ドイツのクリスマス準備に欠かせないクッキー作りが繁忙期!【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツのクリスマスはどんな雰囲気? 今年は世界中で、例年とは少し違うクリスマスになりそうですが、ドイツのクリスマスに欠かせないイベントは今年もいつもと変わらずに行われているようです!
クリスマスは
“クッキーする”
朝。外は霧が立ち込め、そこに低い日差しが乱反射し視界は真っ白。足元の草にも霜が降りて銀色です。一歩踏み出すとサクサクと凍った葉が音を立てます。
吐く息はホワホワと白く、サクサクホワホワと楽しく歩いて園に到着。
12月に入りようやく冬らしくなってきました。
長女のリンゼが手袋とブーツを脱ぎ、上着をクロークに掛けて教室のドアを開けると、ふわわわわ! とお菓子の匂いと熱気が顔にぶつかってきました。
わっ! バターにシナモンにオレンジピールと、クローブかな? すっごいいい匂い。
「リンゼおはよ! はやくはやく! 手を洗ってエプロンつけておいで!」と飛んでくる先生の声。何事だ~? と教室を覗くと……クッキー作ってるー!
え、え、すごい。朝からクッキー作り!? なんで!?
リンゼとおいもさんが通っているのはWaldorfkindergartenヴァルドルフキンダーガルテン。シュタイナー教育の保育園です。
幼いうちから食材に触れ、自分の口に入るものを準備することを通して素材や道具、調理を知り、「暮らし」を学んでいきます。ひとつの組には、3歳から6歳の年齢の違う子ども達13名ほどが一緒に過ごしていて、担任の先生が1人と補助の先生が1人ついています。
リンゼは『ケシ組』です。今日のケシ組のこども達は、バケツに水をくみ、布巾を固く絞って机をきゅっきゅといつもより念入りに拭きます。先生は6歳の児童にむかって、3歳の子とふたりで給食室に行って材料を貰ってくるようにと指示を出します。すると言われた子はボウルを片手に「行こー」と、年下の子と手をつないでおつかいに行きます。
天板を拭く子、オーブンペーパーを広げる子、クッキー型を光にかざす子など、どの子どももみんな楽しそう!
運ばれてきた材料がボウルの中でぜんぶ混ざったら小麦粉を分厚くまぶした机の上に、ボトンと載せます。その上に粉を振り掛け、生地をこねながら更に粉を掛け、硬さを調節しています。
「せんせー、もうのばしていい?」
「まだまだ。ベタベタしなくなるまで粉を混ぜ込むよ」
私はとてもびっくりしました。見ていると分量は最初っから目分量だし、途中、こどもたちと生の生地を味見しているし(!!!)
「もう少しZimt(シナモン)入れようか」「Ingwarpuder(ジンジャーパウダー)入れようよ」「私Ingwar(生姜)きらーい」など、それぞれが好きなことを言いながらサラサラと材料を足していっているのです。じ、自由すぎる! でも楽しそう♪ いいなー! いいなー!
生地が延ばしやすい硬さになるまでね~と机の上で小麦粉を足しながら……って、粘土並みにガンガンにこねまくってる!
それ「クッキーが硬くなるからこねるのはご法度! さっくり混ぜて!」って習ったよ……と心配になるけれど、とても大らかです。
ガラスに張り付いて見ていたら「リンゼのお母さんどうぞ入って見て!」と先生が教室に招いてくれました。
「さあ、今から型を抜くよ! みんな型は持った?」
「わたし靴下ー」
「わたしの天使ー」
「ぼくのエルク~(ヘラジカのこと。クッキー型になっているのを良く目にします)」
先生が生地を綿棒で延ばしながら歌います。
In der Weihnachtsbäckerei ♪
Gibt es manche Leckerei ♪
(「クリスマスのパン屋さんには♪ おいしいものがあるよ♪」みたいな意味)
生地の中のハーブの香りが鼻をくすぐってきます。同時に食いしん坊の心とお腹もくすぐります。
「さ、型が大きい子のから抜いていこう! エレナのはお星さまね」
と、先生は星の歌を歌い始めます。抜く型に合わせて先生は次々と歌を歌い、子どもたちは一緒に歌ったり、知っているところだけ歌ったり、ハミングだったり。かわいすぎる……。
「ヨハンのエルク、ツノのところは特に強くギュって抜くのよ」
ああ、先生、私の心もギュっとなってます!
