「ブックハウスカフェ」店長・茅野由紀さんが選ぶ、「いのちを考える」テーマの絵本
kodomoe2021年8月号では、「プロ注目の作品&作家教えます! 新定番&これからくる絵本」と題し、東京・神保町にある「ブックハウスカフェ」店長、茅野由紀さんと、絵本編集者、山縣彩さんが対談、この10年をふりかえって、あらためて出会いたい・これから注目したい絵本&作家をご紹介しています。絵本好きのお二人の話は尽きることなく、誌面でご紹介しきれなかったものもありました。そこで、番外編として、茅野さんセレクトの絵本をウェブでご紹介。まずは、「いのちを考える」のテーマで選んだ5冊です。
本誌特集記事にもありましたが、震災後、ちょっと怖く感じる本、人生の暗い部分に焦点をあてた本に、注目が集まるようになりました。コロナ下、さらにその傾向が深まっているような感じをうけています。「暗い」というよりも、深いところに、ほんとうのことに目をむけているという感じでしょうか。
まずは、「いのちを考える」絵本。ブックハウスさんでは、過去にも「死を考える絵本」の特集コーナーなどを店頭にもうけてきたそうです。
こどもの本専門店店長
茅野由紀さん
ちのゆき/東京・神保町にある「ブックハウスカフェ」店長。 「本の扉をめくる瞬間が、至福の時。家でも、小学生怪獣ふたりと、絵本や物語ることを楽しんでいる毎日です」。
クマと少年
『クマと少年』 あべ弘士/作
ブロンズ新社 1650円
アイヌ民族の文化である、こぐまを育てて最後はカムイ(神)の国に送りかえす「くまおくり(イヨマンテ)」がベースになった絵本。アイヌの少年とクマの、出会いと交流、そして別れを、独特の視線で描いた、あべ弘士さんの創作絵本です。アイヌの人々の死生観、それは私にとって非常な驚きではありましたが、文化と命のとらえ方を考えるきっかけにもなる素晴らしい絵本で、「いのちをテーマにした本でおすすめは?」と聞かれたときによくご紹介しています。
かないくん
『かないくん』 谷川俊太郎/作 松本大洋/絵
東京糸井重里事務所 1760円
詩人の谷川俊太郎さんが一夜で物語を綴り、漫画家の松本大洋さんが2年かけて絵を描いた、というコピーとともに、話題になった絵本です。生きるものなら必ず迎える死。死ぬとどうなるのか、という哲学的な「答えのない問い」を読後に考えずにはいられません。印象的な表紙で、当店でもたくさんの反響があった1冊。
かなしみのぼうけん
『かなしみのぼうけん』 近藤薫美子/作
ポプラ社 1650円
2021年2月に発売され、読んだ時に、あまりの表現力の厚みに手がふるえ、思わず落としてしまった思い出が。文章がほとんどない絵本で、そのわずかなテキストのこれ以上ない効果的な使い方。理想の絵本がここにある!と、一晩中でも語り明かせるほど惹かれる絵本です(今は2泊3日分くらい語れます)。
作者の近藤薫美子さんの生と死についての書き方が独特で、「のにっき」(アリス館)もとても好きでした。
死に接したときの気持ちはひとりひとり違っていて、その決して他人と共有できないだろう気持ち。近藤さんの絵本は、それをほうっておくでもなく、言葉巧みになぐさめてくれるでもなく、ただ大切にしてくれる、そんな風に思うのです。
このあとどうしちゃおう
『このあと どうしちゃおう』 ヨシタケシンスケ/作
ブロンズ新社 1540円
ヨシタケシンスケさんのこの絵本もいい本でした。
ヨシタケさんの独特の、想像外の方向からの意外すぎる発想を、ユーモアとペーソスともに提示して、あなたはどう思う?と問いかける。このユーモアとペーソスの塩梅がうまいのが、奥深さを感じる要因かなと思います。
おじいちゃんのたびじたく
『おじいちゃんのたびじたく』 ソ・ヨン/作 斎藤真理子/訳
小峰書店 1540円
韓国の作家の絵本が、人気上昇中です。この絵本も期待しつつ読みましたが、死というと見送る生きている側の悲しみについて描かれることが多いなか、死ぬ側について描かれているところがいい。温かな絵とともに、心も泣き笑い。
ほか、『おじいちゃんがおばけになったわけ』(キム・フォップス オーカソン/著 エヴァ エリクソン/絵 菱木晃子/訳 あすなろ書房 1430円)『100万回生きたねこ』(佐野洋子/作・絵 講談社 1540円)なども、よくご紹介します。
命をテーマにした本は、その人なりの読むタイミングがきっとある。大人は自分でそれを選べるかもしれないけれど、子どもたちには、大人がタイミングを計ることをサポートしてほしいと思ってます。
ご紹介した絵本はとてもすばらしいものばかりです。心が動かされるし、自分の気持ちと向き合うきっかけになったりする。こういう本を、親子でじっと読める、そんな家族関係ってとてもいいなあと思うのです。
取材・文/山縣彩