
岩田剛典さんインタビュー「イライラはしても投げ出さずに飲み込める我慢強さは中学受験から学んだ」
映画『金髪』で、若⼿でも中年でもない年頃で⾃分を客観視できていない中学校教師・市川を演じた岩田剛典さん。「今まででいちばんみっともなくてダサい主人公」と語るこの役に込めた思いとは。さらに、子ども時代の思い出や、受験を通して感じた“学ぶこと”の意味についても語ってくれました。
いわたたかのり/1989年生まれ、愛知県出身。三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして2010年にデビュー。2021年には、ソロアーティストとして歌手デビュー。アーティスト、俳優として活躍中。俳優としては、NHK連続テレビ小説「虎に翼」、TBS日曜劇場「アンチヒーロー」をはじめ、25年には2本の主演ドラマ「フォレスト」、「DOCTOR PRICE」に出演。数多くの映画やTVドラマに出演。8月8日公開映画「ジュラシック・ワールド/復活の大地」ではメインキャラクターの吹き替えキャストとして声優初挑戦も果たす。アーティストとしてはソロのアジアツアーTakanori Iwata ASIA TOUR 2025-2026 “SPACE COWBOY” が同じく11月より開催。
主人公が食が細くなっている描写には
共感しました(笑)
――映画『金髪』は、校則への抗議として生徒たちが金髪で登校してきたことに端を発し、岩田さん演じる中学校教諭の市川が公私共に窮地に立たされながら成長していく姿を描いた作品です。オファーが来たときはどう思われましたか?
シンプルに脚本がめちゃくちゃ面白くて、楽しそうな作品だと感じました。この作品の特徴のひとつとして、市川の心の声がずっとベースに存在しているんです。そのワードセンスが僕はすごく好きで。それと、登場人物がそんなに多くないので、同じシチュエーションの会話劇で見せる側面が強いところにも惹かれて、ぜひ参加したいと思いました。

――市川は、年配の教師に囲まれて“かわいがられる後輩キャラ”が板についてしまった大人になりきれない30歳というキャラクターです。オフィシャルコメントで「今まで演じた中で多分ダントツでみっともなくてダサい主人公」とおっしゃっていましたが、たしかにダサい場面が多々ありましたね。
人間なら誰しも持っているちょっとかっこ悪い部分をかき集めたようなキャラクターで、ずっとダサいしイタいですよね。僕が市川の年齢に近いからそう感じるわけじゃなくて、「小学校の頃、こういうやついたなぁ」とか「こういう言葉、聞いたことあるな」みたいな、“あるある”的なものを描いたシーンが多いと思います。
なので、なるべく演技しないように心がけていました。そういうネタの場合、観てくれた方が日常の中で思い出してクスッと笑ってくれるのがいちばんいいと思うんです。キャラクターに没入してもらうような見せ方だと笑えなくなってしまうから、できるだけ素の状態で表現したいな、と。
――過去最高にダサい役を演じるのは、俳優としての挑戦という意気込みもあったのでしょうか。
それはまったくなくて、単純に楽しみでした。それよりも、セリフの量がとにかく多い上に、流暢にまくしたてないといけないのがチャレンジでしたね。監督からは「とにかく早口で、句読点なしで全部しゃべってくれ」と言われていて、そこは大変でした。

――岩田さんは今36歳です。「おじさん」になりつつあることを受け入れられずジタバタする市川に共感する部分はありました?
僕も年々食が細くなってるんで、市川がごはんをちょっと食べて「もういいかな」となっていたのは共感します(笑)。正直、「おじさん」の部分が誇張されているキャラクターなので、共感はなかなか難しいんですよね。ただ、今は誇張だと感じながら演じていることを、10年後20年後には無意識にやっている自分がいるのかな、と思ったりしました。
――やっぱりおじさんにはなりたくないですか。
僕はなりたくないですねぇ。でも、どうなんだろうな……。「おじさんになる」って多分、何も気にしなくなることだと思うんですよ。だから「おじさんになる/なりたくない」ってことすら、そのうち気にしなくなるのかもしれないですね。
中学受験の経験は
人格形成に大きな影響を与えている
――小さな頃に読んだ絵本で記憶に残っているものはありますか?
思い浮かぶのは『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし』(レオ・レオーニ著 谷川俊太郎訳 好学社)ですね。絵の感じがすごく好きだったし、みんなで大きな群れを作って擬態するお話も面白かった。あとは『はらぺこあおむし』(エリック=カール/偕成社)も好きでした。ページに穴が開いているんですよね。そういう仕掛けの演出が楽しくて。家にあって、寝る前に親に読んでもらっていた記憶があります。

