2月のテーマは「あなが好き!の絵本」【広松由希子の今月の絵本・27】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
2月のテーマは「あなが好き!の絵本」
掘るのが、うれしい。
入るのも、うれしい。
のぞくのも、楽しい。
子どもは、とってもあなが好き。
見渡せば、あな絵本もいろいろ、
すごく面白いものがいっぱい。
まずは、元祖あな絵本!
横長の絵本を縦にめくる、あなを掘るようなかたち。
表紙から裏表紙を貫く、まるごとあなのイメージ。
谷川俊太郎さんと和田誠さんの『あな』です。
日曜日の朝、なにもすることがなかったので、
あなを掘り始めた、ひろし。
妹が「あたしにも ほらせて」と言っても、「だめ」。
友達が「なにに するんだい」と聞いても、「さあね」。
汗かき、せっせと掘り続けたあと、
穴の底に座り込んで、思います。
「これは ぼくの あなだ」
あなを巡る、さまざまな思い。
母さんや父さんら、ひと言ずつの会話にも、
それぞれの関係が感じられて、面白い。
あなという「無」を生み出す行為、
無意味な意味とか、無の奥に見出すアイデンティティとか、
あれこれ考え出したら、掘っても掘ってもまだまだ掘れる
深ーい哲学的あな絵本。
でも、なんにも考えないで
親子で面白がって読むのが、また最高。
『あな』
谷川俊太郎/作 和田誠/画
福音館書店 本体800円+税 1983
いやもう、がしがしと、
ひたすら穴を掘りたいむきには、
石井聖岳さんの『ワニ、あなぼこほる』がおすすめ。
ワニ1匹、スコップ片手に「ぎっひっひ」。
獰猛な顔つきで、なにをするかと思えば、あな掘りです。
そこへ他のワニたちも、
「うおー あなぼこ あなぼこ!」
よってたかって、むらがって、
ざくざくひたすらあな掘りです。
ショベルカーもブルドーザーも出てきて、
これでもかと、壮大なあな掘りのあげく、
生まれたものとは……!
ゴツゴツの重機といい、ごわごわのワニ皮といい、
ごっつい硬派のあな掘り絵本。
でも、硬派なヤツほど、
愛らしかったりもするのよね?
『ワニあなぼこほる』
石井聖岳/作
イーストプレス 本体1300円+税 2010
もっとストイックに、
頭を使い、目標目指して
あなを掘り進めたい人には、
川端誠さんの『地球をほる』があります。
夏休み、つよしは隣のけんたと
地面にあなを掘って、
庭から地球の裏側に旅行に行くことに。
マグマを避けて、斜めにマントルを掘り、
アメリカに出ることにしたり。
着いたとき、言葉に困らないように、
英語のできるお姉さんも誘ったり。
賢く計画的に行動する子どもたち。
持ち物や、道中の物資補給はどうするか、
あなの幅や、角度を確認して……
ばかげたスケールのあなを、
リアルなディテールで綿密に掘り進める絵本なんです。
そして、あな掘りの方向にそって、
絵本の向きも、だんだん回転していって、
ぐるり180°!
ボコッ。
「ついた!」
“Oh, What!”
むむむ。
徹底して計算されたあな絵本です。
『地球をほる』
川端誠/作
BL出版 本体1400円+税 2011
もうすこし、しっぽり、すっぽり、
あなにはまりたい方は、
片山令子さんと健さんの
『あな』に、どうぞお入りくださいな。
のうさぎさんは、朝から
なんにもする気が起こりません。
「ときどき こうなるんだ。
……
わたしは からっぽの
きもちなんだわ」
からっぽと言っても、
コップやバケツのからっぽとはちがうし……
自分の気持ちにぴったりの「からっぽ」を探して、
のうさぎさんは、あなを庭に掘り始めます。
ちょうどいいあなに、すっぽり入って、
「そうそう。こんなかんじ。
しーんとして ひんやりして、
おおきな からっぽなの」
あなの底は、土のいいにおいがして、
「こうしてると あんしんする」
あなから空を見上げていると、
また、むくむくいいこと思いついちゃったり。
あながもたらす、小さな幸せのお話。
『あな』
片山令子/文 片山健/絵
ビリケン出版 本体1300円+税 2005
さてさて、
いろんなあなの深みにはまってきましたが、
あな好き作家No.1といえば!
井上洋介さんのあな絵本を
忘れるわけにはいきません。
半世紀以上も昔、すでに
「絵本アナボコ氏の生活と意見」という絵話を
新聞に発表されていたんですからね。びっくり。
その後、20年以上の時を経て、
無上の「あな愛」が熟成され、一冊の絵本に結実しました。
一枚漫画のアイディアが詰まった
『アナボコえほん』です。
道にも、傘にも、靴にも、電柱にも、空にも、海にも……
どこもかしこも、やりたい放題、あながボコボコ。
「そらのてっぺん
アナボコ あくと
どしゃぶりの あめ
ふってくる」
「でんしゃの ゆかに
アナボコ あくと
つりかわだけが たよりです」
あなは、ナンセンスの権化。
アナボコ好きの子どもたちを
よろこばすこと、まちがいなしです。
『アナボコえほん』新装版
井上洋介/えとぶん
フレーベル館 本体1200円+税 2008(初版は1986)
余談。
「季節感重視のweb連載なのに、
なんで2月に『あな』?」
はい。その疑問、もっともです。
実は、最初はバレンタインつながりで、
「告白する絵本」なんてどうかなーと思ってたんです。
で、本棚を眺めながら
「あなたが好き、あなたが好き」
って、つぶやいているうちに……こんなことに!
(おまけに、バレンタインとっくに終わってるし!)
あなが好き。
あな絵本、大好き。
あな掘り絵本じゃなくて、
あな空き絵本も、いいのがたくさんあるんですけどねえ。
よろしかったら、またの機会に。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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