『じっちょりんのあるくみち』【今日の絵本だより 第52回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『じっちょりんのあるくみち』
かとうあじゅ/作 文溪堂 本体1300円+税
5月も後半、外を歩くのにもすっかりいい季節。
小さいお子さんと一緒だと、大人だけで歩くよりも、ペースがぐんとゆっくりになりますよね。
ときに道端で立ち止まりながら、ゆっくり、ゆっくり。
そんなペースで歩くことがぐんと楽しみになる絵本、『じっちょりんのあるくみち』をご紹介します。
団地の庭のすみにいる、とても小さなじっちょりん。
パパじっちょりん、ママじっちょりん、おにいちゃんじっちょりん、いもうとじっちょりんの4人家族です。
朝ごはんは、花びらや葉っぱ、それから花粉やみつ。
けれど、花のたねだけは食べずにとっておき、どんぐりの帽子でできた「たねかばん」に入れて、パパがせおいます。
「よし みんな、しゅっぱつだ!」
かたばみ、へびいちご、おおいぬのふぐり、ながみひなげし。
じっちょりんたちの行く先には、私たちもよく目にする草花が、あちこちに咲いています。
絵に記された名前を見て、「この花、こういう名前だったんだ」とはじめて知る人も多いのではないでしょうか。
「よし、ここに たねを うえよう」
道端でパパがたねかばんを下ろすと、家族みんなで、道や壁の小さなすきまにたねを植えていきます。
「きれいなはなが さきますように!」
なるほど、「あれ、こんなところに花が咲いている……」という驚きは、じっちょりんたちのしわざだったのですね。
草花よりも小さい体から見上げる世界は、大きなものでいっぱいのワンダーランド。
危ないこともあるけれど、ひょいひょいと身軽に乗り越えるじっちょりん。
読む側もいつのまにかじっちょりんサイズになって、道端の愛らしい草花を訪ね歩いているような気分になります。
最後のページは、小さなじっちょりん家族の冒険の軌跡。
「そうか、この道を通って、ここを渡って……」と、なんだかうれしくなってきます。
この絵本を読んだ後は、親子でじっちょりん探しをしたくなるかも?
いつものおなじみの道が、きっと今までよりキラキラして見えますよ。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。