2021年2月3日

『ママはかいぞく』【今日の絵本だより 第186回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『ママはかいぞく』【今日の絵本だより 第186回】の画像1『ママはかいぞく』
カリーヌ・シュリュグ/文 レミ・サイヤール/絵 やまもとともこ/訳 
光文社 本体1500円+税

パッと目を引くタイトル、『ママはかいぞく』。
その表紙には、船の上から大きなカニに立ち向かうママの姿。
ママの後ろには、ぼくも一緒です。

「ぼくのママは かいぞくなんだ。
 ふねのなまえは カニなんてへっちゃらごう。
 もう なんかげつもまえから
 ママは たからのしまを めざして、
 かいぞくなかまと そのふねで
 たびをしている。」

海賊としての初めての戦いで、ママの胸にできた傷。
荒れた航海から帰りついて、襲ってくる吐き気。
ロングヘアではなくなった頭に、巻いたバンダナ。
読み進めるうちに見えてくる、冒険譚にひそむもうひとつのお話に、大人ははっとするでしょう。

2月4日は、ワールドキャンサーデー(世界対がんデー)。
がんという病に立ち向かうために、世界中で人々ががんのために一緒にできることを考え、行動を起こす日です。
日本では乳がんにかかる女性は年間9万人、生涯に乳がんを患う女性は11人に1人と言われています(あとがきより)。
作者のカリーヌ・シュリュグさんも、2016年に乳がんにかかりました。
幼い子どもに病気のことをどう伝えるか考えたとき、がんについてきちんと伝えている絵本が見つからなかったことが、この作品を生むきっかけになりました。
闘病しながらも続いていく家族との生活の中で、「けっして曖昧でない、そして安心できるメッセージを」、自身の息子に伝えたい。
そう思っていたとき、息子が大好きな海賊には、傷跡、バンダナ、吐き気、がんの闘病患者と似たところがたくさんあることに気づいたのだそうです。

TVでも紹介され話題を呼んだ『ママはかいぞく』は、第13回MOE絵本屋さん大賞第6位に入賞。
バックナンバー発売中のMOE2月号には、カリーヌ・シュリュグさん、画家のレミ・サイヤールさん、訳者のやまもとともこさんの受賞コメントも掲載されています。
がんという言葉に抱くイメージとは一味違う、明るさと希望と、勇気に満ちたこの絵本。
病気という事実の絵本ならではの伝え方に、深くうなずく一冊です。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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