2021年2月26日

『ゆりちゃんのおひなさま』【今日の絵本だより 第192回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『ゆりちゃんのおひなさま』【今日の絵本だより 第192回】の画像1『ゆりちゃんのおひなさま』
花山かずみ/作 PHP研究所 1430円

 2月も終盤、もうすぐひなまつりですね。
今年のひなまつりの絵本はこちらの一冊、『ゆりちゃんのおひなさま』をご紹介します。

ひなまつりの日の朝、早くに目を覚ましたゆりちゃんは、
「みんなにも おひなさまを みせてあげようっと」
と、ねこと一緒にお人形を連れておひなさまの飾ってある部屋へ。
おひなさまに向かって、みんなを紹介します。
「これは ともだちの あひるの ガーコに くまの トコちゃん。
 そして ねこの タマです」
すると、誰かの声が聞こえてきました。
「ガーコさん トコちゃん タマさん……なんて うらやましい」

そうつぶやいたのはなんと、ひな段に並んだ三人官女でした。
「わたしたちには なまえが ありません。
 さんにん まとめて さんにんかんじょ なんて あんまりです」
口をとがらせる三人に、ゆりちゃんは名前をつけてあげることにします。
「きいろい きものの あなたは きいちゃん、
 あかい きものの あなたは あっちゃん、
 みどりの きものの あなたは みどちゃんで どう?」
三人官女、いえ、きいちゃん、あっちゃん、みどちゃんは、
「おー よきなじゃ よきなじゃ」
と大喜び。
そこへ、
「わらわにも なまえを つけてたもれ」
と、今度は一番上に座っているおひなさまからも頼まれました。
おひなさまに「ももちゃん」と名前をつけてあげると、おひなさまもやっぱり大喜び。
お礼にと、ゆりちゃんをおやしきに招いてくれることになりました。
さあ、おひなさま、いえ、ももちゃんの魔法(?)で小さくなったゆりちゃんとねこのタマは、牛車に乗って立派なおやしきへ……。

自分も小さくなってお人形の世界へ、というお話は昔からありますが、その舞台がみやびな平安時代のおやしき、というのがとても新鮮。
牛車で太鼓橋を渡り、桃の林をぬけて、おやしきの中庭でけまり遊び。
元気さと上品さの競演、桃の香りに満ちた和の空気が味わえるお話です。
読んだ後は、おうちのおひなさまにもオリジナルの名前をつけたくなりそうですよ。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

 

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