衣替えの季節に困る「捨てられない服」の行き先が素敵すぎた【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を届けてもらう今回は、ドイツ在住の中原さんから。
衣替えの季節に困る「捨てられない服」が素敵に生まれ変わります!
衣替えの秋
「おかあさん、Tシャツがだいぶたまってきたね」
「そろそろ使い道を探さないとねー」
その日、私とリンゼは腕組みをして「捨てられない箱」と対峙(たいじ)していました。
収穫の秋、読書の秋、長袖が欲しい秋。秋、それは衣替え。
季節の変わり目がくると身体が衣服を要求してきます。そのタイミングで私たちはもう着られない季節外れの服をタンスから引っ張り出し、譲るもの、ゴミにするもの、気持ちの整理がつくまで取っておくものの3種類に分けています。
譲るものは、買ったけどタンスの中で忘れられてたなど、使用頻度の低かったきれいなもの。
ゴミにするのは修繕のしようもない下着などです。これらはツルッと手放せる。
厄介なのが「捨てられない箱」の住人、思い入れのある服です。ゴミ行きのぼろぼろ服って、ぼろであればあるほど子どもも強い思い入れを持っているものなんですよね。
特にTシャツやカットソーなんかはお気に入りの柄を子どもが自分で選んでいるので擦り切れて穴が空いてても取れないシミがついてても、そのシミをつけた瞬間が布には残ってる。そんな一緒に過ごしてきたKumpelちゃん(相棒)捨てられるわけがないと子ども達は言う。
ま、そういう服って誰にでもあるもんな、と取り敢えず寝かせておく箱を作って4年が経ち、時間を置いてみたらさすがにリンゼの気持ちも落ち着いたのでした。
「これやっぱ捨てないで何か作りたい、日本から持ってきた本に布を裂いて草履(ぞうり)作るやり方載ってたよね。ああいうのやりたい」
「裂いて編むやつね。リンゼはTシャツ裂いても大丈夫?」
「悲しくなるかもしれないけどこのままじゃ新しい服を置く場所がないし、毎年着られない服が増えるんだもん」
「そうだね。手を加えてアップサイクルするのは良いアイディアだね。布で作った草履、リンゼ履くの?」
「あ……履かないかも。裸足の方が好きだし」
そんな話をする私たちの足元にはコットンラグが。
「ラグ作ってみる? 作り方知らんけど」
「やろうやろう! 物をよく見れば作り方はぜったい分かるよ!」
ということで私たちは捨てられない服をラグに変えることにしたのでした。
作り方知らんけど。
まずは物の観察です。
「縦糸と横糸があるね。縦糸は1ミリくらいの太い糸だ。木綿かな?」
「細く裂いたTシャツを横糸として渡してあって、うえ、した、うえ、した、シュトプフェンとおんなじだ」
糸を交差させていくと面積のある布になることは靴下の繕いから履修済みです。
「大事なのはこの素材をこれからも使っていけるようにする事だから……どのサイズにしたら毎日使う物になると思う?」
「リンゼは大きいのがいいと思うな!」
大きいのかー、仕上がるまでやる気が持続するのか? まあいいや、やってみたらよろしいわ。
木枠を作る。薪にする廃材で
春先に部屋を自力でリフォームし天井板をひっぺがしました。捨てずに取っておいた天井板がまだガレージに積んであります。冬になったら暖炉にくべてピザでも焼こうと思っていたのです。その板を使ってラグを織るための木枠を作ることにします。
「失敗しても」
「気にしない!」
「材料元々」
「全部ゴミ!」
突飛な思いつきで新しいことを始める時、この精神があると心が楽です。買ってきた材料だと失敗した時に悔しいけど、元々燃やす予定だった天井板なら工作で失敗してもピザを焼く薪を切る手間が省けるだけです。
「釘、何センチ間隔?」
「うーん、わかんない。1.5センチくらいにする?」
「オッケー! 足りなかったら打ち足せばいいよね」
