8月のテーマは「みつける絵本」【広松由希子の今月の絵本・75】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
8月のテーマは「みつける絵本」
見えないものを「みつける」って、子どもにとって、とてもうれしいことなのでしょう。「いないいないばあ」や「かくれんぼ」のような遊びも、昔から世界中で親しまれていますね。
みつける絵本も、一世を風靡した『ウォーリーをさがせ!』(フレーベル館)や『ミッケ!』(小学館)などなど古今東西たくさんありますが、約半世紀前の古典と今年の新刊から2冊ずつ、今のお気に入りをピックアップしてみました。
「みつける絵本」といえば、これこれ……『とこちゃんはどこ』を、ひさしぶりにひっぱり出してみましたよ。わたしも子どもの頃に大好きだった絵本です。
とこちゃんは、赤い帽子がトレードマークの元気な男の子。元気すぎて、大人がちょっと目をはなしたすきに、とことこ駆け出して、どこかへ行ってしまうのです。市場で、動物園で、海辺で、お祭りで、デパートで……大勢の人でにぎわう絵の中で、赤い帽子のとこちゃんがどこでなにをしているのか、苦労の絶えないお母さんやお父さんといっしょにみつけてください。
みつけて、なるほど。好奇心いっぱいのとこちゃんは、迷子で泣いたりしていません。自分の一番お気に入りの場所で、なにかに夢中になっているんです。松岡享子さんの文、加古里子さんの絵は、遊び心がいっぱい。昔と今の子どもたちに通じる「好き」のツボをきゅっとおさえています。
とこちゃんだけでなく、絵の中で起きている他の出来事やいろんな人の会話など、見て、想像を巡らして。物語がふくらんで、発見が尽きません。
『とこちゃんはどこ』
松岡享子/作 加古里子/絵 福音館書店
本体900円+税 1970
小さい子どもとかくれんぼすると、自分がみつからないのが不安になって、「ここだよー」って、すぐ出てきちゃったりしませんか。自分をちゃんとみつけてもらうと、すごく安心するんですね。
『どれがぼくかわかる?』のウィリアムは、おかあさんにたずねます。「ね、おかあさん ぼくが みんなのなかに いたら、どれが ぼくか わかる?」「わかるわ。」とお母さん。お母さんは、ウィリアムのことなら、足音も声も聞き分けられるんですから。「もしも ぼくが うまに なったら、どれが ぼくか わかる?」「もちろんよ。」
野原でかけている馬の中から、馬になったウィリアムをみつけて。草の上に遊ぶスカンクになっても、牧場でかけっこする羊になっても、他の仲間とはひと味ちがうから、すぐにみつけられるでしょう。ウィリアムのちがうところは、ウィリアムの個性。お母さんにちゃんとみつけてもらえたウィリアムの「みつかった。」というセリフに、うれしい笑顔がにじんで見えます。
お母さんの落書き? みたいな素朴画で、なぞかけのような親子の会話とやさしいさがし絵を楽しんで。いろんな動物になって外の世界を駆け巡ったウィリアムが、もとのウィリアムになるまで……オーブンでパイが焼けるまでの、暮らしが匂い立つ親子遊びの時間です。
『どれがぼくかわかる?』
カーラ・カスキン/文・絵 よだしずか/訳 偕成社
本体1200円+税 1970
1959年のアメリカの家庭から、2018年の家庭へワープ。『れいぞうこからとーって!』に出てくるのは、よく知っている動物や架空の生きものたちの各家庭の冷蔵庫です。冷蔵庫も中身も個性的。
「おてつだいしたいこ いませんかー?」お料理しているお母さんウサギが呼びかけると、「はーい はーい はーい」元気に子ウサギが応じます。「れいぞうこから ブロッコリーを とってちょうだい」ページをめくると、冷蔵庫が全開。ウサギさんの冷蔵庫は、新鮮な野菜がいろいろ入っています。「どこかな どこかな ブロッコリーは どこかな?」子ウサギといっしょにさがしてね。
果物中心のカラスの冷蔵庫。魚介が豊富なグルメ(にちがいない)ネコの冷蔵庫。雲の上のペガサスの冷蔵庫に舞い上がったり、魔法使いの冷蔵庫に凍りついたり。みつけるのはけっこう難しいけれど、(みどりいろで もこもこしているよ)とか、こそっとヒントも書かれているからだいじょうぶ。
そして、文に書かれたお手伝いがすぐできるようになっても、飽きることはありません。冷蔵庫には、中身のメモが貼ってあるから、みつけるものを変えて遊べるし。部屋の絵には、こだわりの小物やインテリア、2場面の小さな時間の変化など、みつけてうれしいものがいっぱい隠れていますよ。冷蔵庫の場面には、必ずどこかにいる狂言回しの小動物もみつけてね。最後は、みんなでみつけた素材でつくったおいしいものが一堂に……! 幸せの大団円。
『れいぞうこからとーって!』
竹与井かこ/作 アリス館
本体1400円+税 2018
五味太郎さんは、なにかと「みつける」絵本の名手。赤ちゃんの頃から『きんぎょがにげた』(福音館書店)や『たべたのだあれ』(文化出版局)など、親しんできた子も多いのでは。人が気づかない新しい着眼点から、いつも発見のよろこびを与えてくれる。そんな五味さんの新刊『行ったり来たり大通り』は、ひとひねりもふたひねりもある、みつける絵本です。
ふつう絵本は、横書きならば左から右へ。縦書きならば右から左へ。めくる方向に進むものだけれど、この本の舞台は一本道ではなく大通り。だからいろんな人や乗り物や動物が行き来するんですね。お店も会社も病院も図書館もあれば、工事も火事も迷子も出会いも脱走もあります。あっちのページで見た人とこっちの事件の関係は? この出口、どこに通じているのかな? この親子の落し物はどこにあるの? 右にめくり、左に戻り、あっちのページ見てこっち見て、行ったり来たり、めくらずにはいられない「大通り仕様」の作りになっているのです。
絵とセリフ、絵の中の文字の書き込み、そして視線を揺さぶるノンブル(ページ番号)もキーポイントになっていますよ。推理して、絵探しして、けっこう苦労してやっとみつけて、ナゾが解ける瞬間のよろこびは格別。
絵本に内在している、めくる自由と発見の楽しさを体感できる絵本です。絵本のつくりは素朴なボードブックですが、とめどなくふくらむ24ページ。半世紀前の絵本とくらべると、やはり少し世の中は複雑なことになっているのだと感じます。それを俯瞰して楽しむ、五味絵本の時代性。大人といっしょに幼児から楽しめる絵本ですが、文字や言葉遊びを自分で味わい尽くすなら、小学生からがおすすめかな。
『行ったり来たり大通り』
五味太郎/作 絵本館
本体1400円+税 2018
メガネがない。スマホがない。自転車のカギがない。パスポートがない。あったはずの絵本がない。ああ、こんなにモノを探す時間がなければ、私の生活はもう少しゆったり優雅なのではないかなあ……でも、それだけに「あー、あった!」と、発見よろこびも人一倍味わっているかもしれません……(負け惜しみ)
絵本のなかで、暮らしのなかで、子どもといっしょに、みつけるよろこびを存分に味わいましょう。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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