『おじいちゃんのたびじたく』【今日の絵本だより 第239回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『おじいちゃんのたびじたく』
ソ・ヨン/文・絵 斎藤真理子/訳 小峰書店 1540円
今年は、9月20日が敬老の日。
今回は、晴れやかな笑顔のおじいちゃんが表紙の絵本、『おじいちゃんのたびじたく』をご紹介します。
ある日の真夜中。
静かなおじいちゃんの家に、トントンとドアの音。
やってきたのは、小さくて白くてほわほわな姿のおきゃくさま。
「とうとう来たね、まってたんだよ!」
真夜中に突然の来訪者なのに、おじいちゃんは大喜び。
早速いそいそと、旅に出る支度を始めます。
たんすの下から、隠しておいた秘密のコインを取り出して。
それからお鍋で卵を7個ゆでて、しっかりと包みます。
「むこうについたら おくさんが
むかえに来てくれますよ」
というおきゃくさまの言葉に、
「ほんとかい!」
と、おじいちゃんは大興奮。
おひげもきれいに剃り上げて、おくさんが好きだった服に久しぶりに袖を通し、すっかりおめかしができました。
そう、これはおじいちゃんの、この世からの旅立ちの物語。
でも最初から最後まで、お話にはずっと喜びとワクワクばかり。
先に旅立ったおくさんはもちろん、囲碁仲間のファンさん、それからもっと懐かしい、おじいちゃんのお母さん、お父さん。
会いたかった人に久方ぶりに会えるうれしさで、おじいちゃんは終始ご機嫌です。
「おじいちゃん、かなしくない?」
「かなしくないよ、うれしいよ。
のこるみんなには すまないけどなあ」
そして最後のページには、おじいちゃんが家族に遺した手紙。
その手紙の言葉には、何回読んでもつい涙がこぼれてしまいます。
今のこの世と別れることは、大事な人たちが待っている次のステージへと進むこと。
弾むような笑顔で出かけていくおじいちゃんの姿を見ると、残される側のお別れへの心構えも、今までとは少し変わる予感がしてきます。
発売中のkodomoe10月号「季節の絵本ノート」では、他にもおじいちゃん、おばあちゃんの絵本を計5冊紹介しています。
ぜひこの機会に、あわせてお楽しみください。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。