
俳優・宮沢氷魚さんインタビュー「小さい頃はウルトラマンなどのヒーローに夢中でした」
幼い頃は人前に出るのが得意ではなかったという宮沢氷魚さん。けれど、ウルトラマンや仮面ライダーの仮面をつけた「ごっこ遊び」になると、シャイではなくなったと話します。そんな“変身”の記憶が、俳優として人を演じる今の自分へとつながっているのかもしれません。そんな子ども時代の話から、最新作の映画『佐藤さんと佐藤さん』で感じた夫婦や家族に対する想いを聞きました。
シャイで寡黙でも、
仮面をかぶれば何にでもなれた
――宮沢さんは幼い頃は、どんなお子さんでしたか?
かなりシャイでした。人前に立つのがあまり得意じゃなくて、寡黙な子だったと言われます。でも、遊ぶとなると飛び回るのが好きで、ソファの上でずっとジャンプしてたり、結構アクティブには遊んでいました。

――アクティブとは、どんな遊びをしていましたか?
2歳ちがいの弟といつも一緒に遊んでいて、キャッチボールをしたり、自転車に乗ったりと、外で体を動かすのが好きでしたね。喧嘩もしたけど、すぐ仲直りしてまた一緒に遊ぶ、みたいな感じでした。ウルトラマンや仮面ライダーごっこもよくやっていました。ウルトラマンショーや戦隊もののイベントに行くのも大好きで、都内で開催されているものはほとんど足を運んでいたし、横浜まで遠征したこともあります。ショーを見たり、日曜の朝にテレビを見たりしてから、公園でそのまま再現していました。
――シャイだけれど、ごっこ遊びなら人前にも出られたんですね。
そうですね。鎧じゃないけれど、仮面を被ってしまえば人前でも大丈夫だったんだと思います。ウルトラマンになっちゃえばどこでも平気。役になりきれば楽しめるというのは、今と同じですね。俳優という仕事につながっているのかもしれません。
「学ぶ」という感覚がなく、
自然に英語を身に付けられたのは絵本のおかげ
――小さい頃に読んだ本についても教えてください。
家にはエリック・カールの絵本がたくさんありました。ほかには、『セサミストリート』とか。自分で読むのも、母が読み聞かせをしてくれるのも、すべて英語だったんです。日本語の絵本は『ぐりとぐら』シリーズをよく読んだのを覚えています。家で観るアニメも自然と英語で、『バーニー&フレンズ』や『きかんしゃトーマス』が好きでしたね。

――英語を自然と身につけられる環境だったんですね。
そうですね。言語を学んだという記憶がないので、日本語も英語も生活のなかで覚えた感じです。気がついたらどちらも話せていたので。日本で過ごしていると、日常生活では英語ってなかなか入ってきませんよね。だからそういう環境を作ってくれた両親には感謝しています。
台本にはない空白の時間を意識し、
積み重ねを大切に演じたい
――映画『佐藤さんと佐藤さん』で演じたタモツという役について教えてください。
タモツは、真面目で優しいけど、ちょっと不器用な人。僕もわりと似ていて、気持ちを伝えるのに時間がかかるタイプです。適切な言葉を探している間に時間が経ってしまって、伝えるタイミングを逃してしまうんです。結果、言いたいことを溜め込んでしまうのは、まさにタモツと同じ。それが溢れてしまうと止められなくなってしまうし、その姿がカッコ悪いのもわかっているんですよ、怒りながら恥ずかしい、みたいな(笑)。だから、言えないうちにすれ違いが起きてしまったり、爆発して喧嘩になったりというのもよくわかる状況でした。

――その溜め込みやすい性格が、妻であるサチとの喧嘩のシーンにも出ていましたね。
そうですね。喧嘩のシーンは、お互いがぶつかる「瞬間」ではあるのですが、そこにはそれまでの積み重なった時間があってこそだと感じていました。今回は、15年間という長い期間を演じているので、画面には映らない時間の方がはるかに長いし、夫婦それぞれの感情がたくさんあるんだろうな、と。というのも、監督の天野さんが、台本にはないシーンについても書いてくださったんです。サチを演じる岸井さんと一緒に読み合わせながら、もしかしたらこういう時間を過ごしていたのかもしれないねと、台本にはない空白の時間を埋めていく作業をしていくようにしました。

