2020年2月2日

『ふゆのはなさいた』【今日の絵本だより 第104回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『ふゆのはなさいた』【今日の絵本だより 第104回】の画像1『ふゆのはなさいた』
安東みきえ/文 吉田尚令/絵 アリス館 本体1500円+税

もうすぐ立春。
まだ寒さが厳しくても、暦の上では新しい春。
そんな時季にちょうどぴったりの、こちらの一冊をご紹介します。
『ふゆのはなさいた』です。

池のそばでひとり、泣いているこねずみ。
涙がぽちゃんと池に落ちると、
「なくのは やめてよ」
と、一匹の金魚が顔を出しました。
「だって ぼく、ひとりぽっちなんだもの」
と、こねずみははなをすすります。
友だちだったつばめくんは、どこかに飛んでいっちゃったというのです。
「ちがう ちがうってば ないちゃ だめ」
と、ヒレをぱしゃぱしゃふる金魚。
つばめは渡り鳥、春になれば戻ってくると教えてくれます。
それでもまた、今は会えない他の友だちを思っては泣きそうになるこねずみですが、金魚はそのたびに誤解を解いてくれます。
そして、
「友だち いっぱい いたじゃない。
 それにほら、ここにだって いるじゃない」
と。
にっこり笑い合ったふたりは、明日も会う約束をします。

ところが次の日は、今年初めての雪。
池には氷が張ってしまい、金魚は水面に顔を出せません。
悲しくて涙をこぼすこねずみを水の中から見上げながら、金魚は必死に氷を割ろうとしますが……。

「なくのは きらいよ。」
と言う金魚が、固い氷の下で、初めて流した涙。
それからの息をのむようなクライマックスは、絵本でしか表せない感動ではないでしょうか。
深い余韻に包まれながら、本を閉じると現れる裏表紙に、「ああよかった」と、さらにうれしい涙がこぼれてしまうのです。
ぜひカバーの折り返しを広げて、一枚の絵にして見てくださいね。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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