2022年10月4日

『いわしくん』【今日の絵本だより 第321回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『いわしくん』【今日の絵本だより 第321回】の画像1『いわしくん』
菅原たくや/作 文化出版局 1430

104日は、「1(い)0(わ)4(し)」でいわしの日。
ちょうどこの日にぴったりな一冊、『いわしくん』をご紹介します。

表紙から、ニコニコ笑顔のいわしくん。
「ぼくは いわし。
 日本の 海で うまれた。」
そして、
「ぼくは およいだ。」
でも、
「ぼくは つかまった。」
そして、船に乗せられ、港に運ばれ、パックにつめられ、店先へ。
いわしくんは、
「かわれて、」
「やかれて、」
「たべられた。」

シンプルな絵と、さらにシンプルな言葉。
え、お話のなかばで、もう主人公が食べられて……?
と、こちらがあわてるすきもないくらい、お話は淡々と進んでいきます。
晩ごはんで、いわしくんを食べた男の子。
翌日、学校ではプールの授業がありました。
男の子は、笑顔で水の中へ。
そして……

「食育」、という言葉だけではくくりきれない、この絵本。
いわしくんの最後の言葉は、それ以上に何かこう、深く、長く、胸に響くものがあります。
(これはぜひ、読んで確かめてくださいね!)
「命をいただく」という言葉には、だからこそ「感謝しなくては」「残さず食べねば」という、どこかしゅんとした気持ちもまつわるものですが。
『いわしくん』を読んだ後に残るのは、すがすがしさと晴れがましさ。
最後の場面の、いわしくんの瞳の輝きといったら。
「食べる」ことから「かわいそう」という気持ちをなかなか切り離せない方は、ぜひご一読を。
「いただきます」と「ごちそうさま」を、今までより元気に言いたくなるかもしれません。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