2022年8月13日

『しんかんせん!』【今日の絵本だより 第309回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『しんかんせん!』
穂村弘/文 長谷川朗/絵 くもん出版 1540

お盆のこの時期、新幹線でふるさとに帰省するという方も多いでしょうか。
乗り物の中でもやっぱりスペシャル感のある、心弾む新幹線。
ダイナミックな表紙が目をひく『しんかんせん!』は、中身も斬新な新幹線の絵本です。

リュックをしょって、ひとりで新幹線に乗るぼく。
ホームまで見送りに来たママは、
「ほんとに ひとりで だいじょうぶ?
「だいじょうぶだよ! ママ」
とぼく。
車内に乗り込んで、窓際の席に座って、どきどき、どきどき。
「あ、うごきだした! ママ、いってきます。」

こうして文字で説明すると普通のお話のようですが、表紙からもおわかりでしょうか?
登場人物は、幾何学模様で描かれています。
赤い三角形のお顔に、水色の丸の体のぼく。
さらに印象的なのは、ぼく以外の乗客たち。
隣に座る人も、ぼくの荷物を網棚に乗せてくれる人も、誰もがみんな、真っ黒の丸の姿形。
車両の席がみんな黒の丸で埋まっているのは、なんとも言えない圧迫感と、緊張感。
どきどきしながら買ったお弁当を食べて、おなかいっぱいになったら、ぼくはなんだか眠くなっちゃって……

楽しい夢から目覚めたら、おや?
車内の様子が変わっています。
「よく ねむってたよ」
と声をかけてくれる隣の席の人も、他のみんなも、もう黒の丸ではありません。
それぞれのカラフルな色、それぞれのにぎやかな形、そして笑顔。
なるほど、ぼくの心の目で見た風景が、そのまま絵で表されているんですね。
おなかがいっぱいになって、ひと眠りしたら、初めてのひとり旅の緊張がゆるんで、風景も色を取り戻す。
目に見えない「気持ち」の変化が、目に見える色と形で表されている、驚きの一冊。
アートの入口になりそうな、新感覚の新幹線絵本で、ぼくの旅をぜひ一緒に体験してください。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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