©2025 映画『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
――夫婦で家事についてもめたり、家事や育児に時間を取られてやりたいことができずにストレスが溜まったりしてしまうのは、とてもリアルでした。
僕自身、溜め込むタイプですね(笑)。だから、外で働くサチが疲れてしまうのも、家でゆっくりできていいでしょと思われがちなタモツの気持ちも、どちらもよくわかりました。
――岸井ゆきのさん演じるサチとの関係も印象的でした。
リハーサルでは、台本を読み込むより温度感を共有することを大事にしました。最初は台本を使わずに、雑談したり、一緒にご飯を食べにいったりして、お互いどういう人物なのかを知っていくようにしたんです。そこから自然と二人の関係性を構築していけたと思います。
「結婚」の形に正解はない。
別れが成長につながることもある
――夫婦や結婚に対しては、どのようなことを感じましたか?
結婚していてもしていなくても、信頼し合って生活をしていれば家族だと思える。結婚=幸せかというと、それが絶対ではないと思うし、そもそも正解ってないですよね。タモツとサチの場合は、結婚したからこそ、二人で一緒にいることが難しいと気づけたのかもしれませんね。

――そうですよね。結局、ふたりは最後にお別れを選択しますが、これについては、さまざまな受け止め方がありそうです。
僕としては、実際に完成した作品を観終えたら、悲しいお別れではなく、前向きな選択なんだと感じました。別れがあるからこそタモツは成長できたし、おそらくふたりはあそこからどんどん成長していく気がします。それに二人の間に生まれた命がある以上、家族であることは変わらない。家族としての愛情はどんどん増していくのかもしれない。だから、前向きなさよならだと感じています。
――別れを選択しないためにはどうしたらよかったんだろう、と考えてしまう人も多いと思います。
そうですね。タモツとサチは、お互いの姿をアップデートしていなかったのかなと思います。サチはこう、タモツはこう、と思い込んでいて、きっと許してくれる、わかってくれるという思いがあった。だから、食い違いが生じた時に、相手が変わっちゃったなと感じてしまう。もしかしたら、それぞれがお互いの変化や成長を理解して、一緒に喜んだり悲しんだりしていたら、結果は違っていたのかもしれません。

©2025 映画『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
――終わり方や喧嘩のシーンの理由など、観た後にいろいろ話したくなる作品ですよね。
観た方々が、話し合える作品にしたいという思いがありました。この映画を観て、自分の家族や友達との関係性を考えたときに、新しい発見があったり、こうしてみようかなと考えたり、自分が当たり前だと思っていたことに疑問を持ったり、そういう時間が生まれたらすごく嬉しいです。
宮沢氷魚
みやざわひお/俳優。1994年生まれ、アメリカ・サンフランシスコ出身。2015年に『MEN’S NON-NO』専属モデルとして活動を開始し、2017年のドラマ『コウノドリ』(TBS)で俳優デビュー。以降、『偽装不倫』『エール』『ちむどんどん』などの話題作に出演し、映画『エゴイスト』での演技が高く評価され、第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞・新人俳優賞を受賞。映画、ドラマ、CMに加え、英語力を生かしたナレーションや国際共同制作への参加など、活動の幅を広げている。近年の出演作に「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」や「グレイトギフト』などがある。
INFORMATION
映画『佐藤さんと佐藤さん』

©2025 映画『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
性格も価値観も正反対の二人が出会い、ひかれ合い、夫婦となり、15年の歳月をともに過ごす姿を描いたヒューマンドラマ。ダンスが好きで活発なサチ(岸井ゆきの)と、まじめでインドアなタモツ(宮沢氷魚)。同棲、結婚、妊娠、子育てという人生の節目を重ねる中で、家事や育児、司法試験をめぐるすれ違いが二人の関係を揺らしていく。笑い合い、支え合いながらも、価値観の衝突を繰り返す中で夫婦はどう変わり、どこへ向かうのか。結婚生活のリアルを切り取り、人と暮らすことのむずかしさと問いを突きつける作品。
出演:岸井ゆきの 宮沢氷魚 藤原さくら 三浦獠太 田村健太郎 前原 滉 山本浩司 八木亜希子ほか
監督:天野千尋
配給:ポニーキャニオン
©2025 映画『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
https://www.sato-sato.com/
11月28日(金)全国公開
インタビュー/晴山香織 撮影/寺沢美遊 スタイリング/末廣 昂大 ヘアメイク/古久保英人(OTIE)



































