ただいま!からの、つまみ食い。夏のドイツはベリーが豊作【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツで子育てをする中原さん。今回は、中原さん宅の敷地内、半径5mで起こったできごとを届けてくれました。姉のリンゼちゃんと妹のおいもちゃんが帰宅後すぐに向かうのは……。
庭の実を
モグモグモグ!
7月。ただいまーと帰って来た子どもたちは、帽子の下の髪を、汗でおでこに貼りつけたまま、まっすぐ裏庭に走っていきます。
私が荷物を下ろしたり郵便受けを覗いたりとバタバタしているそばから、がさっ、がさっ、と葉が揺れる音が聞こえてきて、ああ、おやつをたべているんだな〜と庭へ向かえば、案の定子どもたちの口はモグモグと忙しい。
爽やかなパロットグリーンの枝にぶらさがっているラズベリーはふんわりと柔らかなルビー色。そんなハッとするようなコントラストには目もくれず、子どもたちの手はむんずと実を掴み、ぽいぽいと口に投げ込む。手はすっかり真っ赤のベトベトだしもちろん服にもシミ!
そんなに急がなくてもラズベリーは毎日実るのだし競争ではないのだからゆっくり食べればいいのに。
そうこうして見ていると、ラズベリーの横にセイヨウスグリが色づいているのを見つけたおいもさんが「あったー!」と手を伸ばし、その途端、トゲで手を引っ掻いて泣き出します。そうだね。セイヨウスグリはトゲトゲだよ。気をつけようね。
夏のドイツはベリーがたくさん。あざやかな夏の彩です。
ベリーと聞くと、どんなベリーを想像しますか? ストロベリー、クランベリー、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー。日本でもたくさんのベリーが親しまれています。
ヨーロッパに古くから自生しているブルーベリーやラズベリーなどは短い夏にだけ手に入る栄養価の高い貴重な食材として昔から人々の暮らしを支え、現在でもお菓子に、お料理に、お酒造りに、はたまた薬用にと世界中で人々に愛され、栽培されています。
時代を経るにつれ、果樹作物というのは往々にしてより育てやすく、収穫量が増えるようにと改良を加えられていきます。
しかし、このStachelbeerenシュタヘルベーレンは違います。
英語ではGooseberry、日本語ではセイヨウスグリ。ドイツ語だとStachelbeerenシュタヘルベーレンと呼ばれています。シュタヘルというのはトゲ、ベーレンがベリーという意味。直訳でトゲイチゴ! なんと勇ましい名前でしょう。
でも見てください。その名の通り、ものすごい立派なトゲが!!
ラズベリーにもブラックベリーにも多少なりともトゲはありますけれども、まだまだヒヨッコです。セイヨウスグリの比じゃあない。
森の中に無防備で生えていると野生動物に食べられてしまいますから植物は防衛するための機能を身に備えていきます。この立派なトゲは実を守るための自然な姿なんですね(日本でいうと柚子がトゲだらけですね)。
数あるベリーの中でも品種改良のされていない、昔から食べられてきた原種なのだそうです。若い実は透き通る黄緑色でマスカットのようですが、味は……うわわわ、すっぱ!!! すっぱい!! 容赦無くすっぱい!! すっぱくて、野趣あふれる味。
これが熟すと実の色は紫色を帯び、中もトロッととけて柔らかな甘さになります。次女おいもさんの大好物です!
随分前に友達の庭から株分けしてもらった我が家のシュタヘルベーレンは、順調に根付き、今年も豊作でした! その日に使う分を収穫して、酸味を生かしたジャムにしまーす! 摘んできた実を洗って、実の先についた花の残りを取ったほうがいいのですが……。
「おかあさん、リンゼ、もうお花だったもの、取るの疲れちゃった」
「おいもさんも」
……まあいっか! 面倒なのでそのまま煮てしまえ〜。
子どもと何か作っていて予定通り進んだ試しなど無い。
失敗知らず! 型いらず!
