『おはぎちゃん』【今日の絵本だより 第5回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『おはぎちゃん』
やぎたみこ/作 偕成社 本体1200円+税
今回は、秋分の日にぴったりな絵本をご紹介します。
そのタイトルは、『おはぎちゃん』。
縁側でおはぎを食べていた、おじいさんとおばあさん。
するとおじいさんのおはしから、おはぎがひとつ、庭へころころころ……。
庭先のフキの葉のかげでは、おはぎの下敷きになってしまったカナヘビが。
おくさんカナヘビが駆けつけて、「どっこいしょ」とおはぎを転がすと、まあ、おはぎはかわいい赤ちゃんではありませんか。
こう書くと「?」かもしれませんが、実際に読むとまったく違和感ないんですよ。
絵本って素晴らしい!
子どものいないカナヘビ夫婦は、赤ちゃんのおはぎちゃんを育てることに。
それを知ったクモはハンモックを、ミツバチは花のみつをプレゼント。
他にもチョウやトカゲ、たくさんの庭の仲間たちが、おはぎちゃんのお世話を手伝ってくれます。
みんなに見守られて、笑ったり、泣いたり、ハイハイしたり、すくすく育っていくおはぎちゃん。
ですがある日、思わぬ事件が……。
やぎたみこさんの絵本には、ちょっと不思議な主人公が多いのですが、その不思議さはどうでもいいくらい、お話にぐいぐい引き込まれます。
それはきっと、作者の登場人物への愛情が、絵本の中に満ちあふれているから。
見返しには、カナヘビ夫婦のカナコとカナヘイ、ダンゴムシのマルミ・クルミ・タマミと、主役、脇役に関わらず、庭のみんなが名前入りで紹介されていて、ここにも愛を感じます。
そしておじいさんの名前には、思わずクスリ(笑)。
懐かしい日本家屋の庭(と、床下)で繰り広げられるこのお話は、まるで現代の昔話みたい。
最後のページも、新しい物語を予感させて、秀逸なのです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。