穴の向こう側との配色、
抑制のきいたデザインで、読者に潔く委ねられたページ。
ごくシンプル、でもなんだかよくわからない、楽しい気持ち。
それこそが、絵本のツボなんじゃないかと。
穴ぼこをのぞいたり、指を入れたり、
小さい子も大人も、飽かず楽しむことができますよ。
『まるまる』
中辻悦子/作
福音館書店 定価840円 1998
100%ORANGEのふたりが創った
『まるさんかくぞう』も、シンプル×わからなさの
最強赤ちゃん絵本といえましょう。
「さんかく まる しかく」
「まる しかく さんかく」
積み木のような、三段重ねが楽しいんだけど、
「さんかく ぞう まる」
「ぞう ぞう しかく」
「ぞう ふね さんかく」
え、え、えーっ? 心地よい肩すかし。翻弄される快感。
色、形、大きさ……視覚、触覚、味覚……あらゆる感覚と感情を揺すぶられる、
驚異の積み木遊びに親子で挑戦してみてね?
『まるさんかくぞう』
及川賢治・竹内繭子/作
文溪堂 定価903円 2008
『まるまるまるのほん』は、フランス発。小さい子から年齢問わず。
登場するのは、ひたすらまる、まる、まるだけです。
白いページにぽちんと黄色いまる。
「おして」という指示に従って、ページをめくると……はっ!
黄色いまるが、ふたつになっています。
押したり、こすったり、クリックしたり、ゆすぶったり……
絵本のページをタッチパネルに見立てて、文章に従い、
指と手と体で、絵に関わっていく感じ。
まるといっても、手描きでいびつ、塗りムラなんかもいい感じ。
デジタルな気分を取り込みながら、紙の絵本の面白さをアナログに味わわせてくれる、
ちょっと珍しい絵本なのです。
『まるまるまるのほん』
エルヴェ・テュレ/作 谷川俊太郎/訳
ポプラ社 定価1365円 2010
子どもが最初に描く形も、まる。
そして一生追求する形も、まるだったりします。
『まるをさがして』は、「びじゅつのゆうえんち」シリーズの一冊。
世界のアーティストたちが20世紀に描いた、めくるめく「まる」のバリエーション。
黒字に赤の巨大な、丸っ(吉原治良)。
柔らかな色と光のリズムの、マルマルマル(ロベール・ドローネー)。
不思議な白黒の同心円は、ページから離れてみると、
顔が浮かび上がってきたり(ヴィクトル・ヴァザルリ)。
大好きなまるを子どもといっしょに探しながら、
親子で抽象画の世界に親しむことができるという、すぐれたシロモノです。
『まるをさがして』
大月ヒロ子/構成・文
福音館書店 定価1575円 2004
グラフィックに極めたいなら、イエラ・マリの
『まるい まあるい』(ブロンズ新社 2005)、
インド哲学に足を踏み入れるなら、A. ラマチャンドランの
『まるのうた』(木城えほんの郷 2003)などなど、
いやあ、子どもと楽しむ「まる絵本」の世界、広いです。深いです。はまっちゃいます。
そして読んでいるうちに、今日明日の予定がどうとか、
四角張らずに、ゆったり行こうという気になりました。
ね、あわてても仕方ない。だって地球は丸いんだもんっ。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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