ミニチュアの視点からの「見立て」は絵本でも大人気。夢眠ねむさんが、田中達也さんと対談。【夢眠ねむの絵本作家に会いたい!・3】
大人向けのテイストでも大丈夫
夢眠 田中さんが絵本を作ることになった、きっかけを聞かせていただけますか。
田中 1冊目の『くみたて』を作る3年以上前から、「絵本を作りませんか」という依頼や、 SNSで「絵本にしてほしい」という声もいただいていました。なので「向いてるのかな」とは思いましたが、そのときはまだなんとなく、アーティストでいたかったというのもあって。
絵本というと丸くなりすぎる感じがして、とんがっていたい時期だったといいますか。
ですけど、子どもも生まれて一緒に絵本を読むようになると、なんか子どもにいい顔したくなる。
夢眠 「この絵本、お父さんが作ったんだよ」みたいな。
田中 そうそう(笑)。子どもと絵本を読み始めてから、「絵本、面白いな」と思って。
「かわいくしようとせずに、結構大人向けに描いてもいいのかな」と考えて、踏み切った部分はありますかね。
夢眠 子どもの方が、意外に本物志向だったりしますもんね。
田中 ですよね。自分が子どものときに好きだった『旅の絵本』(安野光雅/作 福音館書店)とかも、改めて見返すとすごい大人向けというか、渋いですから。
あれが子どもで読めるってことは、そういうニュアンスでいいのかなと。そこで無理せずに作れたというのはあります。
絵本は結構、「なんでもあり」
夢眠 じゃあきっかけとしては、やはりお子さんが生まれて、絵本に触れ合うようになったのが大きいですか。
田中 そうですね、子どもと絵本を読むようになったからこそ、「絵本、描けるかもな」と思えたんですね。それまでは絵本というと、二頭身のキャラクターとかのかわいいイメージがあったんですけど。ちょっと勘違いしてた部分もありますね。
子どもと一緒に結構な数の絵本を読んでいなかったら、こうはならなかったと思います。
夢眠 今人気の絵本作家さんたちって、元々とんがってたりしますよね。
親になったりして、絵本の見方が変わってから絵本作家になった人が多い気もしています。
田中 外の企業からスカウトされた、代表取締役みたいな(笑)。
絵本以外を知っているから、描けるのかもしれないですね。
夢眠 最初は子どもを子ども扱いするじゃないですか、大人として。
でも、「そうじゃなかった」って気づいてからの絵本作家の魅力みたいなのは、ちょっとあるかも。
田中 その先入観がもったいないですよね。絵本は結構、なんでもありっていうね。
夢眠 田中さんが、ご自身のサイト「MINIATURE CALENDAR」の冒頭に書かれていますよね。
「誰しも一度は思ったことがあるはずです。
ブロッコリーやパセリが森に見えたり、水面に浮かぶ木の葉が小舟に見えると。」

「 ブロッコリーの森は世界共通」田中達也/作
小さい時は確かに「ブロッコリーって木みたいだよね」って思ったけど、それを「発見したよ」って伝えるピュアさは、大人になった今はもうなかったり。
私、昔しめじを食べるときに、よく口にくわえて「ボタンだよ」って親に見せてたんですよ。
その発明のうれしさみたいなものを、田中さんは今も新鮮な目線で作品にされている。
多分大人の方は皆さん、かつて自分にもあった気持ちを、こうして作品に起こしてくれることが面白いんじゃないかなと思います。
夢眠ねむ
ゆめみねむ/2019年、下北沢に予約制の書店「夢眠書店」をオープン。U-NEXTkids「ねむるま えほん」の企画監修・選書を担当。著書に『本の本』(新潮社)『夢眠書店の本棚』(ソウ・スウィート・パブリッシング)など。一児の母。
Web:https://yumemibooks.com/
X:@yumeminemu
Instagram:@yumemibooks
田中達也
たなかたつや/ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本県生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。 Instagramのフォロワーは400万人を超える(2025年6月現在)。絵本に『おすしが ふくを かいにきた』(白泉社)『くみたて』(福音館書店)など。
Web:https://miniature-calendar.com/
X:@tanaka_tatsuya
Instagram:@tanaka_tatsuya
『おすしが ふくを かいにきた』
マグロのおすしがお店に買い物にやってきた!タマゴ、エビとたくさんあるすしネタから、何に変身するのかな? 身近なものを、本物そっくりの何かに見立てる「みたて」の世界で、楽しいストーリーを作り上げる。
田中達也/作 白泉社 1430円
田中達也さんの原点は幼少期にあった!? 発売中のkodomoe8月号では、田中達也さんが小さいころ好きだった絵本や、絵本づくりの面白さについても語ってくれています。あわせてご覧ください。
撮影/大森忠明 ヘアメイク/光野ひとみ 編集協力/原陽子