新作絵本で大切にしたのは「声に出して愉快なこと」。死後くんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・14】
気になるあのママ・パパは、絵本をどんなふうに楽しんでいるの? 親子の読み聞かせについて語っていただく連載。今回は、kodomoe webで、連載「子どもの言いまちがい」のイラストを担当している、イラストレーターの死後くんです。9月に出されたばかりの新作絵本についてのお話もうかがいました。ペンネームが「死後くん」なので、正しくは「死後くんさん」ですが、ここでは親しみをこめて「死後くん」と呼ばせていただきます!
眠気で意識が朦朧として
絵本に書かれていないことまでしゃべることも
── 死後くんは、お子さんの読み聞かせをどんなふうにされていますか?
妻と日替わりで、寝かしつけの時に3冊くらい読み聞かせます。枕元に寝かしつけ用の絵本を並べるラックを取りつけたので、親が何冊か適当に選んでラックに並べ、子がその中から3冊選ぶようにしてます。絵本を読み聞かせると、いつも眠くなるどころか逆にテンションが上がってしまって、3冊読み終わっても「もう1冊! もう1冊!」とリクエストしてきて、結果4、5冊読むことになって……。むしろ読み聞かせている私がどんどん眠くなって、2冊目、3冊目あたりで意識が朦朧として絵本に書かれてないことを夢うつつでしゃべったりするので、「ちゃんと読んで!」と叱られます。
── 親のほうが先に眠くなってしまうというシチュエーション……、ありそうです。
それでも、子が寝落ちるまで意地で読み続けていたときもあったんですが、10冊以上読んでも寝なかったりして、こちらがどんどん疲弊していくばかりなので、妻の提案で「3冊読んだら寝る」というルールを導入しました。
── 絵本の読み聞かせをすることで、気づいたことなどありますか?
普段、家で仕事をしていて、家族以外とほとんど喋らないので、読み聞かせで声を出して言葉を喋るという行為が良いリハビリみたいになっているような気がします。絵本ってつい絵の良さで判断してしまいがちですが、絵はさほど好みじゃないけど、声に出して読んだらめちゃくちゃリズミカルで口が気持ち良いなって絵本もあって、それはやはり読み聞かせしてみないとわからなかった感覚です。
── 絵本を一緒に読んでいるときの、お子さんのようすなどはいかがですか?
子の記憶力の良さには度肝を抜かれます。数回しか読んだことがない絵本でも文章をほぼ暗記したりしていて、こちらが読み間違えたり読み飛ばしたりすると「ちがうよ」と指摘して。「うちの子天才か!」と思ったりもしますが、他の親御さんに聞いてみると、結構どの子もそうらしいので、うちの子が特別じゃないんだと我に返ります(笑)。
── 読み聞かせをすることで、ご自身のお仕事や絵本づくりに影響を与えているなと思うことはありますか?
声に出して読んでみたときの「楽しい」「面白い」「気持ち良い」みたいな感覚は意識するようになりました。たとえば、今回出版した絵本『ぽんちうた』(ブロンズ新社)のなかで、「ぽっぷこーん」を「ぽっぷこん」、「あせびっしょり」を「あせびっしょ」と表記したんですが、それは、声に出して読んだときのリズム感や面白さを優先した結果です。
死後くんの思い出の読み聞かせ絵本3冊
── それではここで、死後くんの思い出の読み聞かせ絵本3冊を教えてください。
『あたごの浦』(脇和子・脇明子 再話/大道あや 画 福音館書店)
月のきれいな晩に浜に集まった魚介類たちがくり広げる演芸会。「おなすびちぎって、食べよります」「松にお日さん、これどうじゃ」「妙々々々々々」、とにかく声に出して読むとすごく愉快な気分になる言葉のオンパレード。絵もすごくかわいい。この絵本が好きで自身の個展のタイトルを「妙々々」にしたこともあります。
『サーベルふじん』(網代幸介/作・絵 小学館)
網代さんの絵が好きで買った絵本ですが、お話もすごく変で面白く、子もハマって何度もリクエストしてくる1冊。サーベルふじんのサーベルが折れてしまう展開があるのですが、読み聞かせの際は、子に「今回はサーベル折れないかもしれないよ」と言って読み始めると、子は「ぜったい折れるよ、みててごらん」と言い返し、折れる場面で「ほらやっぱり折れちゃったよー、言ったでしょー」と勝ち誇る、というやりとりが定番になっています。
『めの まど あけろ』(谷川俊太郎/作 長新太/絵 福音館書店)
入浴中に子が「♪せっけんさんがすうべった」と歌い出し、なにその面白い歌?と思ったら、妻が読み聞かせていたこの絵本の中の歌でした。この絵本のうたは、どれもシュールでもあるけどちゃんと物語にもなっていて、言葉遊びも楽しく、声に出して読むとちゃんとメロディーとなって口からでてくる。「谷川俊太郎やっぱスゲェ」と感動しました。子もこの絵本のうたは、いっときほとんど空で歌えるようになっていて、やはり声に出して楽しいと、子どもはすぐ覚えてしまうんだなと思いました。自分の『ぽんちうた』もこの絵本のような楽しさを目指して作ったところがあります。
── ちなみに、死後くんが子どもの頃の、読み聞かせの思い出はありますか?
