11月のテーマは「リスの絵本」【広松由希子の今月の絵本・1】
「こどもMOE」本誌でも、今年刊行された絵本から
おすすめを厳選してくださった、絵本研究家の広松由希子さん。
毎月、季節に合った絵本をご紹介。
11月のテーマは「リスの絵本」
散歩の楽しい季節です。高い空、色づく木の葉……上を向いて歩くのもいいけれど、秋は下を向いて歩くのもいいですね。
落ち葉を足でガサゴソしながら、あ、どんぐり。こっちにも。あっちにも。
見つけるたび、うれしくて、リスになった気分です。
そんなわけで、今月の絵本のテーマは、リス。
本棚をきょろきょろ探したら、大好きな「リス絵本」がいっぱい。
まずは、とびきりの古典絵本、『りすのナトキンのおはなし』。
1903年英国生まれのリスの子の、なんて生き生きしていること!
ちょろちょろ走ったり跳ねたり、こりこりドングリかじる仕草。茶目っ気たっぷり、お調子者な性格。
しっかり写実画なのに、とっぷり感情移入してしまう。
「これから するのは、しりきれしっぽのおはなしですーー」と、思わせぶりな始まり。
主人公の赤リス、ナトキンは兄弟やいとこといっしょに「ふくろう島」へ出かけます。<
お行儀よいリスたちは、フクロウのブラウンじいさまにご挨拶。
「どうぞあなたのしまで、木のみをとることを おゆるしくださいませんか」
ところがナトキンだけは大胆不敵。じいさまに「なぞかけ」して、しつこくちょっかい出します。
初めは無視していたじいさまの、次第にいらだつ態度に、ハラハラ。
動物の生態を親しく学び、こよなく愛したビアトリクス・ポター。
生物の厳しい掟のなかに人間的なユーモアがしっくりとけた物語。
「ピーターラビットの絵本」シリーズでも、特に好きな一冊です。
『りすのナトキンのおはなし』
ビアトリクス・ポター/作
いしいももこ/訳
福音館書店 定価735円
こちらは、この秋生まれたて。しっぽがぐるぐるの『ぐるぐるちゃん』。
絵もポターとは対照的に、のびのび奔放、隙だらけの魅力。
作者は「ミナ ペルホネン」のデザイナー、現在ドイツで子育て中の長江青さんです。
森でお母さんといっしょにドングリを拾うぐるぐるちゃん、
お口にあーん。お母さんにも、あーん。
ふたりのほっぺは、ドングリいっぱい、ぷくん、ぷくん。
おなかいっぱい、幸せいっぱい。
なかよし親子の気持ちがうつる、秋のよろこび満腹の赤ちゃん絵本です。
『ぐるぐるちゃん』
長江青/作
福音館書店 定価840円
一体だった親子から、自立する子どもを描いたのは、『子リスのアール』。
甘えん坊でちゃっかり者の子リスが、自分でどんぐりを見つけられるようになるまでの
ゆるやかな成長がゆかいに描かれます。
『くまのコールテンくん』で知られるドン・フリーマンの初期の未発表作が、没後に出版、邦訳されました。
スクラッチボードに描かれた白黒画面に、
女の子がくれたスカーフと、興奮した牛の眼だけが真っ赤なアクセント!
ページ数は多くても、明快でリズミカルな展開。
元気なアールに引っ張られ、3歳くらいから楽しめます。
『子リスのアール』
ドン・フリーマン/作
やましたはるお/訳
BL出版 定価1,365円
最後にちょっと変わったリス絵本、『おひっこし』を。
ここに出てくるリスたちは、他の絵本のリスのように「名前」がありません。
それどころか、何匹いるかも、目的も意思もわからないまま、
ぞろぞろぞろぞろ絵本のなかを歩いてゆくのです。
キャラクターが重んじられる絵本の世界で、この没個性は、超個性!
一作ずつ新しく過激な表現の絵本を、のほほんと送り出す100%ORANGEのおふたり。
豆粒みたいなリスたちのとにかくたくさんの行列や、
一粒ずつドングリを抱え、枝に鈴なりに並ぶ様子を見ていると、
不思議な感覚――少し不気味で、やんわりとゆかいな気持ちに包まれます。
そして、子どもの頃からの「リス好き」をあらためて自覚したり、
こういう、ちょっと頭では消化できないような絵本こそ、
子どもといっしょに読みたいなあと思ったりするのでした。
『おひっこし』
及川賢治、竹内繭子/作
学研 定価1,260円
親子で秋の絵本散歩、リスたちといっしょに楽しんでくださいね。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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