2018年7月24日

7月のテーマは「かおの絵本」【広松由希子の今月の絵本・74】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

7月のテーマは「かおの絵本」

近所まで歩くだけで、滝の汗。大人でもこんなだから、地面に近い子どもはたいへんですよね。「だっこー」「自分で歩きなさい」「だっこー!(泣)」「早く歩いて!(怒)」大泣き……いやいや、ほんと、たいへん。親子して、不快指数が高くなるのも無理ありません。

赤ちゃんや小さい子どもほど、大人の「顔」を鏡のように映すみたい。笑ったり、おかしな顔したりすると、子どもも笑いますよね……でも、暑いし。忙しいしっ。急に笑顔はつくれないしっっ。そんなときは、絵本の「顔」を借りるのも、ありかもしれません。今月は、小さい子どもといっしょに楽しめる、いろんな顔の絵本を集めてみましたよ。

7月のテーマは「かおの絵本」【広松由希子の今月の絵本・74】の画像1

顔の絵本と言えば、まずはこれ。『かお かお どんなかお』は、今年で誕生30年の鉄板顔絵本です。
「かお」「かお に め が ふたつ」「はな は ひとつ」「くち も ひとつ」
体はなく、色紙を切って細い線画で表情をつけた顔に、ひたすら目は釘付けに。

「たのしい かお」に「かなしい かお」、「わらった かお」に「ないた かお」、「すっぱい かお」に「あまい かお」……シンプルな表情と感情を表す色がみごとにマッチ。見ている子どもの表情も、絵に合わせて自然と動くでしょう。大人も、かたまった表情筋のエクササイズによさそう。顔を大きく動かしていると、気持ちもほぐれます。

作者の柳原良平さんは3年前に昇天されましたが、赤ちゃんとずっと楽しめる絵本をたくさん残してくださいました。そうそう、「アンクル トリス」のキャラクターも、今も生き生き活躍し続けていますね。

7月のテーマは「かおの絵本」【広松由希子の今月の絵本・74】の画像2
『かお かお どんなかお』 
柳原良平/作 こぐま社 
本体800円+税 1988

 

顔は、いろいろ。みんなちがうから面白い。人間だけじゃありません。『みんなのかお』に出てくるのは、北海道から沖縄まで日本各地の動物園にいるゴリラ、ラクダ、レッサーパンダ、ゾウ、アザラシ、サイ、カワウソ……24種類の動物たち。しかも(ここがポイント)まるで種ごとのクラス写真みたいに、見開きに同じ動物、ちがう個体の21匹ずつの顔写真がずらっと並んでいます。動物学校の卒業アルバムがあったら、こんな感じ? と思える写真絵本なんです。

ひとくちにラクダといっても、なんて表情豊かでそれぞれ個性的なんでしょう。旭山動物園のラクダのさわやかな横顔、盛岡市動物公園のラクダは博識そうだし、野毛山動物園のラクダは憂いをふくんだ瞳で……1匹ずつ見入ってしまいます。チンパンジーのページでは、日本平動物園の目ヂカラか、王子動物園の渋いスマイルか、好みがかなり分かれると思う……なんて、妙にときめいたり。1匹ずつの顔と向き合っていると、距離がぐっと近く感じられますね。

生態の説明は、一言ずつしか書かれていません。でも種で束ねて見るだけでなく、1匹1匹、ひとりひとり、みんなちがう顔なんだって実感することは、なにより豊かな気づきにつながるんじゃないかと思います。

7月のテーマは「かおの絵本」【広松由希子の今月の絵本・74】の画像3
『みんなのかお』 
さとうあきら/写真 とだきょうこ/文 福音館書店 
本体1500円+税 1994

 

うーん。うずうず動物園に行きたくなってきた。でも動物園に行ったら行ったで、動物たちはそっぽを向いていて、なかなか顔を見せてくれなかったりしますよね。こっちを向いてくれない動物に、「ねえ ねえ おかお みせて」と呼びかける気持ちそのままに、『おかお みせて』を読みましょう。

後ろ姿を見て、だれだか想像しながら「おかお みせて」と声をかけ、ページをめくります。白黒の動物の後ろ姿は……「パンダさん こんにちは」という具合。ふーん、「いないいないばあ」的な二拍子の赤ちゃん絵本ね、と思うでしょ。でも、この動物たちがなかなかクセモノなんですよー。茶色くて黒い耳の、もっさりした生き物はいったい誰? 華やかな冠の鳥は、どこかで見たことあるけど……ヘビクイワシ?? 大人だってちょっと答えられない難問です。

赤ちゃん絵本にしたら、かなりマイナーな動物がいろいろ登場するけれど、実はみんな動物園にいる動物たちです。メジャーなゾウやキリンだって、日本では動物園にしかいないものね。親子で動物園の珍しい動物たちに出会うつもりで、めくってみましょう。ツルより先に、ハシビロコウを覚えるのもいいじゃない。メジャーもマイナーも、小さい子どもほど偏見がありません(娘は1歳の頃、ウサギやリスよりウォンバット派でした)。
絵本初挑戦の作家が描く、動物たちの素朴で立派な存在感、読者と向き合う「おかお」がなんとも味わい深く、クセになるかも。

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『おかお みせて』 
ほし ぶどう/作 福音館書店 
本体800円+税 2018

 

いろんな顔を見てきましたが、最後にきわめつけ、人でもなく動物でもない顔と向き合いましょうか。「にらめっこ」の絵本は数あるけれど、『こわめっこ』って?? 「わらったらまけよ」じゃなくて、「ないたらまけよ」という逆転の発想から生まれた絵本です。

ひとつめこぞうにフランケンシュタイン、魔女や鬼などこわい生き物が、次々ニコニコ登場しては、「こわめっこしましょ ないたらまけよ」と明るく歌います。めくると、「ヒィィーッ」! 容赦なく、こわい顔。背景も、文字も、色も、テクスチャーも総動員で、本気で泣かせにかかります。このにっこりフレンドリーなピンクの表紙にだまされちゃダメ。楽しげなページの顔との落差があまりにも激しいので、こわがりの小さな子や心臓の悪いお年寄りにはおすすめしません。

でも、こわいの大好きな子どもたち、納涼を求める大人たちには、絶品。毎年、節分の鬼のお面づくりに全身全霊をこめて、子どもを怖がらせようとしてきたtupera tuperaさんの面目躍如。年々エスカレートさせながら磨き続けた「こわがらせ」の技がみごとに発揮されています。こわすぎて、おかしくて、ひきつりながら笑っちゃう。そして後味はほっくり、やっぱりちゃんとフレンドリーな絵本なのでした。顔絵本と顔遊びの可能性を、またひとつ拓いてくれた新作です。

7月のテーマは「かおの絵本」【広松由希子の今月の絵本・74】の画像5
『こわめっこしましょ』 
tupera tupera/作 絵本館 
本体1400円+税 2018


夏休み、本番。体調にはくれぐれも注意して、笑顔が笑顔を呼ぶ、いい季節になりますように。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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