食いしん坊のためのレシピ
鍋に入りきらなかった分は、半分に切ってケーキの上に散らしましょう。
私の周りだけかもしれませんが、ドイツの家庭で日常的に作られているお菓子って、目分量だわ余った分量外の材料もついでに入れてしまうわ、途中で生の生地を味見して砂糖を足したりするわ(生の生地を味見する記事はこちら!)で本当におおらかだなという印象を受けます。
「ゴムベラに持ち替えてさっくり混ぜる」とか「湯煎しながら泡立てる」とかの私がお菓子作り界の常識だと思っていたテクニックを、ドイツ人友人宅でのお菓子作り会などではついぞ見たことがありません。
こちらはご近所さんが教えてくれた、失敗知らずの型のいらないレシピです。 混ぜて散らして焼くだけの素朴なたまご味のケーキは、難しい工程が無いので子どもが一緒でも作りやすいです。 すっぱいフルーツがシンプルな生地にとっても合うので梅、プラム、苺やさくらんぼなどで焼いても美味しいですよ!
材料
バター 160g
砂糖 160g
卵 3個
バニラエッセンス 1振り
塩 1つまみ
小麦粉(半分を全粒粉にしてもOK) 200g
片栗粉 50g
ベーキングパウダー 小さじ2
ベリー(すっぱいフルーツ) 300g〜500g
※グラム数はあくまでも参考程度。水気の多いフルーツがたくさん載るとしっとり、少なめはパサっとします。お好みで!
作り方
1、オーブンを200度に余熱し、天板の上にオーブンシートを引きます。小麦粉、片栗粉、ベーキングパウダーは別のボウルに入れて合わせておきます(ふるわなくていい)。ベリー(すっぱいフルーツ)は洗って、水気を切り、だいたい1cm厚になるように切ります。
2、室温に戻したバターに砂糖を入れてよく混ぜ合わせます。
3、といた卵をすこしずつ混ぜ合わせ、バニラエッセンス、塩を加えてわーーーーっと混ぜます。
4、小麦粉、片栗粉、ベーキングパウダー(1で合わせておいた)を入れて混ぜます。全体が混ざったらOK!
5、天板の上に敷いたオーブンシートにだぁーっと流して厚さ1cmほどになるようにならします。ベリー(すっぱいフルーツ)を散らします。
6、オーブンで20~30分焼き、きつね色の焼き目がついたら出来上がりです!
焼き時間がたったの20〜30分と短いのもこのケーキのいいところで、まさに食いしん坊のためのレシピと言えましょう(オーブンは電気代食うからね!)。
いい香りが漂ってきたからオーブンを覗いてみると……いい焼き色がついています。
タイマー鳴ってないけど出してしまおう!
焼き立てはサクサクで香ばしく、一晩経つとベリーの果汁が風味とともに生地全体に行き渡ってしっとりします。
ああ、サクサクもしっとりも、どっちも好きだー!
子どもたちが喜んで手伝うのは、焼き立てを食べられるのは焼いた人だけの特権であることを知っているから。
食べやすい大きさに切って、急かされるようにお皿に分けて粉砂糖を振ると雪が降った! と子どもたちは大喜びです。でも降った雪はアツアツのケーキの上で溶ける! みるみるうちに……。
「おかあさん……雪がとけちゃったよ……」
「ケーキ触ってみなよ、まだ熱いでしょ」
「でも、でも、リンゼは雪がほしいよ」
「暑いところだと雪はとけるからね。雪が欲しかったら粗熱が取れるまで待ってたら?」
「んーーー、まあいいや! もう食べる! 雪はこんどにする!」
「おいもさんの、ベリーが少ないよ」
「じゃあジャムを足しましょ」
「おいしいね!」
生では食べられなかった実も、甘めの生地の上に載ってオーブンに入ったら爽やかなアクセントに早変わり。昔の人もこうして食べていたのかな。
ドイツはもう日照時間が日に日に短くなって、気温もどんどん落ちてきています。しかし我々は往生際わるく夏にしがみついて、もう少し、あと少し! と最後まで夏の恵みを味わうのです。