小児科医だから、脳外科手術ができるわけじゃない。それぞれが得意を活かせば、できることはあると思うんです。だいすけお兄さんが、国境なき医師団の加藤寛幸先生と対談。【だいすけお兄さんのパパシュギョー!・17】
だいすけお兄さんが、パパやママの代わりにさまざまなジャンルの専門家からお話を聞く「だいすけお兄さんのパパシュギョー!」。
今回のゲストは、国境なき医師団の医師として、世界の貧困国や紛争地域などで医療援助活動を行っている加藤寛幸先生です。世界の全ての子どもたちが健康で平和に過ごせるために、私たちにもできることは、あるのでしょうか?
仕事を通して、命の重さと向き合う
だいすけお兄さん(以下だいすけ) 加藤先生の著書『生命の旅、シエラレオネ』を読んで、先生が毎日現地で命に向き合っている、そのリアルな重さをダイレクトに感じました。
僕自身も2015年に「おかあさんといっしょ」の企画で、各地の子ども病院に行ってミニコンサートをしたことがあるんですが、そうした場所に行くのが初めてで、ひとりひとりの命の重さについて、あらためて考える機会となったんです。会場まで移動できない子たちを病室まで訪ねたら喜んでくれたり、体は動かせなくても、歌を聞いて首だけは動かしてくれたり、「あ、僕たちのしていることには、こんな意味があるんだ。この子たちにも元気を届けられるんだ」って思いました。
加藤先生(以下加藤) ありがとうございます。だいすけさんのように、子どもたちに歌を届けるのは、今あることに何かをプラスする仕事ですが、僕らの仕事はマイナスからやっとゼロまで戻す仕事のようで、うらやましく感じることがあって。
音楽やスポーツは子どもたちに夢を与えます。なので、いつも「すごい仕事だな」って思いで拝見しています。
最初はやる気が空回りする日々も……
だいすけ 先生が国境なき医師団の一員として初めて活動したときのことを、あらためて教えていただけますか。
加藤 医者としてどの道に進もうか迷っていた頃、通っていた教会の恩師から「損をすると思う方を選びなさい」「最も弱い人たちのために働きなさい」とアドバイスをいただいたんですね。
ちょうどその頃、日本に国境なき医師団の事務局が立ち上がって、ある空港で偶然、その紹介映像を見たんです。痩せた子どもとドクターが見つめ合うような映像だったんですけど、もうその瞬間に「これだ!」って思いました。
でもそこから準備に10年ぐらいかかって、採用試験も3回目でやっと受かって、ようやく派遣されることになりました。そのときはもう有頂天というか、現地で会う人会う人全てがまさに、僕が憧れイメージしていた「国境なき医師団」のドクターといった感じで、格好よくって。「僕もいつかああいうふうになるんだ」って、とにかくやる気に満ちていました。そのやる気がちょっと裏目に出ちゃって、チームの中で浮いちゃったこともあるんですけど(笑)。
だいすけ いや、その「これだ!」って出会いは、僕も一緒です。
歌と子どもが好きだったので、「好きなことを仕事にしたい」と思っていたんですが、ある日、幼稚園の先生向けの資料で、「子どもの心は柔軟だから、たくさんの音楽を小さいうちに聴かせてあげることが、一生の心の豊かさにつながっていくんですよ」っていう記事を見て。
「あ、これだー!」っていう気持ちで家に帰ったら、たまたま弟がテレビで「おかあさんといっしょ」を観ていたんです。歌のお兄さん、お姉さんと子どもたちが歌ってるのを観て、まさに「これだ!」って思いました。
加藤 いや、歌のお兄さんはもう本当に狭き門ですよね。目指したからといってなれるものでもない、すごいです。
だいすけ いやいやいや。
でも、そうやって意気揚々と現場に飛び込んだものの、やっぱり子どもたちの扱いのプロではなかったので、最初はみんな全然笑ってくれなかったりとか、うまくコミュニケーションがとれなかったり、失敗ばっかりで。なんか気持ちばっかりが空回りしてしまう、最初の2年ぐらいは「うまくいかないな」って思うことも多かったので。加藤先生もそうだったんだって、同じものを感じられるところがあってうれしいです。