『はらぺこあおむし』エリック=カール作 もりひろし訳 偕成社 1320円
――絵や仕掛けに惹かれていたんですね。岩田さんは近年、油絵を描かれたりソロプロジェクトのCDジャケットを自ら手掛けたりとアート活動をされていますが、子どもの頃から絵を描くのもお好きでしたか?
好きでした。下手くそですけど、似顔絵を描いたり、ノートの端っこに落書きしたり。そういうところから描くようになったんだと思います。
――絵を描く以外にはどんな遊びをされていたんでしょう。
草野球、かくれんぼ、鬼ごっこ、高鬼などなど。ほとんど外で遊んでましたね。それと、虫が好きでした。今はもう、まったくダメですけど(笑)。毎年夏になると1人でセミ獲りに行っていたぐらいです。
セミ以外にもいろいろ獲ってきて飼ってました。カブトムシだのクワガタだの、カエル、イモリ、ザリガニとか、本当にいろいろ。東京で育った方はびっくりされると思いますけど、愛知県の僕の実家の近所は自然が多くて、ちょっと歩けば林があるような環境だったんです。

――家中が飼育カゴだらけになりますね!
カゴだらけでした。親は多分、それも勉強の一環だと思って放っておいてくれたんでしょうけど、どんどん増えていくから本当は嫌だったでしょうね(笑)。
――ただ、外遊びに興じていた低学年から一変して、高学年になると中学受験のために勉強漬けの日々を送られたと過去にたびたび語られています。「なんでこんなつらいことをやらないといけないんだ」と周りの大人に訴えたこともあったそうですね。
そうですね。当時は本当にそう思っていました。
――それほど子ども心には辛かったのだと思いますが、36歳になられた今、振り返ると受験勉強に励んだ経験はご自身にどんな影響を与えていますか?
性格形成にはすごく大きな影響を与えていると思います。結果論ではあるんですが、ひとつ言えるのは、いろんな不条理に耐える忍耐力はそのときに身についたものだな、と。大人になってから「あの経験があってよかったな」と思うことが増えました。何か理不尽な事態に遭遇したとき、イライラはしても投げ出さずに飲み込める我慢強さは受験から学んだと思います。
それと、やっぱり受験勉強をしていると徹底的に人と比べられるじゃないですか。点数をつけられて毎週順位が出てクラス分けされて、その結果次第で喜ばれたり怒られたり。スポーツに本気で打ち込んでいる人でもない限り、子どもはあまり味わわない感情だと思うんですよね。そういう経験を早いうちにしたのは、競争社会というものの勉強にもなりましたね。

――子育てをする上で教育方針は常に悩みの種です。多くの人が「子どもの意思を尊重したいけれど、将来のことを考えるとちゃんと勉強させたほうがいいのでは……」といった悩みを抱えていますが、岩田さんだったらどう答えますか?
良い面もあれば悪い面もありますよね。やっぱり過度に教育を強いられると、トラウマのようになってしまうこともあるだろうし。僕自身もそういうところはあって、芸能界デビューしてすぐの頃は「受験勉強が大変だった」という話をメディアで結構よくしゃべっていたんですよ。20代前半のその時期は、まだ親に対する納得のいかなさを抱えていたんですよね。「なんで俺ばっかりこんなことさせられたんだ」「みんなみたいに遊びたかった」って。 ただ、今はもう、その記憶が薄れていってるんです。つらかったことも、時が経つと別になんでもない経験だったように思えてしまう。やっぱり時間が解決するものってあるんだな、と思います。
――時間が、少しずつ癒してくれるものですね。
それに、そうやって散々勉強させたのに僕は芸能界に入ってますからね(笑)。子どもがどういうふうに育っていくのか、どういう進路を進むのかというところまでは受験では決められないんだと実体験から感じます。親としては多分、その子が幸せになってくれればいちばんいいんでしょうし、育て方の正解は一個じゃないんでしょうね。個人的には、子どものやりたいことを自由にやらせて伸ばしてあげるのがいいんじゃないかな、という気がします。
INFORMATION
『金髪』
中学校教師の市川は、どこか大人になりきれない30歳。ある日、担任するクラスの生徒たちが“金髪デモ”を起こし、学校中が大騒ぎに。市川は「自分らしく生きること」と真正面から向き合っていく——。
監督:脚本:坂下雄一郎
出演:岩田剛典、白鳥玉季、門脇麦、山田真歩、田村健太郎、内田慈ほか
11月21日(金)全国ロードショー
https://kinpatsumovie.com/
インタビュー/斎藤岬 撮影/近藤紗菜 スタイリング/渡辺康裕 ヘアメイク/下川真矢(BERYL)



































