「このニオイは大麻だよ」なんて話を我が子にする日が来るなんて。大麻が合法になってしまったドイツより【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
ドイツでは「大麻」が合法だそうです。ふたりの娘さんと話す、大麻のコト。前編です。
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。ドイツでふたりの娘さんを育てる中原さんからのレポートです。
子どもにどう話そうか
マリファナの話
2024年、ドイツでは大麻の吸引や栽培が合法になりました。以来ずっと考えているのは大麻のことをどう子どもらに教えるかということ。
日本ではシンプルです。麻薬! 依存性! 犯罪! 牢屋! 転げ落ちる人生! 生えてるの見つけたら触らずに通報!
ああ、なんということか。のんびりした昼下がりにのんびり散歩をしていればのんびり大麻を吸ってる人とすれ違う。高い空、秋風に香る……マリファナ。普通にヤバい。吸ってる人がカジュアルにいるここでは「ダメだよ、あぶないよ」だけじゃなく大麻がどんなものなのか教えておかないといけないのかもしれないと感じていました。だって遊びに行った先の友達の家族がバルコニーで栽培していたり吸っていたりすることもありうるのです。正直マリファナなんて一生知らないで生きててほしい。けど現実問題そうもいかん。
いろんな「自分次第」
権利と個人の裁量
そもそもどうして大麻が合法になったのでしょう。
政府のホームページによると、規制によって麻薬の闇市場が育つことにつながるくらいなら合法にして堂々と栽培も商売もしたらええわ、ということでの合法化のよう。
元々、堂々と大麻を吸ってる人はそこそこいた(吸引は可。5g以下の所持が見逃し……調書を取るのが面倒だから。しかし所持も違法なことは違法……栽培と販売は違法)ドイツなんですけども、うーん、健康への懸念とかラリったさんが堂々闊歩することについてとかどう思ってんだろう政府。
海外に行くと日本と違う常識に驚かされるものでドイツでは飲酒運転が可能であったり魚釣りに狩猟免許が必要だったりと違いが多々あり、なかでも有名なのはアウトバーン(高速道路)の速度無制限区間でしょうか。
150キロでドキドキしながら走ってたら横を250キロでぶっこぬかれた時の風圧と恐怖! 日本の高速道路で250キロなんて出したら即お縄です。
ドイツでも、無制限なんてどう考えても危険だろ! 160、いや130にしようよ! という至極真っ当な議論はあるのです。しかしなかなか法整備へと進まない状況に、ドイツの人々がこだわるのが走行速度ではなく「権利が制限される」ことへの忌避感があるように感じます。
実際に羽目を外し危険なことをするのか否かは本人の自由。
大麻を吸うか否かも車の走行速度と同じく個人の裁量という認識なのです。
いざ挑まん!
た、大麻の話……
まあ思い切って話をしてみれば子ども達は大麻のことなんてとっくに気づいていました。
タバコとは違うにおいが漂ってくる時があること。アムステルダムでは特によくにおいがしてて、ああ、あのタバコかなと訝(いぶか)っていたこと。
「いつか吸いたいと思う?」
「思わない。みんなやめたら良いって思う」
「まあ今はそう言っててもティーンエイジャーになった時なんて言うかな……」
私だって子どもの頃はビールなんか絶対飲まない! と思っていたのです。
「くさいのが窓から入ってくるから吸わないでほしいよ。吸ってる人がいたらダメだよ! って言えばいい?」
それ! それが難しいところ。
「くさかったらあなたが距離を取らなきゃならないかな。臭いものを吸う権利があるんだよ」
「日本では吸ったら捕まるんでしょ? 吸う人は悪い人なの?」
「日本では禁止されてるから吸うと『悪いことした人』になっちゃうけど、ドイツでは大人は吸っていいことになってるから悪い人にならないんだよ」
「不思議だなぁ、やってることは同じなのに」
「国によって色々あるんだね……」
将来のことは本人達に任せるしかない。まあにおいでわかるので知らずに吸ってしまうことは無いでしょう。
それまでは体によくないものだとしっかり教えて、困ったとき何でも気軽に話してもらえる関係でいたいものです。
「ドイツでは吸って良いことになったから堂々と吸ってる大人がいるけど、依存性がある危険なものだよ。においがしたら気をつけるんだよ。ラリったさんがいたらそっと離れるように。日本では大犯罪だからね。牢屋だよ牢屋」
そんなことを言ってたら
庭に生えてきた。うける
