2019年7月2日

『タコめし』【今日の絵本だより 第60回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『タコめし』【今日の絵本だより 第60回】の画像1『タコめし』
つきおかようた/作 白泉社 本体1200円+税

七十二候のひとつ、「半夏生」をご存知ですか。
夏至から11日目、農家では田植えを終える目安の頃とされています。
今年の半夏生は、7月2日。
「稲の根がタコの足のように四方八方に根づくように」と、関西ではこの日にタコを食べ
るならわしがあります。

今回ご紹介の『タコめし』は、食べられてしまうタコ……ではなくて、自分でおべんとう
屋さんをしているタコさんのお話。
やってくるお客さんは、人ではなくて、空のおべんとう箱なんです。
最初のお客さんの注文は、シャケべんとう。
なにしろタコさんには足が8本ありますから、ほれぼれするほどの手際のよさ。
さっさか くねくね。
さっさか くねくね。
彩りもにぎやかなおべんとうが、あっという間にできあがり。

お昼前には、お店にはずらりとおべんとう箱の行列が。
たったひとりでお店を切り盛りするタコさんですが、あらゆる注文をこなしていきます。
ハンバーグべんとう、ほたてわっぱ。
サバみそべんとうに、シーフードカレー。
さっさか くねくね。
さっさか くねくね。
「いそがしいけれど このときが いちばん しあわせな タコさんです。」
おお、なんて素晴らしい心持ち!
毎朝おべんとうでテンパッている身としては、台所に書いて貼っておこうかと思います。
(ひとつしかつくってないですけど。)

ピークの時間を過ぎて、仕込んだおかずも終了。
ほっと一息ついたところへ、小さなお客さんが。
一瞬困ったタコさんですが、自分が食べるはずだったからあげふたつと、急いでつくった
おにぎりで、特製おにぎりべんとうが完成です。
たくさんのおかずも素敵だけれど、あるものだけでつくったおべんとうも素敵。
お店の繁盛の理由は、タコさんの手際のよさだけでなく、そのやさしいお人柄も大きいと
見ましたよ。

第5回MOE創作絵本グランプリ受賞作のこの絵本、作者のつきおかようたさんは、スーパーのお総菜売場でおべんとうをつくっていた経験があるのだそう。
なるほど、説得力があるわけです。
おべんとうづくりがちょっとしんどいときは、「さっさか くねくね」と唱えて、タコさんに
あやかろうかと思います。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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