『ぼくのたび』【今日の絵本だより 第47回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『ぼくのたび』
みやこしあきこ/作 ブロンズ新社 本体1500円+税
ついに、平成から令和への10連休。
いつもの年にはない特別な休暇、なんだかドキドキしますね。
家族旅行を計画されているおうちも、多いでしょうか。
……なんて気軽に聞いていますが、子どもと一緒の暮らしになると、いろいろあって、旅行から遠ざかるご家庭も多いのではないでしょうか。
旅に憧れながら、今は気軽には旅立てない。
そんな方にこちらの絵本、『ぼくのたび』をおすすめします。
主人公は、ある町で小さなホテルを営むぼく。
真夜中、仕事を終えて眠りにつくと、遠くへ行きたい気持ちがこみあげてきます。
色鮮やかな夢の中で、ぼくは飛行機に乗り、知らない町を自由にめぐります。
翌朝目覚めれば、いつもと同じ一日。
今日もまた、ホテルの仕事が始まります。
夕暮れ時、一段落の時間に手にするのは、これまで宿泊したお客さんたちからの手紙。
世界中から寄せられるその手紙が、ぼくの旅への思いをますますかきたてます。
「この はがきのなかの ふうけいに
いつか ぼくが たっているかもしれない。
ぼくは じっと めを こらす。」
目の前の日常も大事、でも、ここではないどこかに行ってみたい。
子育て中の身だと、そんな思いに共感する方も多いのではないでしょうか。
いつもの場所から飛び立てず、旅に憧れていた時間。
でも、おそらくそれもきっと、いつか行く旅の準備のひとつになる。
みやこしあきこさんのリトグラフによる絵は、モノクロとカラー、それぞれの場面が魅力を放ちあい、読む者の心をすうっと異国へ誘います。
本の見返しは一面、飛行機の窓から見える雲海。
いつかこうして飛行機に乗ったら、その時は旅に憧れていた今の自分を、愛しく思うのでしょうか。
空と雲を染める太陽の光は鮮やかに美しく、しばし時を忘れます。
そう、いつもと同じ場所にいても、こんなふうに素敵な絵本を開けば、心はどこへでも旅立てるのです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。