『かえるのほんや』【今日の絵本だより 第294回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『かえるのほんや』
やぎたみこ/作・絵 PHP研究所 1430円
前回に引き続き、今回もかえるの絵本をご紹介。
『かえるのほんや』はできたてほやほや、ぴちぴち元気なかえるやおたまじゃくしがたくさん出てくる新刊絵本です。
町のはずれにある、赤い屋根の古い本屋さん。
その裏に広がる緑の森の、池のほとりのやなぎの木。
たくさんのかえるがそこに向かって、根元の穴に入っていくと、穴の向こうにあるのはかえるのほんや。
「ようこそ みなさん、おあつまりですね。
それでは そろそろ はじめましょう」
本を手にしたかえるの店長が真ん中に座って、いつものおはなし会が始まります。
1冊目は、『たまごから かえる』。
2冊目は、『こわいこわい へび』。
3冊目は、『ほんやを つくった かえる』。
おはなし会の後は、みんなそれぞれお店の中で、好きな本を読んで過ごします。
かえるのツボをおさえたラインナップの本たちは、全部このお店で作られたもの。
本の工房になっている、奥の部屋に入っていくと……。
本の材料である紙や絵具をかえるたちがゼロから作る様子も、作家のかえると絵描きのかえるチームのお話づくりにまつわる事件も、ページをめくるたびにずっとワクワク続きなのですが、それは読んでのお楽しみ。
新しいような、どこか懐かしいような。
楽しく笑っている内に、きらきら輝く宝物をもらったような。
本がもたらす、まったき幸せに包まれる読後感。
「ほんが あるって すばらしい。
ほんやが あって よかったな。」
最後のページの言葉に、「そのとおり!」と、自分もかえるのひとりになった気分で拍手したくなる一冊です。
お話が終わった後、裏表紙手前の見返しには、あいうえお表のように「かえる文字」の一覧表が。
●は「あ」、■は「か」、▲は「さ」……と表と照らし合わせて、お話の中に登場したいろんな本のタイトル(かえる文字)をひとつひとつ追っていくと、わあ、読める読める!
「自分で読める」というみずみずしい読書の感動を、大人にも思い出させてくれる素敵なサプライズです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。