2022年9月23日

『ヒガンバナのひみつ』【今日の絵本だより 第318回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『ヒガンバナのひみつ』【今日の絵本だより 第318回】の画像1『ヒガンバナのひみつ』
かこさとし/作 小峰書店 1650

923日は、秋分の日。
この秋のお彼岸の時季に、すっと伸びた緑の茎に赤い冠のような花を咲かせる、ヒガンバナ。
たんぼや川べりに群生したり、身近な道端に咲いていたり、秋の目印のような花ですよね。
そのヒガンバナをクローズアップした絵本、『ヒガンバナのひみつ』をご紹介します。

ひさちゃんとかつねえちゃんが土手で摘んで帰った、ヒガンバナ。
おかあさんは
「このマンジュシャゲの赤い色、大すき」
と喜びます。
花瓶に飾られたそれを見て、おばあちゃんは
「あれまあ、ボンバナが、よう、かざってあるわ」
と言って、ふたりにヒガンバナのかんざしやネックレスを作ってくれました。
次の日曜日、ひさちゃんがお友だちにもその遊びを教えてあげていたら、それを見かけた隣のおじいちゃんが
「おやおや、ソーレンバナあそびで、おもしろいね」
と声をかけました。
ソーレンとは、お葬式のこと。
こんなきれいな花なのに、とひさちゃんがふくれていたら、ちょうど帰ってきたたつにいちゃんはさらに、ヒガンバナを
「ジゴクバナ」
なんて呼んで、その花にさわると血が出てしびれて痛くなると、恐ろしいことを言います。
一体、何が本当なのでしょう?

ヒガンバナのいろいろな別名や遊び方の「楽しいひみつ」、実は球根に毒があるという「こわいひみつ」、しかし飢饉のときにはその球根を水にさらして毒を抜き、非常食としたという「すごいひみつ」。
身近なヒガンバナに秘められたいろんな秘密を、楽しいお話仕立てで描く作者は、『からすのパンやさん』(偕成社)『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)をはじめ、『かわ』『海』(福音館書店)など数々の科学絵本でも知られる、あのかこさとしさん。
どんなことでも子どもたちにきちんと伝えるために、調査研究をゆるがせにしない姿勢はここでもいかんなく発揮され、見返しに掲載された全国各地のヒガンバナの別名は、計608点。
誰でも知っている花に、科学的に、民俗学的に迫る、けれど愛らしさとユーモアも備えた、読み応えのある一冊です。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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