
お笑い芸人・松井ケムリさんロングインタビュー。子どもには好きなことを見つけてそれを自分で主張できる子になって欲しい【後編】
動物図鑑に夢中だった幼少期から、「チヤホヤされたかった」学生時代、そして芸人という道を選ぶまで—。
kodomoe2月号では、お笑い芸人・松井ケムリさんが、自身の歩んできた人生を子ども時代の記憶から丁寧に語ってくれました。人気芸人として、そして父として。子どもとの毎日を自分のリズムで楽しんでいます。
ウェブでは、貴重なインタビューを全編公開します。後編では、2025年6月に誕生したお子さんについてや子育てについてなどをうかがいました。
前編「昔からお調子者で明るくてよくボケる子でした」は、こちらから

仲間がいたから
お笑い芸人を目指せた
――1年間の勉強が実を結び、慶應大学法学部に入学されます。大学生活は楽しかったですか? 軽音サークルとお笑いサークルを掛け持ちされていたそうですが。
芸人になるために大学に入ったので、お笑いはやりたかったんですよ。だからといってNSCとダブルスクールしようとまでは思わなかったけど、サークルで一旦やってみよう、って。でもそれだけだと、みんなみたいな大学生にはなれなそうじゃないですか。僕の中では「大学生=楽しい」というイメージがあって、みんなと同じレールを歩きたい人間なんで、きらびやかで楽しそうな軽音サークルに入りました。目論見通り、楽しかったです。想像以上に楽しくて、お笑いサークルより、軽音サークルの活動に夢中になってました。
――大学生らしい生活を満喫しながらも、「卒業したら芸人になる」と思っていたわけですよね。
はい。でも「芸人になるぞ!」と自分から積極的に動くというよりは、就活をしないと決めていた程度でしたね。4年間だらだら過ごしてました。
――ただ、慶應だとほとんどの人が普通に就職するじゃないですか。お笑いサークルでも、今はそれこそ令和ロマンさんたちの活躍によって状況が変わりましたが、当時はそのままプロに進む人は少数派だったんじゃないでしょうか。
マイノリティでした。
――“みんな”と同じレールからは外れるわけで、そこに対する恐怖はなかったんですか?
当時からお笑いサークルはいろんな大学にあって、大会やライブで他大学の人とも友達になるんですよ。僕の同級生だとラパルフェ(※1)の2人や中野なかるてぃん(※2)がいて、そこらへんはプロに行くとわかっていたんですよね。そのおかげで、“みんな”から逸れていっている感覚がなかったんだと思います。
※1……ワタナベエンターテインメント所属のお笑いコンビ。
※2……吉本興業所属。お笑いコンビ「ナイチンゲールダンス」のボケ担当。
――「大学お笑い」全体で見れば決して自分だけではない、と。
そうそう。だから大学お笑いがなかったら、僕は芸人になってないと思います。仲間がいなかったら、普通に就職していたでしょうね。ひとりだけ違う道を行く度胸はないから。
――大学を卒業した春、お笑いサークルの後輩だった髙比良くるまさんと一緒にNSCに入学されます。この段階ではご両親からは何か言われましたか?
高3の時点で「芸人になりたい」とは伝えていたので、「本当にやるの?」ぐらいでした。父親からは「AIにできない仕事だから、いいんじゃないか」と言われました。これ、すごくないですか? 今みたいにAIの存在が当たり前じゃない、8年ぐらい前だから。
――先見の明がありますね。2018年にデビューされてからは早々に頭角を現され、2023年に『M-1グランプリ』の決勝に初進出、そしてそのまま優勝されました。さらに翌年も優勝し、史上初の連覇を成し遂げられています。ご両親も安心されたんじゃないでしょうか。
『M-1』で最初に優勝したときは「よかったね。これからも頑張るんだよ」ぐらいで、だいぶサラッとしてました。でも父親はそれ以降、仕事の関係で会う経済界の偉い人たちに令和ロマンのステッカーを配ってるらしいです。いい話ですよね。完全に自慢の息子です(笑)。
――最近のテレビでのご活躍に対しては何かリアクションは?
番組で動物の話題を振られたときの金持ちジョークとして、「子どもの頃、『動物園に行きたい』と言ったらシンガポール動物園に連れて行ってくれた」という話をすることがあるんですよ。そうしたら父親から連絡が来て、「オランウータンを見に、ボルネオ島に行ったこともあるよ」って教えてくれました。僕は本当に動物が好きだったので、今思えばその好奇心を応援してくれていたのかもしれないですね。

子どもには
本好きになって欲しい
――2025年6月に結婚と第一子誕生を発表されました。父という立場になってみていかがですか。
こんなこと言っていいのかわからないんですけど、正直まだ実感がないんですよね……。かわいい生きものが家にいるな、みたいな感じかもしれない。仕事柄、そんなに家にいられないからお世話もできてなくて、おむつを替えるぐらいの微々たることしかやれてないです。生まれて2〜3か月の頃は、お風呂上がりの保湿は僕がやっていたんですよ。でも子どもがいいタイミングで寝てくれるように奥さんがすごく頑張ってくれていて、最近は夜7〜8時にはお風呂に入れるから保湿も任せっきりになっちゃって。仕事から帰ってくると、子どもはもう寝てます。朝早く出るときもまだ寝ているから、起きている状態を丸一日見ていないことが結構あって、非常に悲しいです。
――奥様、寝かしつけを頑張っていらっしゃるんですね。
そうなんです。でも最近はまた夜泣きするようになってきちゃってます。睡眠退行っていうんですよね? そういうときは自分が起きて見ることもあります。世のお父さんたちは、子どもが生まれてどう変わるんですかね。自分が平均とどれぐらいズレているのか、知りたいです。
――また平均に向かっていく癖が(笑)。「早く帰る」あたりから始めるのかもしれません。
なるほど。それでいうと、仕事以外の夜の予定は減らすようになりました。今日も人から誘われましたけど、断って帰ります。起きているのを見られそうで、かなりうれしいですね。子どもに会いたいのももちろんだし、奥さんが本当に大変なので、少しでも負担を減らせるようにと思ってます。
――奥様との間で、約束事などはありますか?
ゴミ捨てやお風呂掃除はやってます。ウォーターサーバーのタンクを替えるような力仕事系も僕の担当ですね。でも別に約束というほどではないかな。あ、あと、ドアは静かに閉めること。今は大きい音がすると本当にすぐ泣いちゃうので。
――大事ですよね。ご自身がご両親から受けた教育で「これは自分もやってあげよう」と思っていることはありますか?
本は絶対たくさん読ませるようにしようと思っています。自分自身の感覚としても周りを見ていても、子どもの頃から本を読んでいた人のほうが語彙力があったり読解力が高かったりする気がするんですよね。ベタな言い方をすると地頭がいいというか。読み聞かせをする時間はなかなかなさそうだから、とにかく本を買いまくって家に置いておこうと決めてます。自分もそれに恥じぬようにと思って、本を読み始めました。
――かっこいいですね!
ただ、子どもにポーズを見せるためには紙の本がいいだろうと思ったんですけど、挫折しました。電子書籍のほうが読み進められますね。
してあげようと思っているのは、まだ今のところはそれぐらいかなぁ。受験については全然考えてないです。僕がこういう仕事をしているので、受験したほうが過ごしやすいのかなとは思いつつ。
――お子さん自身の性質によっても違うでしょうしね。
ただ、こうして今までの人生を振り返ってお話しさせてもらう中で、もしかしたら僕は中学受験の経験によってこういう性格になった可能性があるな、と思ったんですよね(笑)。親の意向で勉強して受験したことで、「ルールの中にいれば大丈夫」「言われたことをやっていれば大丈夫」と考えるようになったのかもしれないな、って。そうなるのはちょっと避けたい気がします。
――自分の道を自分で見つけて切り開ける子になって欲しい、と。
好きなことややりたいことを見つけて、それを自分で主張できる子になって欲しいです。どう育てたらそうなるのかは、まだわからないですけど。

松井ケムリ
まついけむり/1993年生まれ、神奈川県出身。お笑いコンビ「令和ロマン」のツッコミ担当。慶應義塾大学のお笑いサークルで出会った髙比良くるまさんとお笑いコンビを組み、2018年にデビュー。「M-1グランプリ」では2023、2024年に優勝を果たし、大会史上初となる二連覇を達成。2025年6月に一児の父に。
撮影/サカイ デ ジュン スタイリング/白島茉奈 ヘアメイク/中村曜子 インタビュー/斎藤 岬(kodomoe2026年2月号掲載)


































