11月のテーマは「編み物の絵本」【広松由希子の今月の絵本・25】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
11月のテーマは「編み物の絵本」
毛糸が好き。
毛糸屋さんを見るのが好き。
この毛糸で、なに作ろうかと、
あれこれ想像する時間が好き。
でも、想像ばかりがふくらんで
根気と時間が足りないから、
毛糸ばかりがたまります。
最近は、新しい毛糸を買おうとする右手を
左手が懸命におさえています……。
今月は、見ているだけで
ふっくりほこほこしてくる
毛糸やニットの絵本を探してみました。
『ちょろりんのすてきなセーター』は、
寒がりやのトカゲの子どもが主人公。
大通りの洋品店(ってレトロな響きがいい)のウィンドーに見つけた
「はるの はらっぱいろ」のセーターがほしくてたまりません。
親は買ってくれないし、
お小遣いではちょっと足りないし。
じいちゃんに相談したところ、
ランプ作りの仕事を手伝ったら、お金をもらえることに。
一晩のアルバイト。
眠さをこらえたランプ磨きや、
かじかむ指を、足としっぽが手伝って
ランプを枯れ葉にくるむ仕草。
いじらしいちょろりんに、ぐっと思い入れ。
やっと手に入れたお金を握って、
走るちょろりん。
ところが、目指した春色セーターは?
「あれあれっ!」
上がって、下がって、また上がり……
子どもの気持ちが上下する物語。
それに沿った豊かな表情の変化が、降矢さんの身上。
ミュンヘンの一枚絵を思わせるような、
表紙が語るあらすじも、大胆で面白いですね。
出来合いの洋服じゃなくて、
編み直してもらったら、
ニットはもっとあたたかくなります。
『ちょろりんのすてきなセーター』
降矢なな/作・絵
福音館書店 定価840円 1986
『パパとミーヌ にわにいるのは、だあれ?』は、
ちまっと愛らしい6本足の父娘が主人公。
ミーヌが庭で花を摘んでいると、誰かの視線が。
「にわに だれか いるのかしら?」
翌日こっそり探してみると、
木の上の家にクモの男の子アルトが
一人きりで風邪をひいて寝込んでいました。
ミーヌは自分の家に連れていき、せっせと看病をします。
咳止めのお茶を飲ませ、あたたかいマフラーを巻いてあげて……
「きれいな マフラーだね」
「わたしが あんだの」
「へえ、すごいなあ!
ぼくにも あみかたを おしえてくれる?」
アルトは、あっというまに編み物を覚え、
自分のセーター、ミーヌのセーター、
大きな毛布も、それからそれから……
「やっぱり あみものは、クモに かなわないね」
パパの一言に、納得。
全編に通じる、ほのあたたかさが、
じんわり心地いい絵本。
『パパとミーヌ にわにいるのは、だあれ?』
キティ・クローザー/作・絵 平岡敦/訳
徳間書店 定価1680円 2008
毛糸をいっぱい見ているだけで
ほくほくしちゃうような人には、『ニットさん』。
山盛りの毛糸を横に
「シャカ シャカ シャカ」
編むのが遅いあなた(わたし)に代わって
せっせと編み棒動かして、
なんでも編んでくれますよ。
立ったままで、最初に編み上げたのは、毛糸の椅子。
お次は、編みながらノドがかわいてきたところで、
シャカ シャカ
テーブルとティーセット。
風が吹いてきて、なんだか寒いなと思ったら、
シャカ シャカ シャカ シャカ……
な、なんと家まで!
まだまだ、びっくりするには及びません。
ほしいものは、なんでもかんでも編めちゃうし、
うっかり、ほしくないものを編んじゃっても、平気。
「えい! えい! ほどいちゃえ」
そう、編み物には「ほどく」という
すてきな技もあるんですね。
絵本に登場するものは、なんでもかんでも
ニットの編み地でできているから、目にあたたか。
でも、ニットさんの毛糸は、彩度の高いポップな色ばかり。
ふんわりゆったり編み物というよりは、
背筋をしゃんと伸ばしたニットさんの
しゃっきりシャカシャカ感がゆかいに伝わってきます。
毛糸でできている宇宙は、平和で楽しくて、ほんとに創造的。
『ニットさん』
たむらしげる/作 イースト・プレス
定価1365円 2012
大きい人たちには、
『セーターになりたかった毛糸玉』(津田直美作 ブロンズ新社 2002)や
『編みものばあさん』(ウーリー・オルレブ作 オーラ・エイタン絵 もたいなつう訳 径書房 1997)も、
おすすめ。
ためこんだ毛糸玉も、老後の楽しみになる気がします。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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