2016年11月27日

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

11月のテーマは「暖房絵本」

ぶるるっ。ぐっと冷えてきました。
昨日はあったかかったのに、
明日は、東京でも積雪の予報。

こんな夜は、
こころだけでなく、
からだもあったまりそうな絵本を読んで、
暖をとることに。

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】の画像1

まずは、オレンジ色に火照る表紙、
『だんろのまえで』を。

雪の降る山の中、道に迷ってしまった「ぼく」は、
ドアのついた大きな木を見つけます。
開けてみると、中はまっくら。
ろうそくの灯を頼りに、声のするほうへいくと…

暖炉で薪がパチパチと燃えています。
うさぎが1匹、火を見ながら
「ここに すわって あたたまりなよ」
気づくと、まわりにも、動物たちが休んでいるみたい。

寒い雪景色から一転して、深い暖色の暗がりへ。
闇のなかに揺らぐ、一本のろうそくのあかりを見つめたあと、
あかあかと燃える暖炉の火へ導かれる流れ。
画面の火の色が、だんだんと気持ちを落ち着け、
冷えた体をほぐしてくれます。

「つかれたら やすめばいいんだ」
というウサギのことばが耳にしみます。

じんわりと、火の力。
芯まであったまったら、
自分でドアを開けて、外に踏み出せそう。

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】の画像2

『だんろのまえで』
鈴木まもる/作 教育画劇
本体1100円+税 2008

 

 

夜の暖房は、『わたしのゆたんぽ』に、おまかせ。
ピンクじゃなくて、ももいろと
エンジがかった赤を組み合わせた表紙。
昭和のふとんの配色に、おかっぱの子とゆたんぽが、マッチ。

「わたし」は、ゆたんぽが大好き。
でも、ゆたんぽは、わたしのこと好きじゃないのかな。
冷たい足をきらって、逃げるのです。
ある晩、ゆたんぽは窓から外へ、本格的に逃げ出しました。

「こら、おまちなさい!」
わたしの足は(『ワンピース』のルフィさながら!)
ぐんぐん伸びて、寒空の下、
逃げるゆたんぽをどこまでも追いかけていきます。

頑張るゆたんぽ。
負けじと頑張るわたしの足。
ついには、銀河の片隅、小さな惑星までたどり着き…!

ちょっと不便でなつかしい、
ゆたんぽ愛がゆかいに伝わってくる。
身近で壮大、レトロで未来的な?
夢みる生活絵本。

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】の画像3

『わたしのゆたんぽ』
きたむらさとし/作 偕成社
本体1200円+税 2012

 

 

室内でちぢこまっていると、
「子どもは風の子」なんて、
昔はよく言われたものですが。

『ひめねずみとガラスのストーブ』は、
風の子なのにさむがりなフーが主人公。
「くまストーブ店」で、それはそれは美しい
ガラス製の小さなストーブを買い求めます。

森の奥で、こっそり火にあたっていると、
もうひとりの主役、
小さなひめねずみが寄ってきて、友達になります。

小さなおなべでスープをこさえ、
やかんでお茶もわかします。
おだやかに楽しいふたり暮らし。

そんな平和な日々は、つかの間。
日の暮れない国からきたという風の子オーロラといっしょに、
フーは、知らない世界へ旅立ってしまうのでした。
「ストーブの番していてくれる?
すぐに帰ってくるから。ね、ね」と、ひめねずみに言いのこして。

安房直子さんが1969年に発表していた童話の絵本化。
「やわらかーいみかん色」の火や、
春の若葉にくるまっているような「みどりいろのあたたかさ」など、
色彩に富んだ、みずみずしいことばを
降矢ななさんが豊かに表現しています。

あたたかくて、さびしくて、はかなくて、でも、やさしくて。
ひとことで割り切れない、詩情あふれる物語を、
ゆっくり親子で味わう冬も、いいですね。

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】の画像4

『ひめねずみとガラスのストーブ』
安房直子/作 降矢なな/絵
小学館 本体1500円+税 2011

 

 

どこにでも、さむがりはいるようで。
『さむがりペンギン』は、
氷の上で、ひとりしょんぼり
「すごく さむい」

なんとか寒さをしのごうと、
あれやこれや試します。

「マフラーあんだら、どうかな?」
「たきびをしたら、どうかな?」

どれも、からきし
「だめみたい」

試しては挫折して、しょげるペンギンの表情が、
哀れっぽくも、笑っちゃう。
さて、防寒具より、焚き火より、
寒さに効く「暖房」は?

2016年11月刊の拙訳。
帯(シール)のメッセージは、
「いっしょにあったまる?」です。
クリスマスからバレンタインまで、
ちっちゃい子から大人まで、冬の贈り物にどうぞ。

11月のテーマは「暖房絵本」【広松由希子の今月の絵本・57】の画像5

『さむがりペンギン』
コンスタンツェ・フォン・キッツィング/作 ひろまつゆきこ/訳
小学館 本体1200円+税 2016

 

 


うん。さむがりも、わるくない。

親子いっしょにあったかくして
暖房絵本を楽しめる、
よい冬をお迎えください。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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