トトンッ、と釘の先を木材に食い込ませ、パンッと打ち付けると。
「ありゃ曲がった」
「やっとこで抜いて新しいの打ちな。失敗してもいいから、数を打て数を」
母のアドバイスはお蝶夫人か丹下段平か。釘打ち上達の秘訣(ひけつ)はとにかく数を打つことと、打つ場所の状態を見定めることなのです。
うっかり節にうちつけてしまうと木材が割れてしまうので普通は木材を手に取る時点で節が無いものを選ぶかドリルで穴を開けてから打つなどするのですが
「めんどうくさい。節を迂回(うかい)しよう」
「そうしよう」
私たちのお気楽作戦は釘を一列に揃えることも放棄して進む。
Tシャツよ、さらば
とうとうTシャツが衣類の形状を手放す時が来ました。
「ううう、やっぱり自分のTシャツは自分の手でやぶきたくないからお母さんやって……」
穴が空いても着続けたお気に入りですからいざとなると悲しくなっちゃうのはよく分かります。じゃあお母さんが「これからもよろしく!」の気持ちでやぶきましょう。
リンゼはこっちのお父さんのTシャツやぶく? と聞くと元気に 「うん!」
勢いよくビリビリビリビリー!
「Tシャツやぶくの楽しいね。面白いな、なんでクルンって丸まるんだろう」
Tシャツのようなカットソー生地は裂いてぴよーんと引っ張ると布の端が内側に丸まって一本の極太糸に早変わり。脇の縫い目をハサミでチョキンと乗り越えたら引き続きビリビリビリビリー!
まだヨレヨレになってない新しめの生地は幼児の力だと難しそうだったので「ぴよーん係」や「糸玉作る係」になってもらうといいかもしれません。 Tシャツをやぶくとちぎれた繊維からホコリが出ます。舞ったホコリを掃除しやすい部屋や外でやぶくと後始末が楽。
まだ着られる不要な衣服の処分先として、ドイツには衣料の寄付ボックスというものが街角にあり、これにポトンと入れるだけで家の不要な服はすっきり目の前から消え去ります。
寄付ボックスに入れると生活困窮者に約1割が行き、4割が東欧やアフリカに繊維または商品として送られ、3割がドイツ国内の廃品業者に売却、1割は断熱材として繊維利用、1割がゴミ焼却されているそうです。
アフリカに送られた衣類はすでに飽和状態でその行き先を無くし巨大なゴミの山を作り出すという社会問題になっています。寄付ボックスの運営は自治体、赤十字、教会など様々です。
線から面へ。織るということ
「じゃリンゼは糸渡してくね」
うえ、した、うえ、した、と釘に糸掛けて行き来する娘を放っておいたらどんどん先に進んで……みぎ、ひだり、みぎ、ひだり、と織り始めていました。
大きいラグなんて完成までの時間がかかりすぎて途中で飽きてしまうのではと心配したのも杞憂でした。Tシャツで作った糸は一本一本が太いため想像だにしなかった速さで面積がうまっていくのです。
「すごいね、折り返して柄を作るとかよく思いついたね」
「引っ張ると幅が縮こまっちゃうからむずかしいよ。お山のところの服はリンゼが赤ちゃんだったとき着てたのだね。ふふふ」
これはもしかしたら、とんでもないものが作り出されているのではないか。捨てるはずの服が形を変えて織り直されていくとき、こどもらが吐き出した離乳食のシミも、ペンキに突っ込んだアクロバティックな汚れも、素材に記された愛おしい記憶として一緒に織り成されていくのだ。
「ラグつくるのいいアイディアだよね。大切なものをゴミにしなくていいし、作るのは超楽しいし、おかあさんも一緒だし」
リンゼは話しながらリズミカルに指を糸にくぐらせ、フォークでとんとん目を詰めていく。 自分の手元にやってきた素材をさいごまで大切にしたいというリンゼの気持ちと、溢(あふ)れんばかりの感性で織られたこれは間違いなく魔法のじゅうたんだ。
今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn