2025年9月20日

俳優・向井理さんインタビュー「幼いころのサッカーで身につけた、全体を俯瞰で見る力が、今の演技に活きています」

幅広いジャンルの映像作品に出演しながら、定期的に舞台での演技を重ねている向井さん。今回は、劇団☆新感線の45周年公演に出演し「狂言作者」という役に挑みます。舞台だからこそ感じる言葉の重みや、自身に求められているであろう「俯瞰する」ことについて、さらに子ども時代に夢中になったサッカーや読書体験についても語っていただきました。

むかいおさむ/俳優。1982年生まれ、神奈川県出身。2006年にドラマ「白夜行」(TBS)で俳優デビュー。数々の話題作に出演し、ドラマ・映画・CMなどで幅広く活躍するほか、その知性や声色を活かし、ドキュメンタリー番組のナレーションやナビゲーターも多数務めている。近年の主な出演作に、舞台『ウーマン・イン・ブラック』や映画『パリピ孔明 THE MOVIE』、ドラマ『藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ』などがある。劇団☆新感線には『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)』以来、3作目の参加。

舞台全体を見ながら演じる
「狂言作者」という役

――劇団☆新感線の舞台に出演されるのは3回目です。劇団☆新感線の作品にはどのような魅力を感じていますか?

最初の参加は『髑髏城の七人』Season風で、次は『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)』。思い返してみると4年ごとにやっているということで、オリンピックみたいな感覚で参加させてもらっています(笑)。新感線の舞台はやっぱり「お祭り」だと感じますね。劇団員の方たちが自由にやって、僕や今回一緒に出る(早乙女)太一くんや小池(栄子)さんがバランスを取っていくような感じですね。とにかくみんなふざけることに対してもとことん真面目なんですよ。手を抜く人なんて一人もいません。どうやったら作品がおもしろくなるかを真剣に考えながら思いっきりやっていて、久しぶりに新感線イズムを感じているところです。

俳優・向井理さんインタビュー「幼いころのサッカーで身につけた、全体を俯瞰で見る力が、今の演技に活きています」の画像1

――今回、狂言作者・真狩天外と、芝居を憎む堅物・藤川采女の2役を演じられますが、特に「天外」は、全体を回すような役柄です。前回の『狐晴明九尾狩』でもそうでしたが、座付き作家の中島かずきさんが向井さんをイメージして“あて書き”した、と。

「天外」は、物語を動かして全体を回す立場なので、常に俯瞰して舞台を見ていなければならない役だと感じています。僕自身、普段からそういう見方をする癖があるみたいですね。あて書きをされているということは、それを見抜かれているんだなと思います。あて書きって、この人にこういうセリフを語らせたらおもしろいんじゃないかと考えていくわけで、それって人間の本質を突き詰めていく作業でもある。何を考えているかすべてバレているようで、恥ずかしいですよ(笑)。

――向井さん自身は1年に1本は舞台でのお芝居に出るように意識されていますよね。映像作品との違いはどういうところにありますか?

こんなにも同じセリフを繰り返し言うのは、舞台だからこそです。映像だと数回言って終わりになりますが、舞台では稽古から本番まで何百回と繰り返すので。以前、映像作品に立て続けに出させてもらっていた時期に、言葉に対して申し訳ないという気持ちになったことがあったんです。決して、映像が言葉を大切にしていないというわけではありません。ただ僕が勝手に思い込んでしまったんです。1週間で70ページ分をしゃべったこともあって、追い込まれていたんでしょうね。セリフを次から次へと言っているうちに「もっと大事にしたい」という気持ちが出てきて。その点、舞台は何度も何度も繰り返しますから、そこは圧倒的な違いだと思います。

俳優・向井理さんインタビュー「幼いころのサッカーで身につけた、全体を俯瞰で見る力が、今の演技に活きています」の画像2

――劇団☆新感線では、向井さんは特にセリフ量が多いですが、それでもそう感じるんですね。

セリフを覚えるのは、僕の中ではあくまでも準備運動だし、覚えてやっとスタート地点だと思っています。前回に続き今作でも、舞台を俯瞰して理解し、話を回さなければならない立場で、ただ覚えてしゃべっていればいいわけじゃないんです。状況を整理して伝えたり、全体を引き締め直したり、言葉を一つひとつ置くようにしたりしなければなりません。ペラペラ話せばいいのではなく、抑揚や息づかいでも表現する必要がある。あて書きされているってことは、期待してくださっているということなんだろうな、と感じています。

俯瞰する術は、
サッカーで身につけた

――そういう俯瞰する性質は、どこからきているんでしょうか? 幼いころからですか?

子どものころは、外で遊んでばかりでしたね。小学生でファミコンが出始めたんですけど、目が悪くなるからダメだって買ってもらえなくて。中学生でお小遣い貯めて買ってやってたら視力が1.0から1.5になって、どういうことかと思いました(笑)。ちょうどそのころJリーグが発足して、横浜市民としては当然、横浜マリノスを応援するようになって。もちろんサッカーも始めました。元日本代表の井原正巳選手に憧れてディフェンスだったんですが、俯瞰するくせは、そのころからあったのかもしれません。

俳優・向井理さんインタビュー「幼いころのサッカーで身につけた、全体を俯瞰で見る力が、今の演技に活きています」の画像3

――全体を見るポジション、ということですか?

そうですね。前に出るのではなく、味方も敵も含めて後ろから動きを見ながら指示を出していました。最初からそういうタイプだったわけじゃないですよ。失敗したからこそなんです。裏を取られちゃったり、逆サイドでピンチになったりして、ボールだけ見てちゃいけないんだって。そういうところから一歩離れて全体像を見られるようになったのかもしれません。

説明できない「何か」を求めて
繰り返し読む絵本

――そんなころから……すごいですね。サッカーや外遊びをしつつも、絵本もよく読まれていた、と。おすすめの一冊を教えてください。

子ども心に強く残ったのが絵本『モチモチの木』(斎藤隆介/作・滝平二郎/絵)です。めちゃくちゃ怖くないですか。いい話ではあるんですけど、読んだらトイレに行けなくなりましたよ(笑)。本と一緒に朗読のテープも持っていて、それがまた怖いんです。黒柳徹子さんの語りで風の音とか効果音がリアルで。でも、怖いなかにもメッセージがありますよね。いつか独り立ちをしなければならないんだ、と。

――「豆太」が病気の「じさま」のために、夜中に一人で山を降りるというシーンですね。

幼いながらに、擬似体験のように感じていたんだと思います。いつか自分の親が同じような状況になったら、僕もこれをやらなきゃいけない。当時は「独り立ち」という言葉を知らなかったけれど、意識はしていた気がします。怖いことに立ち向かわないといけない日が来るかもしれないって。それでもやっぱり、怖いんですよね。特に「ねまきのまんま。」「はだしで。」っていうところが。

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――モチモチの木に対しての怖さではなく、そこなんですね。

もちろん、夜のモチモチの木が大きな手のように見えるのも怖いんですが、それよりも裸足で走っていかなくちゃいけない状況のほうが攻撃力がありましたね。それくらい切羽詰まっているんだとわかるし、「しもが 足に かみついた。」「足からは ちがでた。」って、身体的な苦痛も味わっているから、余計に恐ろしさが倍増するんです。なんならおばけよりダメージが大きいんだなって思っていました。

――すごく内容を覚えていらっしゃるんですね。何度も読まれたことがわかります。

怖いんだけど、本当に繰り返し読みましたね。読み込めば読み込むほど、その日の気分によって違う風景が見えてきて、おもしろかったんだと思います。だから、自分も子どもから同じ絵本を何度も読んでほしいと言われても、読むようにしていました。

――ご自分の体験があったから、というわけですね。

結末がわかっていても読み直すということは、何か違うものを見つけるきっかけになるのかもしれないと思うんです。試行錯誤しながら読んでいるというか、説明できない何かがあるんだろうな、と。だから読んでって言われたら読むようにしていました。本当は早く寝たいんですけどね(笑)。気持ちはよくわかりますから。

INFORMATION

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2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演
チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎
『爆烈忠臣蔵〜桜吹雪THUNDERSTRUCK』

江戸時代を舞台に、歌舞伎の名作「忠臣蔵」を上演するため、芝居作りに情熱を傾け、奔走する演劇人の姿を描く。劇団☆新感線が45年で上演してきた作品のセルフパロディ、セルフオマージュの要素も詰め込み、笑い満載、歌や踊り、立ち回りもたっぷりな極上のエンターテインメント。

出演:古田新太、橋本じゅん、高田聖子、粟根まこと、羽野晶紀、橋本さとし
小池栄子、早乙女太一、向井理 ほか
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり

【公演スケジュール】
日時:9月19日〜23日
場所:松本・まつもと市民芸術館

日時:10月9日〜23日
場所:大阪・フェスティバルホール

日時:11月9日〜12月26日
場所:東京・新橋演舞場 にて上演。

詳しくはこちら https://www.vi-shinkansen.co.jp/bakuretsu45

インタビュー/晴山香織 撮影/馬場わかな スタイリング/外山由香里 ヘアメイク/宮田靖士

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