2022年11月2日

テレビプロデューサー・佐久間宣行さんロングインタビュー。子どものおかげで他者が何を考えているのか考えるクセをつけられた【後編】

「あちこちオードリー」(テレビ東京系)など、数々の人気番組のプロデューサーを務める、佐久間宣行さん。裏方として多忙な中、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍中です。
kodomoe webでは、本誌の貴重なインタビュー全編を公開。前編ではカルチャー好きになったきっかけや、ご両親に反対されたテレビ東京への入社についてなどを語っていただきました。後編ではご自身の子育てについてなどをうかがいます。

さくまのぶゆき/1975年、福島県生まれ。テレビプロデューサー、演出家、ラジオパーソナリティ。「ゴッドタン」や「あちこちオードリー」(ともにテレビ東京系)などを手がけ、2019年からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」も大人気。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)など。

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結婚、子育てで変わった
仕事に対する意識

テレビ東京入社後は、深夜ドラマのADからスタート。その後「TVチャンピオン」などで経験を積みながら、入社3年目で当時としては異例のプロデューサーデビューを果たす。そして私生活では27歳のときに、同局で働く女性と結婚することとなる。

――結婚、そして娘さんの誕生とライフステージが変化したことで、ご自身のキャリアにどういう影響があったと思われますか。

テレビ業界の中では僕は結婚が早い方でした。まだ同期で結婚をしている人もいなかったですし。そして僕が31歳のときに子どもが生まれるのですが、そのときは人生の中で一番仕事が忙しい時期でもあったんですよね。

子どもが生まれる直前も、9日間連続で会社に泊まっていて家に帰れていませんでした。それは仕事を詰めることでなんとか出産に立ち会いたいという思いもあったのですが、ちょうど3番組の立ち上げ時期とかぶっていて。全然家に帰れないまま、特番のロケでキングコングと大分に行っていたときに、妻から「地元の病院で破水した」と連絡が入ったときは焦りましたよ。予定日より1週間くらい早かったので。それからロケを終えて湯布院から福岡へ行き、福岡から飛行機に乗り、羽田からタクシーで妻の実家がある横浜方面に行って、なんとか生まれる瞬間には立ち会いました。

――大移動ですね! 間に合ってよかったです。

でも、それからが大変でした。仕事量が多い中で、当時はまだ現役バリバリのディレクターが「子どもがいるから」という理由で休みを取ることができない時代でしたから。仕事と子育ての両立にはかなり苦しみましたね。子育て自体は本当に喜びに満ちたものであるはずなのに。 

――そうですよね。当時は社会全体がまだ男性が育児に参加する設計にもなっていませんでしたし。

特に当時のテレビ業界は夜10時から会議がスタートするなんていうことも当たり前で、徹夜仕事も平気でありました。

――奥さんが同じ会社ということは、まだ仕事に対する理解はあったのでしょうか。

そうなんです。妻が同じ会社の社員だったことが唯一救いでした。帰れないのがウソではないというのはわかってくれていたので。そしてこのままの働き方では子育ては難しいと気づいてからはもう早々に、妻のご両親と同じマンションに引っ越しをしました。

――頼れる方々が身近にいてよかったですね。

実は結婚してすぐの段階で、気に入ってたマンションを買っていたんですよ。そこも2、3年ですぐに売りました。このまま夫婦だけで子育てをするのは無理だなと思ったので。これは必ずしも全員ができる選択ではないけれど、近くに妻のご両親がいたのは幸いでした。助けてもらいながら子育てをして、なんとかディレクターを続けられましたから。

――お仕事でも成果が求められる大切な時期ですもんね。

最初は悔しい思いもたくさんしました。仕事で同期に差がつけられてる気がしたんです。彼らは平気で徹夜もするし、自分の時間をすべて仕事に使えますからね。正直に言うと、僕も家族との時間をちょっと減らせたら、もっと多く番組を持てたのにと競争心が湧いてしまったこともあります。

でも、「子育てで時間が取られている」という考え方自体が間違いなんですよね。子どもが小さい頃の思い出って、後からは再現できないですから。自分の子どもはどうしても驚異的にかわいく見えるという贔屓目もありますが、あるときにふと、自分は今とても貴重なかけがえのない時間を過ごせているのだと気づいたんです。それに子どもとのコミュニケーションの中で僕は人生をもう一回生き直してるという実感がありました。一緒にいろんなものを新しく覚えていく感じがしたんです。

――たしかに、世の中に対する視点やまなざしが大人と子どもとでは違いますもんね。

たぶんですけど、僕が働き方の問題や、部下や後輩に対する接し方、ハラスメントの意識に注意深くなれたのは、早い段階で子育てを経験しながら働いていたからだと思うんです。子どものおかげで、それからは他者が何を思っているかを考えるクセがつきました。

――まさに理想的な上司。ほかに気づいたことはありますか?

幼稚園に入れることの大変さや、働きながら子どもを育てる制度が全然整っていないことなどもびっくりしましたね。

――これまでのお話だけでも、佐久間さんが忙しい中でしっかり子育てに参加してきたことが伝わってきます。

まあそれを僕が言っちゃうと、妻は「そんなことない」って言うと思いますが(笑)。でも、できるだけ学校行事には出ていましたし、幼稚園にも送っていました。今でもお弁当は作っています。

育児がきっかけで生まれた
新しい番組のアイディア

――お子さんが小さかった数年間は好きなエンタメもほとんど観られていないと思いますが、子育て世代の方におすすめできるようなエンタメ作品などはありますか。例えば、育児の最中でも少し気が紛れるものとか。

まあでも、ラジオは当時も聴いてましたよ。

――じゃあ「kodomoe」のママパパたちにも佐久間さんのラジオを聴いてもらいましょう!

そうですね(笑)。育児や子育ての話もできますから。

――今はRadikoでいつでも深夜ラジオが聴けますもんね。ほかにはありますか?

あとは……Spotifyのポッドキャスト。ちょっと聴いてみたら楽しいものがたくさんありますよ。特に僕のおすすめは「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO(コテンラジオ)」。世界の歴史を面白おかしく全部語り尽くしてくれるんです。あとは、「叶姉妹のファビュラスワールド」や「氷川きよし kiiのおかえりごはん」もいいですよね。

――なるほど、忙しいみなさんに「ながら聴き」ができる音声コンテンツをおすすめするというのはすごく腑に落ちました。では実際に、佐久間さん自身がお子さんと一緒に楽しんでいたコンテンツは何ですか。

子どものおかげで、Eテレの面白さを知りました。あと「プリキュア」や「アンパンマン」などが子どもを惹き付ける構造はとても興味深かったです。

――構造を気にするとは、さすがプロデューサー目線ですね。

それらを参考に「ピラメキーノ」という子ども向けの番組を立ち上げたのですが、あれは子どもがいなかったら浮かばなかったアイディアでした。我が子の生活を見ていて、今は基本的に夕方の時間帯は未就学児のための時間なのだと知ったんです。そして子ども向けのバカバカしいお笑いの番組が当時なかったことに気づき、企画書を出しました。子どもの反応も大事にしながら作ったので、番組が当たったのは本当に娘のおかげだと思います。なんやかんや、娘にモテたかったんでしょうね。

――その娘さんはもう高校生ですよね。今では逆におすすめのコンテンツを教えてもらうということもあるのでは。

Vチューバーとかはそうですね。「にじさんじ」(iOS向けのスマホアプリを使用したバーチャルライバーグループ)は娘に教えてもらいました。剣持くん(※)とか壱百満天原サロメ(※)とかの実況も全部、娘が教えてくれています。あとはお互い「少年ジャンプ+」を読んでるので、その話などもしていますよ。

――順調にエンタメ好きの血を受け継いでいますね。

娘はカルチャーの話に関しては僕とばっかりしていますね。もうオタク同士の会話ですよ(笑)。

――子どものメディアリテラシーの問題も近年叫ばれていますが、コンテンツ選びや時間制限に対して、家庭内でのルールはありますか?

テレビはそもそもあまり観ていなかったので注意することはありませんでしたが、ネットはある程度制限していました。娘は小学校高学年ぐらいから携帯電話を持っていたので、それは夜8時になったら回収していました。今はもう高校生なので任せていますが。でも、任天堂のSwitchとかは鍵のかかる棚に入れたりします。

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コロナ禍が生んだ
父娘の特別な時間

――昨年テレビ東京を退社し、フリーになられましたね。改めておめでとうございます。

親父が55歳で亡くなったので、その年齢をずっと意識して生きてきました。僕が45歳になったとき「親父が死んだ年まであと10年か」と思ったら、社内政治なども気にせずにもっと好きな仕事をやった方がいいんじゃないかと思ったんです。あと、ストレスのかかることをやるのは精神衛生上よくないなとずっと思っていたんですよ。これからは楽しいことだけをやろうと思ったのも、フリーになったきっかけですね。

――会社員からフリーに転身されたことで、ご家族との関係に変化はありますか。

家族は応援してくれていますよ。環境の変化でいうと、なによりコロナ禍の影響のほうが大きいかもしれないですね。

――たしかに、自宅にいる時間が増えましたもんね。

娘も学校がリモート授業になったんです。ふた月ずっと一緒に家ん中にいておしゃべりするなんて、今までなかったからある意味で特別な時間でした。

――年頃の娘さんとのおしゃべりは貴重ですよね。

人がまったくいなくなった夜中にふたりで散歩もしました。

――パーソナリティを務めているラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」でもご家族のエピソードは結構出てきますよね。「2022年日本民間放送連盟賞」ラジオ番組部門(東京地区審査)1位となった放送回も娘さんとのお話でした。

娘と一緒に箱根神社に旅行に行った話ですね。最初は素直に「一緒に行こう」とは言えなかったけど、行くと決まってからはその裏で、着ていく服やおいしい食事処や撮影スポット、道中に娘と盛り上がりそうなトークなど、万全の準備をしていたっていう。

――まさに佐久間さんにとっての「伝説の1日」ですね。父と娘それぞれの相手に対する思いやりやいじらしさが伝わってきてぐっときました。いい思い出ですね。

これ、もちろん僕の思い出でもあるんですけど、同時に娘の思い出でもあるんですよね。だからこそ大事にしたかった。

僕の親父は死んでしまったから、もう僕は親父と思い出を共有することができないんですよ。思い出すことしかできない。もう少し長生きしてくれれば孫を抱かせてあげられたのにとか、親父が喜ぶ仕事がたくさんできたのになとか、今でも思います。番組のエンドロールの名前一つでも喜んでくれたんじゃないかな。お袋は喜んでいたので。

――それを思うと、今、福島で「サクマ&ピース」(福島中央テレビで2021年10月から不定期に放送されている佐久間さん出演のバラエティ番組)が放送できているのは本当に親孝行ですね。

ありがたいです。そして親っていつ何があるかわからないので、早い段階から子どもにはたくさん一緒の思い出を作ってあげたほうがいいと思いますね。

――子育てにおいてご自身が、ご両親から影響を受けていると思う部分はありますか。

親父は仕事人間だったので、子育てよりも仕事に対して影響を受けています。言い訳をすることなく、周りから慕われていた人だったので、そのスタンスは引き継ぎたいと思っています。

子育てに関してはやはりお袋ですかね。たぶんいろんなことがあったんだろうけど、お袋は昔から家の中ではとにかく明るくて面白い人だった。だから僕も仕事で嫌なことがあっても、家では面白くしていようと思っています。娘としゃべるときもどうせなら笑わせてやりたいと思ってしまうのは、母親の影響かもしれないです。

――家の中で奥さんや娘さんが思い切り笑っている画が浮かびます。

基本的に妻も娘も面白いんですよ。娘から毎日LINEが送られてくるんだけど、夏休みに入った直後に来たLINEもめちゃくちゃ面白かった。まあ、ラジオでも娘の話をネタにすると「お金とるよ」と言われているので、内容までは言いませんが(笑)。

――仲良しですね! では最後に「これから家族でこういうことをしたい」ということはありますか。

フリーになってから忙しくさせてもらっていて、家族旅行に行けていないんです。妻と娘はふたりで旅行に行っているのですが、来年は僕も加わりたいですね。実は取材を受けている今日もふたりは旅行中で、朝にエッグベネディクトを食べてる写真が送られてきました。いつも3人で行く家族旅行は安いホテルなのに、ふたりはリゾート風のいいホテルに泊まっているんですよ。僕がいるときはカレーがまずいホテルに泊まったのに……(笑)。まあ、それもいい思い出なんですけどね。これからも家族との些細な思い出を増やしていきたいです。

INFORMATION

テレビプロデューサー・佐久間宣行さんロングインタビュー。子どものおかげで他者が何を考えているのか考えるクセをつけられた【後編】の画像3『佐久間宣行の
ずるい仕事術』
ダイヤモンド社 1650円
佐久間さんが、テレビ東京での22年に及ぶサラリーマン生活の集大成として書いたビジネス書。「なぜ好きなことばかりできるのか?」、その秘密を惜しげもなく公開しています。

インタビュー/綿貫大介 撮影/キッチンミノル

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