『きょうというひ』【今日の絵本だより 第189回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『きょうというひ』
荒井良二/作 BL出版 本体1300円+税
2月も後半、冬も終盤。
そろそろ、雪の絵本も読み納めの時季でしょうか。
今回はしんしんと心にしみる雪の絵本、『きょうというひ』をご紹介します。
静かに雪が降った夜。
ページをめくれば、朝日が雪をまぶしく照らして、新しい日が始まります。
新しく編んだセーター、帽子とマフラーに身を包み、外に出かけた女の子。
一面の白い世界にひざまずき、雪で小さな家を、たくさんたくさんつくります。
そうしてひとつひとつの家の中に、ロウソクのあかりを灯し、空を見上げて祈ります。
「きえないように
きえないように……
ちいさな あかり
きえないように……」
「きょうというひの ちいさな いのりが
きえないように
きえないように……」
いつしか雪の大地を離れて、すうっと空に昇っていく、たくさんのロウソクたち。
静かな静かなこのお話は、読む人によってその時々で、感じるものが違うかもしれません。
クリスマスや新年の神聖な祈りを思う人もいれば、空に旅立っていった命を思い出す人もいるでしょう。
受け取り方はそれぞれでも、そこに必ずあるのは、雪の静けさの中の柔らかなあかりの暖かさ。
そして親子で一緒に読めば、
「きえないように
きえないように……」
というリフレインは、おまじないのように心に響くかもしれません。
帯には
「ちいさな いのりが
せかいを かえる……」
という言葉があります。
「きょうというひ」は、昨日とも明日とも違う、一度だけの特別な日。
胸が温かくなりながらも、背筋がすっとのびるようなこの絵本。
カバーをはずすと、大人の本棚にも似合うような、また違う装いの表紙が現れます。
祈りを届けたい大切な誰かへのプレゼントにも、おすすめの一冊です。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。