ちょっと生地を触らせてもらったら生地は結構硬め。でもこれなら手にくっつかなくてこどもにも扱えそう。それにしても、先生が生地を延ばすたびに机に広げる小麦粉、かなりの量だなぁと見てみたら……あれ? 小麦粉じゃないぞ。なんか茶色っぽい。
「これVollkornweizenmehl全粒粉の小麦粉なの。これなら粒子が荒いからたくさん捏ねてもガチガチになりにくいの。あと、子どもが扱っても散らかりにくいからおすすめよ! 小麦粉だと鼻息だけで舞い散って部屋中が白くなっちゃう!」
それはいいことを聞きました! だから遠慮なくコネコネできていたのですね。
写真のように、粉を重いどっしりした器に入れておけば、子どもが自分で扱ってもひっくり返さずに済みそう!
ほかのクラスの子どもたちもドア越しに中を覗いています。隣組の次女のおイモさんはリンゼと一緒にクッキーの型抜きをしたくてたまりません。
おイモ「おイモもやりたいーーー!」
先生「おイモちゃんのたんぽぽ組は、先週“クッキーした”でしょ~」
なに!? もうやったって? お母さん知らなかったわ。教えてよ~。
それにしても、11月の終わり頃から、やたらみんな“クッキークッキーしてる”。だって先週末は義母が子どもたちを連れていってクッキーして、その翌日はお向かいのお婆さんがクッキー作りに招いてくれて、バレエのお教室でも手作りクッキー貰って、おイモさんはもう知らない間にたんぽぽ組でクッキーして。
そして今日はリンゼのケシ組。
家庭によって味が全然違って面白いのです。味が違って飽きない=全部食べられる。「 今はクッキーの季節か何かなの?」と先生に聞いたら「今はアドベント期間だからWeihnachtsplätzchen(ヴァイナハトプレッツェン)クリスマス・クッキーを作るのよ」と。
「日本ではクリスマスにクッキー作らない? アドベントって、毎週1つずつキャンドルを灯したり、アドベントカレンダー開けたり、クリスマスが来るのを指折り数える時期でしょう。アドベントにはみんなクッキーやシュトレンを焼くの。そしてクリスマスを楽しみに待ちながら少しずつ食べるの。クッキーを焼くと、ああクリスマスが来るな~って気持ちになるの~♪」
へえー! 日本人の私が「お餅をついて正月を感じる」みたいなものかな。12月にクッキーをたくさん貰えるのはキリスト教のアドベントが関係していたのか〜。
はぁ〜、今日はほんとにラッキーだった! 寝坊して登園が遅れていたら、クッキー作りを逃すところでした。おイモさんがクッキーを作っていたことも知らないままだったことでしょう。
クリスマスのクッキーは、ドイツ人にとって特別なものだったんですね。
私は季節を問わず、リクエストがあった時に手作りクッキーを作ってはいたけれど、子どもには生地の扱いが難しいからまだまだ無理かなと思っていました。ジップロックで混ぜるだけ、手が汚れない、というレシピをわざわざ探したり。
今日のざっくりしたクッキー作りを見ていたら、心が温かくなりました。ドイツの人たちはこの温かい気持ちでクッキーを作りながらクリスマスを心待ちにするのですね。
2020年のドイツは、クリスマスマーケットは無いし、レストランで美味しいアヒルが食べられないし、それどころか親戚が年末に集まることすら制限される可能性があります。
今年の予定は家族で静かに過ごす以外、何もありません。
ま、時間は十分あるし! 私も思い切って、味見をしながら生地をコネコネしようかな。子どもに教えてもらおう! そしてもっとお話しして、保育園で何かほかに面白いことをしていないか聞き出さなければ!
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに来て9年目。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。5歳と3歳の娘たちがいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn