入学式の朝。1年生が持つ「筒」の理由に、ほっこり【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツ在住の中原さんが住む地域は、9月に小学校の入学式を終えたばかり。今回は、ピカピカの1年生になった長女リンゼちゃんの入学式にまつわるお話を伝えてくれます!
それは
バカンスのため
ドイツの学校の開始時期や終業式の時期について、おもしろいのが、各州ごとにその時期が違うというところです。
例えば、ベルリンは6月下旬から8月頭までが夏休みなのに対し、バイエルンでは7月末から9月半ばまでが夏休み。州によってはなんと1か月以上日程がずれているのです。リンゼの入学式は9月でしたが8月上旬に入学式を済ませて始業している子どもたちもいるということです。
なぜそのようなシステムになっているかというと、なんとバカンスのため。
冗談かと思うでしょう。 私もにわかには信じられませんでした……。
バカンスが大好きなドイツ人は年に1~2度、数週間から数か月の長期静養に出かけます。これ、もしドイツ中の学生の休暇日程が同じだったら子どもの休みに合わせた家族連れが一挙に旅行へとなだれ出て、全土で大渋滞や混雑・混乱を引き起こしてしまいますね。
日本でゴールデンウイークやお盆の大渋滞を経験してきた身からすると、学校の開始日を「バカンスのために」ずらす国があるということに大層驚かされました。これが可能な背景には、大人がある程度自由に長期休暇を取れるドイツの労働環境と、やはり、バカンスが無いなら働かんぞ! という情熱があります。
ドイツで迎える入学式
Einschulungアインシューロング
バカンスに掛ける情熱が、あんぱんの上の黒ゴマ程度しかない我が家にも、入学式の日は等しくやってきます。
秋晴れの高い空の下、風は少し冷たく大人は上着を着込むも、子どもたちは大興奮で「暑い! 暑い!」とジャケットを脱ぎ捨てます。あらら、風邪を引かないでおくれ!
とうとうやってきました、入学式Einschulungアインシューロング当日です。
ワクチン接種が進んだとはいえそれは大人の間でのことで、子どもたちはまだ無防備なままです。それでも学校生活は始まっていますし貴重な子ども時代をこもってばかりいるわけにもいきません。カリキュラムを進めつつ、自衛もしつつで、学校の敷地内はマスクの着用が義務付けられています。
入学式もコロナ前であれば大々的に体育館やホールに生徒の家族が大勢揃い集まって華々しく式に参列するそうなのですが、今年も感染対策が続いています。各家庭2名のみ、ワクチン接種証明及び罹患証明、または事前にPCRテストを受け陰性証明を持った人のみ、マスク着用で会場への入場が許可されるという徹底ぶり。我が家は夫が行くのは決定として、もう1人は、私か義母かでジャンケン!!
……やった! 勝った!
入学式に持っていく不思議な筒
入学式の朝、リンゼは髪を自分でとかし、お気に入りのワンピースにコンバースを履いて靴紐を結び、シュールランツェン(大きなリュック)を背負いました。
ああ、大きくなった。
先週までは保育園児だったのに、いきなり大人びて見える。
うっ、うっ、視界がにじむ。
家族みんなでGrundschuleグルンドシューレ(小学校)に向かいますが、ここで保護者が決して忘れてはいけないものがあります。
学校に向かう家族を見ていると、赤、ピンク、青、黄色……保護者が皆不思議な長いものを抱えています。アニメ柄や動物柄、いろんなリボンやぬいぐるみで飾られた、謎の先がとがった筒。ナンジャコリャ!
これはSchultüte(シュールテューテ)またはZuckertüte(ツカーテューテ)と呼ばれるものです。
子どもの背丈ほどもあるこの大きな筒の中には、お菓子や文房具などのプレゼントがぎっしり詰まっています。入学式で不安な新1年生の気持ちを和らげるための風習なのだそうで入学シーズンになるとお菓子屋さん、文房具屋さん、本屋さんなど街のあちこちで見かけるようになる入学式のアイコンなのです。
こりゃテンション上がるわ。
なんといっても、体の小さな新1年生が大きな筒をよたよたと、大事そうに抱え持っているのがいい! まぶしい!
学校に着いたらこのシュールテューテを一旦先生に預けます。式の時、邪魔にならないようにするためかな。
式は校長先生の超短い挨拶と、先生の紹介、上級生による学校生活を紹介する劇。劇が終わると子どもたちの名前がそれぞれ呼ばれて順に席を立ち、教室へと案内されていきました。
先生からは保護者に向かって、宿題大事だから! あと学校で勉強は教えるけど、しつけやマナーの指導は家庭でしてね! と言葉短かにアナウンス。
はい、これで式は終わり。シンプルでドライ。
手づくりの臼と杵で
おもてなし
一連の行事が終わると校庭にシュールテューテを持った子どもたちが順に出てきます。おめでとう、おめでとう、と掛けられる声に、どこか照れくさそうな顔になる新1年生たち。記念写真を撮ったらすぐに解散し各家庭でお祝いのパーティーです。
そう、パーティーなんですよ、この後!!
入学の準備で、てんてこまいな中さらにパーティー準備もおっかぶさってくるのです。ヒー!!
就学は大きな人生の節目として家族や親類、近所の人や子どもの成長に関わってくれた人を招いてお披露目し、成長を祝い、感謝を伝えます。おそらく、多くの家庭ではパーティー料理を作ったり、レストランに行ったり、ケータリングを取り寄せたり、ゲストに一品持ってきてもらうなどしてテーブルを賑やかにしていると思うんですよ……。
我が家も簡易な食事とケーキとコーヒー……と思っていたら、ゲストから「ジャパンのリアルなモチを作ってるところを見たい」とリクエストされ、なんと餅つきをすることになってしまいました。
Mochiは今ヨーロッパで注目のおしゃれな食べ物。なかでも「モチ・ムーン」という雪見だいふくのようなアイスや、白玉団子がMochiとしてレストランのメニューになっていたりと人気スイーツなのです。
「実際どう作ってるの?」「私、モチが大好きなの!」と興味を持ってもらえるのは嬉しいことなので、……手間だなあ、腰痛いんだよ、と渋るわたしの心の声を抑えてもち米を蒸しました。
ゲストは代わるがわる杵を持ってぺったんぺったん餅つきをして、手にマメを作り、筋肉痛を持ち帰る不思議なパーティーに。ちなみに、写真に写る臼と杵は、ドイツでは手に入らないので自分で彫りました。自分が餅を食べたくて作ったけれど、餅つきをすると人が集まって楽しく過ごせるし、つきたての餅はおいしい。いいもの作ったな♪ と思います。
登校スタート!
入学式の翌週からいよいよ学校が始まりました。
7時15分登校。7時半には1時間目が始まり、新1年生は12時10分に全てのカリキュラムが終わります。これで帰宅かと思いきやそうではなく、ここからはHort(学童)との連携です。
学校が終わると子どもたちはそのまま同じ校舎の学童に移行し、給食やお弁当を食べ、学童の先生と宿題をしたり遊んだりしながら親がお迎えに来るまで待ちます。学童に預けるのに費用が多少掛かっても共働きなど子どもを午後イチで迎えにいくことができない家庭には必須の仕組みですから、ほとんどの子どもたちが学童に登録しています。
他の学年の子どもたちと一緒にご飯を食べたり、宿題をしたり、遊んだりする良い機会になっており、リンゼも学校に少しずつ打ち解けていっているようです。