やってくれてたかもしれないんですが、親に絵本を読み聞かせてもらった記憶が全然ないんです。童話カセットテープで「オオカミと七匹のこやぎ」の朗読を聞いていた記憶はかすかにあり、オオカミが入ってくるシーンの効果音が恐ろしくて震えていたのを覚えています。
こだわったのは、声に出したときの「面白さ」や「気持ちよさ」
── さきほどお話に出た、新作絵本『ぽんちうた』についてうかがいます。どんなきっかけで絵本を出すことになったのでしょうか。
もともと、グッズ用に作ったカレンダーを編集者さんが気に入ってくださり、「これを絵本にしたい」と声をかけてくださったのが始まりです。カレンダーは毎年作っていて毎回若干違うのですが、だいたい絵と暦のほかに月ごとの詩とか小噺とかを載せていて、2021年版には自作の「わらべうた」を載せていました。お話をいただいた時は「正気ですか!?」と思いましたが、嬉しかったです。
── 死後くんのイラストの魅力は、不思議さだったり、シュールなところだったりするかと思いますが、今回、絵本を描くにあたって、いつもと違う部分はありましたか?
絵に関して言えば、やはり絵本ということで「かわいく描く」ということを意識しました。きっとかわいいほうが売れるので(笑)。でも、かわいく描こうとしても結局自分の絵の変さや不気味さは出てしまうので、それは「持ち味」として味わってもらえれば幸いです。「わらべうた」のムードというか、大津絵みたいな庶民画の雰囲気が出せればいいなと思って、普段のイラスト仕事ではあまり使わない筆ペンで線を描きました。慣れない道具で描くのは難しいですね。
「これは、絵本を描いているときに子が『お仕事お手伝いする』と仕事部屋に入ってきたので、失敗した下絵に色を塗らせたものです」(死後くん)
── 不思議な絵にぴったりと合う、テキスト(歌詞)も特徴的ですね。
絵本は基本テキストが先にあってそれに合わせて絵を描くのですが、この『ぽんちうた』は発端でもあった2021年版カレンダーの作り方を踏襲してやってみましょうか、ということになり、先に絵を自由に描いて、その絵をみて文(歌詞)を書くという流れで作っています。ミュージシャンで言うところの「曲が先か、詩が先か」みたいな感じですが、そんなかっこいいものではないですね。ただ、全部そのやり方で作れたわけではなくて、ある程度歌詞をイメージしながら描いた絵もあれば、なんならほぼ詩が先のやつもあるので、中途半端といえば中途半端ですね……(笑)。
こだわったところは、先にも述べましたが、声に出して読んだときの「面白さ」や「気持ちよさ」です。わらべうたなので、各うたには自分なりの節回しに基づいて言葉を配していますが、果たして初めて読んでくれる人は、どんな節回しになるのか、ちゃんと節が回ってくれるのか、気になるところです。
声に出したときのリズム感や面白さを優先したという死後くん。さきほどお話に出た「ぽっぷこーん」を「ぽっぷこん」にしたというページ。「てぃっしゅ ぽいぽい ぽっぷこん」、思わず声に出したくなる気持ちよさ。
── ところで、お子さんに『ぽんちうた』の読み聞かせはされましたか?
うちの子はもともと歌が好きなこともあって、気に入ったフレーズは覚えて歌ってくれたりして、概ね楽しんでくれている気がします。
ところどころ絵の内容や歌の内容に「どういうこと?」と首をひねっていて、その反応もまた自分としては「しめしめ」という感じです。
「おとうさんの絵やばい」と言ってくれたことは褒め言葉として受け止めたいと思います。
『ぽんちうた』のプロモーションビデオ。歌っているのは、死後くんのお子さん(!)。絵本の世界観にぴったりの節回しで、素敵な親子合作映像になりました。
死後くん
イラストレーター/1977年愛知県生まれ。雑誌POPEYE(マガジンハウス)、「母の友」(福音館書店)、書籍『失敗図鑑』(大野正人著/文響社)、絵本『ごろうのおみせ』(ごろう作/岩崎書店)、NHK総合『おやすみ日本』他、紙媒体を初めTV、web等、様々な媒体でイラストや漫画を手がける。著書に漫画『I My モコちゃん』(玄光社)。このたび新作絵本『ぽんちうた』をブロンズ新社より出版。「ペンネームが縁起が悪い」との理由で仕事が決まらないこと多々あり。
kodomoe webでは、連載「子どもの言いまちがい」のイラストを担当。