夏休みの長い旅行から帰ってきて、お花たち久しぶり〜と庭を見ていたら植えた覚えの無いデカい草が生えていました。
「こ、これは……」と震える私に、
「あらら! りっぱな大麻だね!」と夫。
「あ、わかった。鳥の餌だ」
ちょうど大麻が生えてきたところには鳥の餌台が置いてあり野鳥の餌ミックスから溢れ落ちヒマワリなどと一緒に仲良く発芽したようです。しかし大麻デカい。2メートルはゆうに超えています。
日本では超アウトな違法植物が普通に生えてきている光景を脳が受け入れられません。まるでコピペで画像を貼り付けたみたい。
これはちょうどいい。子どもに見せよう。
「子ども達、これが大麻だよ」
「デカい」
茎からはところどころ白い花が咲いている様子が見えます。花が終わった箇所では麻の実が育っている。近づくとクセのある甘い強いにおいが鼻のなかにへばりついてくる。
「この葉っぱ、日本で見かけたら触らずにおまわりさんに言うんだよ」(大事なことなので何度でも言う)。
「麻は昔から日本でも育てられてた身近な素材で、麻布は自分で織ったりするものだったらしいよ」
「とんとんからり、とんからり?」
「そう。麻の実は美味しく食べて、麻の茎から糸を作った、と聞くけど茎から繊維を取るってどうやるんだろうね……」
「日本ではもう作ってないの?」
「たぶん栽培して良い人が限られてる。でもしめ縄にしたり神様への捧げ物は麻の皮だったりするから作られてはいるんだろうけど」
麻の着物に麻の服、日常的に使う小物に布地たち。七味唐辛子の中には麻の実。日本人にとって麻は今でもとても身近なものです。その通気性の良さから麻の布地ほど気持ちいいものはなく、私もドイツにいながら祖母の着物から作った麻のモンペが手放せないでいます。
そんな身近な素材のことなのに何も知らん。どうやって作るんだろう。
「おかあさん、やってみればいいじゃん。何かつくってよ」
「簡単に言うなあ、お母さん麻の繊維の取り方なんて知らないよ」
「どうせゴミなんだから試してみようよ」
わたしたち、
ゴミで遊ぶ才能がある
リンゼが「何か小さいマットでも織ればいいじゃない」というので平たいものを織ることを目標に、引っこ抜いた麻から繊維を取ることを試みます。繊維の取り方もなにも、正直なところ大麻を触る忌避感もある。でも馴染み深いはずの素材の麻がどんな繊維なのか自分が全く知らないことを、居心地悪く思ってもいるのです。
植物から繊維を取るために、叩いたりつけたり熟成させたり灰につけたりして人類は頑張ってきました。私たちも人類らしく足掻(あが)いてみました。
「ここからどうする?」
「叩いて柔らかくしてみる?」
「水につけながらやってみるか」
「へし折ったらうまく剥けたよ!」
「表皮と繊維を分けたいね」
「煮たらどうだろう」
繊維の上の皮を剥いだり、繊維を裂こうとしたり、指でちまちまほぐそうとしたり、水に浸けたり煮たり叩いたりしてみたけど、なんかもう色々頑張ったけど、麻は硬い。濡れてるうちは柔らかいのに乾くと硬くなっちゃう。繊維をほぐして糸を紡ごうとしても、細い糸の扱いがまた難しい。硬くて滑るため紡ぐことができないのです。くそー、どうやったら柔らかくなるんだ。無理だこれ。
「どうしようか」
「じゃあさ、紡げないなら太めに裂いてコーデリコーデリしようよ」とおいもさん。
コーデルKordeln とは、糸を撚り合わせたり紐を組んで強度を上げること。ねじった1本の紐などを真ん中で折るとクルリン! と勝手に双糸に撚り合います。子どもたちは身の回りの草で散々コーデリコーデリしてきたコーデリ職人。
「じゃあお願いしますわ」
「おかあさん、こんなに硬い糸を服にしたら体が痛いと思うよ」
でき上がった麻紐はアンクレットにしました。身につけるうちに柔らかくなるのかもしれない。
「うーん、もっと細く柔らかく紡げると思ったんだけど」
ああ繊維をとって紡ぐ方法、分からずじまいでした。衣服のための麻の糸。昔から織られていたという日本の麻の文化はどういうものだったんでしょうね。
インターネットで調べてみたけれど日本語の情報を得ることは出来ませんでした。まあそれも仕方がない。
「硬い布を我慢して着てたのかなぁ」
「おいも、こんなに頑張ったのにちょっとしか糸にできなかった……糸を作るのって大変だ」
それぞれの感想を聞きながら、私は「来年の草取りはもっと念入りにやろう」と心に誓ったのでした。
続く……次回、その「麻」はマリファナ? ヘンプ? リネン? 知らなかったのは私だけ!?
今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn