kodomoe 森綾子編集長に聞く、絵本のこと、読み聞かせのこと
「kodomoe」は、今年で創刊6年。「MOE」(絵本のある暮らしを提案する情報誌)から生まれた育児誌です。今回は、kodomoeの編集長を務める森綾子氏に、創刊時のエピソードや、自身のお子さんとの絵本の読み聞かせについて、聞きました。
試し読みみたいな感じで楽しめる
絵本の付録がついている雑誌を作りたい、から始まった
――kodomoeを創刊したきっかけを教えてください。
MOE編集部にいたときに出産して、自宅で息子と絵本を読むうちに、「親子で楽しめる絵本を作ってみたい」と思うようになったのがきっかけです。「育児雑誌を作りたい」というよりも、「絵本の付録が付いている雑誌を作りたい」というのが先でした。
絵本って、けっこうお値段が張りますよね。でも、わが子がどんな絵本を気に入るかは、実際に読んでみないとわからない。だから、付録として絵本が付いていれば、試し読みみたいな感じで手軽に楽しんでいただけるんじゃないかなと思ったんです。食事をしたり、おもちゃで遊んだりするのと同じように、親子の暮らしのそばにいつも絵本があったらいいな、と思いながらkodomoeを作っています。
――森さんは、子どもの頃から絵本をたくさん読んでいましたか?
福音館書店さんの「こどものとも」「かがくのとも」を親が購読してくれていて、そのとき出会った作品の多くは、今も絵の隅々まで覚えています。母に読み聞かせをしてもらった記憶はあまりないのですが、一人遊びが好きな子どもだったので、その遊びの一つとして、気に入った絵本を繰り返し眺めたり、マイリュックに入れて持ち歩いたりしていました。
――kodomoe創刊のきっかけになったという息子さんには、やはりたくさん読み聞かせをしましたか?
学生時代、母から「昔あなたが『お母さん、お母さん』ってまとわりついてきたときに、『忙しいからあっちに行ってて』って冷たくしたこともあったけど、家事なんて後回しにして、もっと絵本を読んであげればよかったな」と言われたことがありました。その後すっかり忘れていたのですが、自分が出産したときにその言葉を思い出して、「息子とは、できるだけたくさん絵本の時間を持とう」と思いました。
これは「家事を手抜きして、絵本を楽しむ」という、kodomoeの雑誌自体のコンセプトにも通じています。単に自分が家事が苦手、というのもあるのですが(笑)。
息子とは、主に就寝前、1日3冊ぐらいを目安に読みました。当時編集中だった「コドモエのえほん」のラフ段階のものを読み聞かせて、息子の反応をうかがったことも。もちろん、疲れ果てて読み聞かせる元気もなく寝てしまった日も、多々あります。
――読み聞かせには、どんな効果があると思いますか?
読み聞かせをすると「頭がよくなる」「語彙が増える」などと言われたりしますよね。そういった効果を期待して読んでももちろんいいと思うのですが、わが家の場合はとにかく「エンタメ重視」でした。
私自身、何かしらの「効果」を期待して読もうとすると、読み聞かせ自体が「やるべきこと」になってしまってなんだか億劫になるし、その雰囲気はなんとなく息子にも伝わってしまうかな、と……。知りたい!と思って調べるのはワクワクするけれど、「宿題」と言われると途端にやる気がなくなる、みたいな感じですかね。
絵本を読む時間が楽しければ、自然と本好きになったり、気づいたら語彙が増えていたり……という場合もあるでしょうから、結果としてはいろいろ効果があるのかもしれないですね。
――小学生になっても、親が読み聞かせていいものでしょうか?
仕事柄、イベントなどで読み聞かせをしてもらえる機会がありますが、自分で読むのとは全然違う面白さや味わいがあって、毎回びっくりします。自分で読む場合、どうしても絵を見てから文字、文字を見てから絵、という順番になりますよね。誰かに読み聞かせてもらうと、絵を見ながら同時に言葉を聞くことができるので、物語の世界に、よりスムーズに、深く入っていくことができる気がします。
「字が読めないから読み聞かせる」のではなくて、読み聞かせは小学生になっても大人になっても、ずっと楽しめるものなんじゃないかなと思います。
――やはり、自分で読ませるより、読み聞かせてあげるほうがよいのでしょうか?
私は小さい頃、絵がたくさん並んでいる図鑑のような絵本を一人でひたすら眺めているのが好きで、それが自分にとってこの上なく幸せな時間だったことを、なんとなく覚えています。その記憶がkodomoeの「ずかん」シリーズを始めたきっかけになっているかもしれません。一人読みには、一人読みのよさがあるんじゃないかなと思います。
「読んで読んで」と持ってくる子には、親御さんのできる範囲で読んであげるのもいいと思います。「もっかい!」と請われて何度か読み聞かせするうちに、ほぼ暗唱してしまうようなお気に入りの一冊なら、その後は一人読みでもいいかもしれないですね。
それぞれのおうちに合った読み聞かせを、試行錯誤しながら見つけていく、その時間ごと楽しんでいただけたらいいなと思います。
飛鳥山公園(東京・王子)にて(4歳)。私が昔リュックに「こどものとも」を入れていたように、息子も「バムとケロ」のケロちゃんリュックに大好きなものをつめこんで、肌身離さず持ち歩いていました。
kodomoe(「ノラネコぐんだんの絵本ができるまで」のページ)を読む息子(8歳)。絵本作家・どいかやさんからのご縁でわが家にやってきた、子猫2匹とともに。
森編集長が選ぶ「子どもが何度持ってきてもうれしかった絵本」
――森さんの「お子さんとの思い出の5冊」を教えてください。
しぼるのが非常に難しいので、今回は「子どもが何度持ってきてもうれしかった絵本」(親も読むのが気持ちよくて楽しかった絵本)というテーマにしてみました。
『ぴょーん』
(まつおかたつひで/作 ポプラ社) 1、2歳頃
いろんな動物が「ぴょーん」とジャンプする繰り返しが心地いい、縦に開く絵本です。かたつむりのところでいつも息子が爆笑してくれるので、こちらも演技に力が入りました。実際に飛び上がりながら読むと、さらに楽しい!
『ダットさん』
(こもりまこと/作 教育画劇) 3歳頃
擬音語がそれぞれの車種をリアルに表現していて、車好きの方にはたまらないのだそうです。パパの読み聞かせにもおすすめ。こもりまことさんが描かれる車が素敵で、その後こもりさんの作品はほぼ揃えました。しかけ絵本『はたらくくるま みちをつくる』(教育画劇)も、“働く車派”のお子さんならぜひ。
『ぶたぶたくんのおかいもの』
(土方久功/作 福音館書店) 4歳頃
(自分が)疲れ果てた夜、文章が多めのものは敬遠しがちでしたが、これだけは毎回「よっしゃ!」と喜んで読んでいた記憶があります。音読の楽しさが詰まっている一冊だと思います。ぶたぶたくんをはじめ、パン屋のおじさんや八百屋のおねえさんなど、登場人物がみんなへんてこで魅力的。
『ままです すきです すてきです』
(谷川俊太郎/文 タイガー立石/絵 福音館書店) 5、6歳頃
クセになる絵とリズムのしりとり絵本。この素晴らしくシュールな世界観を、息子が理解できるのか半信半疑で読んでみたら、すごい食いつきでした。トータル50回以上は読みました。
「ノラネコぐんだん」シリーズ
(工藤ノリコ/作 白泉社) 3歳〜現在
【番外編】ノラネコぐんだんの絵本とともに育った息子(中1)が現在愛読するのは、『ノラネコぐんだんコミック』。「『進撃の巨人』(講談社)を1巻読むごとに『ノラネココミック』を少し挟むと、心が疲れすぎないのでおすすめ」とのことです。
もり あやこ/1973年、東京生まれ。kodomoe編集長。1997年白泉社に入社。書籍編集部、MOE編集部を経て、2011年に「MOE」の親子向け増刊「こどもMOE」を刊行。2013年「kodomoe」と誌名を変えて本創刊。「ノラネコぐんだん」シリーズなどを担当。一児の母。(似顔絵イラスト/工藤ノリコ)
kodomoe webでは、気になるママ・パパに自身の絵本の読み聞かせについてお話をうかがう新連載「うちの読み聞かせ」が間もなくスタートします。どうぞお楽しみに♪
撮影/花田梢(絵本等、集合写真)