「子どもの野菜嫌いは問題ではない」保育のプロ・柴田愛子先生に聞きました【第2回】
横浜にある認可外保育施設「りんごの木」を中川ひろたかさんたちと設立し、絵本『けんかのきもち』や『わたしのくつ』などの著者でもある柴田愛子先生。 保育者やママ向けのセミナーの講師で全国を飛び回る中、kodomoe webに寄せられるママの3大お悩みに3回にわたって答えてもらいました。今回は2番目のお悩み、「子どもの野菜嫌い」です。
親は子どもを知らない
ママから「野菜を食べない」「好き嫌いがある」「食べるのが遅い」という話もよく聞きます。「この子は野菜を食べないんです」と。でも、「この子は野菜が嫌いかもしれない」とは言わない。我が子の特徴として捉えているのではなくて、お母さんが「子どもが野菜が嫌いで困ってる」んです。そんなとき、私は「前世は肉食動物だったんじゃないの?」なんて茶化して言うんですけど、ママには、はっきりした子ども像があるんですよね。その目標がきっちりしている。好き嫌いがなくて、挨拶ができる子にしたいというような。でも、きちんとした子にしたいというのは、子どもの豊かな心を育てることになっているでしょうか?
走りたくて走る子に言われたこと
やらされるのと、やりたくてやるのとは違うじゃない? だから、中学や高校でやらされて学んだことは残っていなかったりします。ところが、やりたいことは困難があっても頑張れるじゃないですか。転園してきた4歳の子は、運動に特化した幼稚園から来たのだけれど、毎日走らなければいけなくて、本人が言うには「走るのと走らされるのは違う」って。そこで、親が「あっ」って気づいた。その親が素晴らしいですよね。食事も「食べさせられている」と子どもが思っていたとしたら? ママにとっても、子どもにとってもつらいことですね。
バランスの取れた食事を作り続けたらイヤになります
今のママは、自分の成長段階の中で子どもを体験していない。自分が子どもだった記憶は小学生くらいからでしょう? 子どもってかわいいけれど、異質な存在。初めてのことばかりなのに、責任を持たせられている。どうやれば責任を果たせるのか、皆目見当がつかない。だから、教えて育てたり、お金を使ってプロの人にお願いしたり、頭で考えるベストな方向に行こうとする。食事にしてもバランスの取れたものを毎日作り続けたら、イヤにもなります。自分のことじゃない、子どもを育てているからって頑張るわけですよね。それなのに、子どもが食が細かったり、好き嫌いが多かったら、イライラもします。
ママは「AI」になる必要はありません
「私はこんなに頑張ってるのに!」ってなる。そこで子どもが、「お母さん、毎日ごはんを作ってくれてありがとうございます」って言うわけはない。逆に食事の時間が苦痛になっています。4~5歳の子どもたちに「お母さんが一番うるさいときはいつ?」って聞くと「ごはんのとき」って答えますよ。「これを食べろ、よくかめ、ごっくんしろ、ひじ、足って、ずっと言ってる」って。これでは、監視状態ですよね。ごはんが楽しくないですよ。そんなこと言ったって、母親業、または父親業を全うするには、こうしなければいけない、って信じてしまう。正しくあろうとすればするほど、生身の人間からは遠くなってくるんですよね。例えば、「褒めて子育てをしましょう」の通りにすると、「自分のイライラは止めなくてはいけない」って、かえってイライラする。そうなると、「自分は無機質なAIにならないと、いい子育てはできない」ということになります。でも、人間はAIになってはいけない。情報や専門家の話を集めて子育てしたいなら、専門家かAIに子どもを育ててもらった方がいい。親子関係は、生々しい人が向き合うから、心が豊かに育つのです。心の栄養は、AIには与えられません。
失敗には修復できる力があります
ママがイライラして言葉がきつくなっても「思わず怒っちゃって、ごめんね」って伝えればOK。失敗には修復あり、って子どもは学んでいくわけです。子どもはママが大好きだから、ママが怒っただけで「ごめんなさい。元に戻ってください、笑顔になってください」って親にすがる気持ちでいます。この健気さが、親に引き受けようって思わせるわけですよね。子どもとしても「僕はママに愛されているんだ」「私はママにとって大事なんだ」って、少々難ありの親であっても、子どもなりに引き受けようとするわけですよね。子どもは、ママの特徴をとてもよく知っています。ママはどうでしょうか? どういう子にしたい、ではなくて、我が子がどういう子なのかを知ってみてください。
撮影/繁延あづさ
「言葉が遅いのはあたりまえです」保育のプロ・柴田愛子先生に聞きました【第1回】
柴田愛子
しばたあいこ/1948年東京都生まれ。保育者。1982年、横浜市で認可外保育施設「りんごの木」を創設。2歳から5歳までの子どもたちが通う。保育の現場に立ちながら、雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどで「子どもに寄り添う」姿勢を伝える。著書に『子育てを楽しむ本』『保育の瞬間』『こどものみかた』他多数。絵本に『けんかのきもち』(日本絵本賞受賞)、『ぜっこう』『ありがとうのきもち』『わたしのくつ』『ざりがにつり』他。
りんごの木 http://www.lares.dti.ne.jp/~ringo/