『フワフワさんは けいとやさん』【今日の絵本だより 第106回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『フワフワさんは けいとやさん』
樋勝朋巳/文・絵 福音館書店 本体1400円+税
2月10日は、ニットの日。
「ニッ(2)ト(10)」の語呂合わせからですが、ちょうど一年で一番、ニットが恋しい時季でもありますね。
そんな時季にはこちらの絵本、『フワフワさんは けいとやさん』はいかがですか。
毛糸が大好きなフワフワさんは、毛糸屋さんで働いています。
今日は、編み物教室の日。
今日の生徒さん、クネクネさんと、ブティックシマさんがやってきました。
「ワンツウ ワンツウ」
とみんなでマフラーを編んでいるところへ、フワフワさんに帽子を注文したお客さまが。
寒い場所への海外旅行にあわせて、目と口だけしか出ない温かい帽子です。
ところがかぶってみたら、あらら、目と口の穴の位置がずれています。
大変、出発は明日です。
「すぐ なおします」
とお客さまに頭を下げて、フワフワさんはしょんぼり。
でも、すぐさま帽子を編み直し始めました。
生徒のふたりを忘れるくらいの集中力でお直しを仕上げる、フワフワさんのプロ意識。
クネクネさんとブティックシマさんは、そっと見守ります。
お昼になっても、脇目もふらず編み続けるフワフワさん。
それを静かに見守る、クネクネさんとブティックシマさん。
それでもおなかがぺこぺこで、後ろで静かにパンを食べているところは、いつ読んでもくすっと、そしてじーんとしてしまいます。
そう、このお話に出てくる人は、みんな優しい。
ちょっと不思議で、温かくて、優しくて。
その優しさがしみわたるようなラストに、一層じーんと、ほろっとしてしまいます。
そう、まるでニットの温かさそのもののような、なんとも心がほっこりするお話です。
文字だけではなかなかお伝えしきれない、この魅力。
ぜひ絵本を開いてご覧くださいね。
銅版画の味わいと上品な色彩が醸す空気感、その中のユニークな皆さんが、なんとも絶妙なマッチングです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。